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翌朝、、、いつもよりも早く家を出たしゅうは
会社で仕事の段取りを済ませてから病院に駆けつけることになっていた。
「多分、、、10時には行けるよ」
届いたメールにはそう書いてあった。
今日は、健一郎さんが帰ってくる。イヤ、、おそらくそろそろ病院に到着する頃に違いない。
大雪の影響で空港は閉鎖。帰京の術も無く、、、
火事で怪我をした奥さんの元に駆けつける事も出来ずに、
ホテルで一夜を明かすことになった彼の心中は察するに余りある。
しかも、、、奥さんは不倫相手の部屋に居たのだ。 
  
不安、怒り、、、嫉妬、、、苛立ち、、、様々な感情が頭の中に錯綜したはずで、長く辛い夜になったはずだ。
彼の気持ちを考えると、しゅうが頭を下げたくらいでおさまる話しでは無いだろう、、、と想像は出来た。
 
    
簡単に掃除を洗濯を済ませた私は、病院でしゅうと落ち合う事を考慮し、 
 
車を使わずにタクシーで病院に向かうことにした。   
タクシーのカーラジオから流れるラジオ番組はDJの口調も、内容も、BGMも脳天気で、
寝不足のせいか耳鳴りと頭痛を抱えていた私にとっては、不愉快きわまりない雑音だった。
空気が乾燥しています。火の元には充分注意して下さいね
女性アナウンサーの言葉には耳を覆いたくなった。  
  
    
タクシーを降り、駐車場を横切ってエントランスに向かう。
車の列に見慣れた、、、しゅうのステーションワゴンが停まっていた。
携帯を取り出すと、メールが2通、、、届いていた。
1通はしゅうからで
「昨日の談話室にいる」
着信時間を見ると、もう15分以上前に病院に着いているようだった。
2通目は、、、 
  
  
涼子!?
「夫がもうすぐ来ます。あなたやしゅうさんには迷惑をかけたくありませんが、
    ヒロはしゅうさんに紹介してもらった事にします。 
          でも、私達夫婦は今回のことがなくても、もう終わっています。
                             だから、何があっても気にしないでね。」
気にしないでね、、、と結ばれているが、笑って見過ごせるような内容ではなかった。 
   
もう終わっています。   
  
涼子と健一郎さんが終わっている!? どういう意味で終わっているのだろうか?
彼等夫婦と最後に会ったのはもう随分と前の話しだが、
社交的な涼子とは対照的に温和しく控えめな健一郎さん。
笑っている彼女を優しく見守るその姿を見ながら、、、バランスの良い夫婦だなぁと思ったものだ。
離婚したいとか、考えているとか、、、そんな話しはおろか、喧嘩している様子さえ私には見せなかった。 
  
いったいいつからそんな状態になっていたのだろうか?
或いは、ヒロに逢って、付き合い始めて、健一郎さんから気持ちが離れでもしたのだろうか?
 
   
もう!いったいどうなっているのよ?
 
 
ヒロはてっきり既婚者だと思っていたのに、実際はバツイチ、独身で、、、
仲が良い夫婦と思っていた涼子のところは、彼女曰く「もう終わっている」
何が本当で、何が嘘で、、、
耳鳴りの症状はより悪化し、、、目の奥がうずくように痛くなっていた。 
     
私は早足で、混み合う受付を通り抜け、昨日の談話室に向かった。
しゅうには頼ってばかりで申し訳ないが、  
     
私の耳鳴りと頭痛を鎮めてくれるのは彼しかいないような気がした。   
    
  
  
 
談話室の入り口から中を見渡す。
昨夜は人の出入りもほとんど無かった部屋だが、朝のこの時間帯は入院患者も含め大勢の人が居た。
と、奥の席に座っているしゅうの姿が目に入った。
どうやら一人ではなさそうだ。 
 
あ!健一郎さん。
 
 
しゅうの前に座っている男性。顔は見えないが、涼子の夫、、、健一郎さんに違いなかった。
私の姿に気づいたしゅうが立ち上がって手を上げた。
座っていた男性がこちらを振り向く。やはり、、、健一郎さんだった。  
  
    
「ランさん、、、涼子がご迷惑をおかけして、、、本当にごめんなさいね」
そう言うと、健一郎さんは深々と頭を下げた。
「とんでもない、、、迷惑だなんて、、」 
     
心が痛む。
ヒロとの複雑な関係が私にもあるだけに、、、言葉を失ってしまう。   
    
「あの、、、涼子には、、、」
涼子から届いたメールが頭をよぎる。 
   
もう終わっている。   
    
健一郎さんも、、、もう終わったと思っているのだろうか?   
   
   
「逢ってきました。 もう、、、今日の午後には退院できるそうです。」
「そうですか、、、あの、、、」
「大丈夫、、、ちゃんと落ち着いて話しをしていますよ。
    昨夜一晩考える時間があったんでね、、、冷静に対応してますから、心配しないで下さい」   
     
私は横に座っているしゅうの顔を見た。
2、3度 軽く頷くしゅう。
その話しは、、、それ以上するな。
そう言っているようだった。 
      
「高橋さん、、、 ここではなんですから、ちょっと場所を変えましょう。
  
                     あ、、、その前に、、、ちょっと失礼しますね。」 
   
 
しゅうはそう言うと立ち上がって私を手招きした。
廊下はやはり大勢の患者さんやその家族、、、看護師、、、医師が行き交いまるで雑踏のような賑やかさだ。 
   
 
「あのな、、、これから健一郎さんを連れて外へ行く。 話しの内容が内容だからな。
                     どうやら、俺が思ったよりもあの夫婦、、、こじれてるぞ。」
「こじれてる?」
「うん、、、どうやらあの夫婦は以前から問題を抱えていたようだな」
「やっぱり、、、さっき涼子からメールが来たんだけど、、、内容がね、、、」  
     
私は携帯を取り出すと、涼子のメールを呼び出してしゅうに見せた。   
    
「なるほど。 もう終わってますかぁ、、、 
    今朝、ここで健一郎さんに逢ってすぐに頭を下げたんだ。
      『仕事上とはいえ、宇佐見さんを紹介したのは軽率でした』ってね、、、
  そしたら、、、『いや、それ以前からの問題ですから、、、、』って言うんだよ。
                           おしどり夫婦だとばかり思っていたけどなぁ、、、」
「・・・・・・・・・・・」
    
夫への不満、、、多くの妻が持っている事だが、得てして夫側はそれに気づかない。
   
それは、健一郎さんにもしゅうにも言える事で、 
       
「俺たち夫婦にはなんの問題も無い。」 
    
そう思っているのは実は夫だけ、、、よくあるケースだ。
   
「涼子さんとどんな話しをしたか分からんが 
   
           俺たち夫婦には本当の事を話した方が良いって思っているようだ」
「本当の事、、、」 
    
もう終わっている。
その意味を教えてくれると言うのか。   
     
「とにかく、俺は彼とどこか別の場所へ行って話しをするよ。
 
    ランは、、、涼子ちゃんの病室へ行って話しを聞いてこい。   
   
   今なら、ご両親はハルカちゃんと家に戻っているしヒロの家族も居ないから、2人だけで話しが出来る。
         4人で病室で話し合うよりも、その方が本音の話しが出来ると思うんだ。」
「分かった」
「くどいようだが、、、お前が苦しくなってベラベラと告白話しなんかするんじゃないぞ。
     人間には苦しくとも墓場まで持って行かなくてはならない『秘密』が必ずあるんだからな」 
       
その時だけ、、しゅうの目が鋭くなった。
ヒロと私としゅうの関係、、、 
     
この秘密の関係は永久に3人だけの秘密として封印される事になるのだろうか、、、
どこか身勝手なような気がした。   
   
 
「・・・・・・・・・・・分かったわ」
「それと、、、彼女の話を聞くとき、へんに同情したり、賛同したりするなよ。
                   話しが湾曲してヘンな方向へ行きかねないからね」
湾曲するとは思わないが、話し自体が長くなることにはなりそうだ。
でも、女性の場合は、お互いに相槌を打ち合いながら話しを進めていくほうがスムースなケースもある。
    
  
「気をつけるわ」
「そうだな、、、昼過ぎには戻るつもりだ。それから、医者の許可がでたらヒロにも逢っておきたい」  
   
と、時計を見ながらしゅうが言った。
ヒロの様態はどうなのだろう?
あのミイラのような状態を見る限り、昨日の今日で話しが出来るほど回復しているとは思えないが、、、
様態が急変、、、なんて事はないのだろうか?
気にはなったが、私が担当医にあれこれ聞く立場でもない。
「じゃ、、、涼子ちゃんのほうはお前が上手く話しを聞いてやってくれ。
         想像だと、、、どちらもかなり重い告白話しになりそうだぞ」
しゅうはそう言い残すと、健一郎さんの待つ、談話室に戻っていった。
健一郎さんは椅子に座りながらこちらの様子を窺っていた。
私は彼に向かって頭をゆっくりと下げ、、、
重い告白話しを聞きに、涼子の待つ病室へと向かった。
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