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涼子は処置室から一般病棟へと移っていた。
病院のほうも、、、これからたくさんの人がやって来るという事を考慮したのか、
涼子は個室に入っていた。  
  
 
「消防の人から連絡があって、、、これから事情を聞きに来るって、、、イヤだな、、、」
「そう。でも、、、仕方ないわね。 部屋の中はほぼ全焼だっていうじゃない?」
「お母さんもそろそろ到着するし、、、イヤだなぁ、、、もう逃げ出したいわ」  
  
 
シーツで顔を覆っている涼子の表情は見えないが、震える声からして目には涙が浮かんでいるに違いなかった。
  
    
「涼子、、、他の人が来る前に言っておくことがあるの。
     ねぇ、、、、、ヒロ君の事なんだけど、、、
         会社の竹内さんから聞いたんだけどね、、、ヒロ君、、、実は独身だったんだって
   
                 あなた、、、知ってた?」
「え!?」 
   
大きな声と同時にシーツがまくられて、涙で目を腫らした涼子が顔を出した。  
    
 
「独身!?って、、、誰が? ヒロ君が???」
「やっぱり知らなかったのね。  
   
       以前、結婚はしていたらしいんだけど、東京に来る前に離婚したらしいの」
「離婚!? だって、、、奥さんの話しとか娘さんの話しとか、、、よくしてたのに」
「私だって驚いた、、、結婚生活は上手くいっているような事言ってたもの」
     
「独身、、、どうして!? どうして隠してたんだろう?」
   
涼子はそうつぶやくと、ベッドの上に視線を落とした。
  
「そうなんだ、、、独身だったんだ、、、  
   
            あ、、、で、その別れた奥さん、こっちに来るのかしら?」 
 
    
 
やはり、涼子にとっても一番気になるところだろう。   
    
こういう場合、、、と言っても、幸いにそんな修羅場を経験した事はないけれど、、、
相手の奥さんが一番手強いはずで、
「この泥棒猫!」  
    
とか怒鳴りながら相手の女性に平手打ちを食らわせそうな状況だ。
ヒロが独身という事であれば、かりに彼女が居たとしても立場的にはその彼女も涼子も同等という事になる。 
   
もちろん、、、涼子が既婚者である以上、世間的には弱い立場ではあるが、、、 
  
 
「奥さんも子供さんも来ないってさ。火事の事も連絡してないらしいわ」
「そう、、、」
安堵の表情では無かったが、さっきまで逃げ出したい!と言っていた涼子とは明らかに違う。
「少しは気が楽になった?」
「うん、、、ひどい言い方かも知れないけど、、、こうなってしまったら独身で良かったわ。
     昨日までは、ヒロ君が単身赴任の既婚者って言うことで、ある意味気楽だったのにね。
         まったく、、、勝手な女だわよね、、、私って」
「勝手なのはあんただけじゃないわよ。人間なんて、、、所詮みんな自分勝手なんだから」
「ねぇ、、、なんで彼は『独身』って事を隠していたのかしら?」
それは私も疑問に思っていた。
既婚を独身と偽って女をだました、、、そんな事件や噂は良く聞くが、逆のパターンは珍しいように思えた。
「分からないわ、、、直接彼に聞きたいところだけど、当分は無理よね」
「・・・・・・・・・・」
「もし、、、彼が独身だと知っていたら、付き合った? こういう関係にならなかった?」
ベッドの涼子に質問をしたのだが、同時に自分にも問いかけてみた。
どうかしら、、、
でも、私の場合は、独身のほうが良いかなぁ、、、やっぱり。  
   
いくら単身赴任でお気楽な身分とはいえ、やはり奥さんの陰はちらつく。
私達の場合は交際そのものが「約束事」の上に成り立っているのだから、例えば、ヒロから求婚されたり、
逆に私がしゅうと別れてヒロと一緒になるなんて事はあり得ない。
であれば、しがらみの無い独身のほうが気楽といえば気楽だ。   
    
「そんな事考えても見なかったけど、、、もし彼が独身だったら、、、  
    
                       どこかで距離を置く必要があったかも知れない」  
  
「ずるい話しだけど、ヒロ君にも家庭があったと思っていたから、、、 
    
      これ以上踏み入ってはいけないラインがあって、
              だから単純にセックスフレンドとして楽しめたけど、、、  
   
                    独身だったら、、、やっぱり警戒心はあったかもね」
セックスフレンド、、、という言葉に少しドキッとした。
私にとっても彼はセックスフレンドだったから、、、
「警戒心?」
「そう、、、本気になられたら色々とやっかいじゃない?」
あぁ、、なるほど、、、そういう意味か、、、
確かに、火遊びの相手が本気になってしまったら、収拾がつかなくなりそうで怖い。
ストーカー、つきまとい、、、無言電話、、、嫌がらせ、、、
そんなマイナスなイメージがつきまとう。
「あ、、、でも、今の私にはあんまり関係ないかぁ、、、もしヒロ君が私に『マジ』になってくれたら、、、
                    それはそれで嬉しいわ」
「今の私って、、、? どういう事?」
どこか投げやりな涼子の口調が気になった。
コンコン、、、 
    
扉がノックされた。
「はい」
涼子が緊張の面持ちで返事をする。
顔を出したのはしゅうだった。
「あ、、、消防署の方がお見えだよ、、、それと、、、ご両親とハルカちゃんも今着いたよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
涼子の顔が強張っている。
「涼子、、、私は行くわよ。」
「え!? ラン、、、帰っちゃうの?」
「まだ帰らないけど、、、」
私は廊下でこちらの様子を窺っているしゅうの表情を見た。
軽く頷いたのは、、、早く 病室を出なさい!という意味のようだ
「下に居るから、、、黙って帰ったりしないから安心して」
「うん、、、ありがとう」
私は涼子の腕を励ますように軽く握ると、病室を出た。
廊下には制服を着た消防署員が数名立っていた。
軽く会釈をする。
私と入れ替わりに彼等は病室に入っていった
「失礼します」
涼子の両親とハルカちゃんは病棟の待合室に座っていた。
私は当たり前の言葉で3人を慰めた。
今にも泣き出しそうな、ハルカちゃんの頭を撫でて、、、
「お母さんは元気だからね。大丈夫だよ。」
そう伝えるのが精一杯だった。
年老いた涼子の両親はいつまでも頭を下げて
申し訳ありません、、、を繰り返した。
謝らなくてはいけないのは私の方なのに、、、 
      
私がヒロを涼子に紹介しなければこんな事にはならなかったのに・・・
違うんです!元はと言えば、私が悪いんです!  
宇佐見さんは私の愛人だったんです!
それを、、、それを涼子に押しつけたんです!
3人の姿を見て、、、思わずそう叫びたくなった。
ご両親に負けないくらいに頭を下げている私の背中をしゅうが突きながら言った。
「あの、、、私達は下の談話室にしばらくおりますので、、
   
     何か困ったことがありましたら遠慮無くおっしゃって下さい」
私はしゅうに手を引かれるまま後ろ髪を引かれる思いで病棟を後にした。
エレベーターに乗るなり
「つまらん正義心はしまっておけよ。真実がいつも正しいとは限らないんだぞ。
      真実を話すことで、自分が楽になるのと引き替えに、人を傷つけることもあるんだ。」
しゅうの冷静な分析は残酷だ。
あなたはそうやって自分の感情をコントロールしているのね。 
    
今夜のあなたの対応も冷静だった。
    
状況を客観的に分析して、その場で一番良いと思われる答えを出している。
    
「俯瞰でモノを見てはじめてすべてを把握する事ができる。」
  
あなたはいつもそう言っている。    
   
私にはその視線が冷たく感じられる事もあるわ。
そう言う冷静な視線を持っているからこそ
     
例え「遊び」とはいえ、私が他の男性に抱かれても、、、一夜を一緒に過ごしても、平然としていられるのね。  
    
    
ヒロと初めて寝た夜も、あなたは特に興奮するでもなく、、、時折笑顔を見せながら私の報告を聞いていた。
絶対に怒らない、、、と言うのがこの交際を始めたときに私が出した条件だった。   
   
だけど、時には不機嫌な顔を見せて欲しいわ。
時には、嫉妬心でゆがんだ顔を見せて欲しい。 
     
私の腕を握っていたしゅうの手を取って、、、強く握り替えした。
北海道は今年最大の寒波で各地が大雪に見舞われていた。
空港はすべて閉鎖され、空のダイヤは大幅に乱れた。
その夜、涼子の夫、、、健一郎さんは結局、帰京する事が出来なかった。
翌朝、天候が回復したらすぐに帰るとの連絡が病院に届いた。
東京駅に着いたヒロの両親を迎えに、竹内さんが病院を後にした。
談話室には私としゅうの2人だけ、、、
しゅうが大きく息を吐いた。   
     
「どうする?」
「どうするって?」
「このままここに居て、、、ヒロの両親にも会うのか?」
「どう思う?」
「分からないなぁ、、、奥さんが居ない、、、ヒロが独身って聞いてなんだか気が抜けちゃったよ」
「やっぱり、、、」
「まぁ、今までの状況を考えたら、会わずに帰るって訳にもいくまい。
    少なくとも、俺は会って挨拶をしておいたほうが良いと思う。
           ランは、、、しばらく涼子ちゃんに着いていてやったらどうだ?
                 健一郎さんも今夜は帰ってこないんだし、、、  
    
                         彼女にとっての修羅場は明日かも知れないからな」
「うん、、、」
背中にドシリッと重い荷物を背負わされたような感じがした。
 
 
 
 
涼子の夫、、、健一郎さん。
     
妻の不倫が白日の下にさらされたのだ。  
   
     
「妻を寝取られた夫」     
  
       
周囲は好奇の目で彼を見るのだろうか?それとも、、、同情の目を向けるのだろうか?
    
いずれにしても、東京からはるかに遠い「札幌」の地で
  
眠れぬ夜を過ごしているに違いない。
          
 
 
やはり、、、不倫の代償は安くはない。 
 
 
 
 
 
 
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