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「まぁ、、、これは彼のプライベートな話しですから、、、
     他人様にペラペラ喋るべきではないかもしれませんが、、、
   
 事が事ですし、高橋さんにはいずれお話ししなくちゃいけないでしょうから、
       ご友人である貴方様方にもお話ししたほうが良いでしょうね」
「もし、、、よろしかったら、、、」 
 
 
時計は7時を過ぎていたが、涼子の家族も、、、ヒロの両親もこちらに到着する気配は無かった。
ヒロが独身!? まさか竹内さんが嘘をついているとは思えないから、それは間違い無く事実だろう。
だとしたら、その事実は早く涼子に伝えて上げたい。
もちろん、ヒロが独身だったからと言って、彼女の犯した罪が消える訳ではない。
彼女自身が既婚者である以上「不倫」で在ることに変わりはないのだ。
しかし、今、、、彼女の心の一番の重荷は、、、 ヒロの奥さんの存在であることは間違いなかった。    
 
 
 
「実は、、、」
竹内さんは視線を落としながら、、、思い出すように話しはじめた。
「彼は、、、もともとウチの会社の岐阜工場採用でした。 工員として入ってきたんですが、
                   研修で営業の適正が良かったこともあって、営業部に回されました。
 
ご存じの通り人当たりは良いですし、口も達者だ。 外見も、、、まぁ男から見ても二枚目でしょ?
  
           すぐに営業成績を伸ばして、3年目には岐阜でナンバーワンの成績を上げたそうです。
ところが、、、当時から女癖が悪くて、、、同じ営業所の既婚の女性社員といい仲になってしまいましてね。
       ご主人にばれてしまって大問題になったんですよ。 で、、、富山営業所に移動になったんです。
              その時、、、富山営業所で所長をしていたのが、私です。」   
    
しゅうは竹内さんの話を聞きながらポケットから小銭を取り出すと談話室の隅にある自動販売機を指さした。
私は缶コーヒーを2本買って、一本を竹内さんに手渡した。  
   
「どうぞ、、、」      
  
「あ、、済みませんね。ご馳走になります。」   
  
 
伸ばされた手の指は太くて関節には深い皺が刻まれていた。  
 
彼が積み重ねてきた会社人としての歴史がそこにあった。   
   
「富山でも彼の営業力はすぐに発揮されました。 北陸というのは、意外と保守的でしてね、、、
    普通、、、新しい営業マンは苦労するんですよ。 だけど、彼はすぐに順応してましたねぇ。
                       営業所内でも彼の評判は良かった。特に、、、女性社員にはねぇ、、、
とにかく女性にはとても優しくてマメなんですな。   
   
      やれ髪型を変えただろ?とか、その服似合ってるねぇ、、とか、、
私らにはとても言えないような事を平気で言えるんですねぇ。 誕生日なんかも良く覚えているんだ。
      もっとも、本人はそれがちっとも苦じゃなくて、、、ごく普通に出来るらしい。
          まぁ、女房の誕生日すら忘れる私等も少しは見習わなくちゃいけないのかもしれませんな。」  
     
  
そう言うと竹内さんは、、、私の方を見て、ニヤリと笑った。
その笑顔は、、、
「どうです?奥さんにも覚えがあるでしょ?」
そう言っているようだった。  
 
  
確かに、、、ヒロはそういうところは実にマメだった。
私の誕生日はもちろんの事、、、しゅうの誕生日や、私達の結婚記念日まで覚えているのだ。
いつだったか、、、別れ際に
「これしゅうさんにプレゼントなんだ」
と言って紙袋を渡された。 
中にはしゅうへのメッセージカードと、下着のセット、、、(パンツとシャツ)が入っていた。   
     
「誕生日プレゼントだとさ、、、男からもらったの初めてだよ」
そう言って笑ったしゅうの顔を思い出した。   
 
  
「当時はまだ独身だったから、女性にはもててましたね。 でも、前科があるでしょう?
                    だから、よく所長室に呼んで気をつけるようにと釘を刺していました。
   それから、、、数年経って、、、地元の議員さんの娘と結婚したんですわ。
              まぁ、綺麗な奥さんでねぇ、、、、、議員の娘ともなれば将来も安泰だ。
                    新婚当初から、義理父に建てもらった立派な一戸建てに済んでました。
          廻りからは「逆玉」とからかわれたモンです」   
  
地方の議員と言えば、その街の有力者と相場は決まっている。   
 
 
「結婚して、、、2年後くらいに子供さんにも恵まれてね。 
         そのお嬢ちゃんが1歳になった時くらいだったかなぁ、、、私は本社に呼び戻されました。」   
  
彼は缶コーヒーに口を付けるでも無く、、、両手で缶をもむように手のひらで転がしていた。  
 
「それからしばらくして、、、私の後任の所長から連絡をもらいましてね。
                                 宇佐見君がまたやらかしたと、、、」
「やらかした、、、」
       
  
話しの流れから言って、やらかしたのは悪い癖の「女性問題」であるだろうと想像は出来た。  
  
 
「そうです。ご察しの通り、、、再犯ですわ。 奥さんが子育てで苦労しているときに、、、
          また人妻とただならぬ関係になっていたんですよ。 しかも、、、2人同時に、、、」
竹内さんは当時を思い出したのか、、、苦々しい表情になった。
おそらく、、、この人にとって「不倫」なんてとんでもない「悪行」に違いない。    
 
それが想像できるだけに、私にとって談話室の椅子はいかにも座り心地が悪かった。
 
  
「田舎なんて、、、この手の噂がまわるのは早いんです。
      手を打つ間もなく、噂が義理のお父さんの耳に入った。 まぁ、、後はご想像の通りですよ。
                    相手は何しろ地元の有力者で、議員さんだ、、、相手が悪すぎます。
       奥さんより先にお父さんが離婚届を持って来たそうですよ。 
           奥さんは、、、多少、彼に未練があったようですが、2人の意見を聞くような人じゃなかった。
俺の顔に泥を塗りやがって!  
  
         と大変な剣幕でしてねぇ、慰謝料なんてはした金はいらないからすぐに出て行け!
                                            と家から放り出されたんですよ。
会社のほうにも、あんなふとどきモンはクビにしろ!と圧力があったそうですわ。
                     実際、現地では彼に退職するよう勧告もしてたらしいです。
で、まぁ、富山営業所時代には個人的にも可愛がっていましたし、彼の営業力を高く買っていた私は、、、
                          上司に直訴しまして、東京の私の部署へ彼を引き取ったんです。」 
   
ヒロにとって、、、この竹内さんはまさに恩人にあたる人だった。
初老のこの男性は、愚直なまでに正直に生きてきたに違いない。
家庭の為に、身を粉にして働いてきたのだろう。 
営業部長という立場の割にはくたびれた背広と
クリームの塗られていない履き古しの靴が彼の歩いてきた人生を象徴しているかのようだった。  
   
「と言うことは、、、東京に来たときはもうすでに『独身』だったんですね」
「そう言うことになります。 だから、、、彼を私が引き取るにあたって出した条件は
    『独身になったんだから、、、女性と付き合うなとは言わない。でも、、、人妻はダメだぞ!』 
   
              だったんですがねぇ、、
                   見事に裏切られましたわ。 もうあれは一種の病気なんでしょうなぁ、、、」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 
   
私達は竹内さんの顔を見ることが出来なかった。
しゅうは手にもった缶コーヒーを、、、私は自分の足元に視線を落として彼の話しを聞いていた。 
  
「と言うことは、、、離婚された元奥さんも、お嬢さんも今夜こちらへはいらっしゃらない。という事ですね」
「はぁ、、、そう言うことになります。 実は、連絡もしておりません。
 
            まぁ、事が事ですし、、、お嬢さんも年頃になられて微妙な時期でしょうから、、、
                                    いずれは、耳に入ることだとは思いますがね」  
  
 
お父さんの浮気が原因で両親が別れ、、、今度も浮気が原因で火事を起こし重傷!では
いくら離ればなれに住んでいる父親とはいえ、若い娘さんにはショッキングな出来事だろう。   
     
「まったく、、、自分にも可愛い娘が居るというのに、、、
     人様の家庭を壊すようなことをやって、、、何が楽しいんだか!?
           性欲を持てあましているんなら、風俗でもどこでも行けば良いじゃないか、、、
  よりによって、、、人妻を自宅に引っ張り込むなんて、、、」
竹内さんは搾り出すような声で呟いた。
「人妻じゃないと興奮しないんですよ」
あれは、、、ヒロと初めてあったときだった。 
しゅうの
「単身赴任で、、、しかもいい男だし、何も好きこのんで、こんな40過ぎの中年女よりも
                 もっと若くて、、、独身の女性のほうが面倒くさくなくて良いでしょうに?」
の質問に、真顔でそう答えたのだった。
「若い子には魅力を感じません。人妻が良いですねぇ、、、 
    セックスをしていても、、、これから家に帰って、夕食の準備をするんだ!とか、、、
       今夜、ダンナに抱かれるかも知れないんだ!とか想像すると、ものすごく興奮するんですよ」 
    
どこか自分を納得させるような口調で、とても印象に残っている。
   
  
「今回のように、旦那さん公認というのは初めてなので、、、ちょっと勝手が違いますけど、、、」
鈍感な私でも、過去に相当の場数を踏んでいるんだなぁ、、というのは想像できた。   
 
 
 
交際が始まってしばらくして、、、
「ねぇ、、、人妻が良いって言うけど、
  
           それって、寝取る、、、みたいな感覚なんでしょ?   
    
                    だったら、若い子だって彼氏とかがいれば同じじゃないの?」
私はヒロに聞いてみた。 すると、、、
「独身の子にはさぁ、なんて言うのかなぁ、、、生活感が無いんだよ。
   例えば、綺麗に塗られたマニキュアとか、ものすごくセクシーな下着とか、、、引き締まった体とか、、、
      そんなのは駄目なんだ。   
   
           むしろ、、、水仕事で剥げてしまったマニキュアや、ベージュの地味な下着、、、
     子供を産んで緩んだお腹、垂れ気味の乳房、、、そんなのに興奮するんだよ。
普段は真面目で貞淑なお母さん、奥さんなのに、、、 
   
        俺とのセックスの時にはどん欲に乱れる。そんな姿が良いんだ。
            ギャップに興奮するんだよ。だから、、、あんまり綺麗でセクシーな奥さんも駄目だなぁ」
私は逆く、、、生活感丸出しのお父さんとはセックスしたくないなぁ、、、
私はヒロの話しを聞きながらそう思った。
何となく理解は出来たが、なるほど!と納得は出来なかった。
「ふ~ん、、、そんなモンなのぉ、、、」
ま、、、性癖は人それぞれだからねぇ、、、、
私はしたり顔で頷いたのだった。
  
ヒロはそう言う性癖の持ち主なんです。
と目の前でうなだれる竹内さんに言ったとしても、とうてい理解は出来ないだろう。
「あの、、、高橋さんにも彼が独身だったとお話ししておいたほうが良いですよね?」
気がついたように竹内さんが言った。
「そうですね、、、、、勝手な話しですが、彼女もそれを一番気にしていると思いますから。
             あ、、、でもそれは、、、ウチのから伝えさせますよ。 その方がいいでしょう。」
「そうしていただけますか? 助かります、、、 私も女性には口べたなモノでして、、、」
しゅうは私の方を見ると
「まぁ、、、こんな事を言うのは不謹慎かも知れないが、、、 
 
    少なくとも涼子ちゃんが一番心を痛めている部分でもあるんだ。
            彼が独身だったと分かれば、心の重荷も一つとれるだろう。早く伝えてあげろよ。
                      彼女にはそれ以外にも受け入れなくてはならない事があるんだからな」
「そうね、、、」 
 
 
私は竹内さんに頭を下げると涼子の元へ向かった。
ヒロが独身と知って、涼子は何を思うのだろう?
  
少なくとも、彼女にとって心の重荷が一つ下ろされることには違いない。   
   
 
しかし、相手が独身と言うことは、、、今後、涼子の身の振り方一つで、ヒロとの結婚もあり得る話しだ。
    
「ウチは大丈夫だから・・・」
  
そう呟いた涼子の強い表情が気になった。  
  
 
    
あれは、、、涼子自身、、、
   
健一郎さんとの関係になにか踏ん切りをつけたようなそんな目だったように思える。
       
涼子の元へ向かう私の足取りはやはり重いままだった。
       
 
 
 
 
 
 
 
 
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