ジャッキーさんのN杯分析記事 | siennaのブログ 〜羽生君応援ブログ〜

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羽生結弦選手の現役時代をリアルタイムで体験できる幸運に心から感謝しつつ、彼のスケートのここが好きあそこが好きと書き連ね、ついでにフィギュアにも詳しくなろうと頑張る欧州住まいのブログ主です。

昨日の記事にたくさんのイイネ、ありがとうございます。

予告通り、さっそく二つ目の翻訳記事をアップしますー。
せめて新しい年の始まりくらいは有言実行できてよかった^^;

ジャッキーさんはツイッターをやってる皆さんには、各大会の実況ツイートでお馴染みですよね。スケオタには大変ありがたい存在の方です。以前はExaminerというアメリカのニュースサイトでフィギュア記事を書いてらっしゃいましたが、今シーズンからrockerskatingという自分のサイトを立ち上げ、精力的に情報を提供してくださっています。

サイトのプロフィールによると、選手として、コーチとして、振付師として、また、米スケ連の元ジャッジとして、20年以上もフィギュアに関わってきた経歴の持ち主ですので、普段は比較的フラットな目で競技と選手を見つめてらっしゃいます。そんなジャッキーさんですが、羽生選手のN杯演技にひじょーーーに感銘を受け、長い分析記事を書いてくださいました。一ヶ月以上前の記事なので、既出かもしれませんが…汗




原文はこちら。是非1クリックを♪

2015NHK杯の考察:羽生結弦のパーフェクトストーム(訳注:複数の嵐が同時に一箇所を襲う「完全な嵐」。複数要因の相乗効果による出来事を指す)は史上最高だったのか?

2015年11月28日

By Jackie Wong, rockerskating

 そのフリースケートは世界中の注目を集めた。まさに世界中で話題となった演技だった。まだ見ていない人がいたとしたら、もったいない話だ。今週末開催された2015年NHK杯において、羽生結弦のショートプログラムとフリープログラムは記録という記録を破った。しかし、これがなぜそんなに特別で史上最高なのか。長野における羽生の週末をじっくり振り返ってみたい。とは言っても、大多数のフィギュアスケートファンと同様、自分も未だに興奮冷めやらずなのだが。

歴史的

 長野で今週末羽生が見せたことを語る言葉はたくさんあるが、一言で表すならば「歴史的」だろうか。あれが重要な演技だったという理由を、数字の助けを借りて見てみよう。

・ショートの新世界記録106.33は、羽生が金メダルを獲得した五輪で記録した旧世界記録、101.45を5点近く上回る

・フリーの新世界記録216.07は、羽生の最大のライバル、パトリック・チャンが2年前のTEBで記録した196.75を約20点も上回る

・総合得点の新世界記録322.40は同じく2013年TEBでチャンが出した295.27を27点以上も上回る

・フリーで200点を超える点数を出した史上初の人物。総合点で300点超えをした史上初の人物。どちらも今週末まではとても到達出来そうにないラインだと考えられていたのに、羽生はそれを単に超えたのではなく、大幅に超えてしまった。

パーフェクトストーム

 この怪物的スコアをもたらしたのは、もちろん、両プログラムでテクニカルとコンポーネンツが素晴らしかったからだ。しかしこの圧倒的点数は、1)文句のつけどころない演技の実施、2)羽生の五輪王者としての経歴と地位、3)技術的傑作と魔法のような演技を可能にした、ファンを前にしたホームでの演技、以上3点の相乗効果によるパーフェクトストームの結果だ。

 もし環境が違っても世界記録が出せただろうか。言うまでもなくイエス。しかし106や216、322まで行ったかというと、定かではない。これは真に、複数要素の相乗効果による完全な嵐だった。

GOAT?

 この羽生の二つの演技は、史上最高の演技と肩を並べる。他のスポーツで使われるいわゆるGOAT(greatest of all time)というやつだ。もちろんこれがGOATかどうかについては、議論したければ永遠にできる。しかし、最も素晴らしい演技の一つだったことは確かだ。この出来事をめぐる興奮の度合いがあまりにも強いために客観性が失われがちだが、羽生の演技のGOAT性に関する僕の考えを、できるだけ正確に示していきたい。

 羽生が行ったことは、そのほぼすべてが並外れて素晴らしかった。6分半(訳注:原文ママ)という時間で、彼は5本のクワド、3本のトリプルアクセル、そして他のトリプル6本をクリーンに着氷した。これはまったく前例のないことだ。男子フィギュアで僕が思い出せる限り、これほど難しい構成をこれほどパーフェクトにやり遂げた例は一つもない。一連のジャンプのうち、ほんの少しだけ惜しかったのはショートの最初の4Sの着氷を踏ん張ったところ。でも、そんなことは本当にどうでもいい。

 すでに指摘した通り、2位以下との点差は圧倒的。彼のフリーはあまりにも素晴らしく、フリーのスコアだけで同じ大会に出た男子4人の「総合」点すら上回ってしまった。彼のプログラム実施の正確さ、力みの無さ、音楽性、その他諸々は、30分間ノンストップでスタオベしたくなるものだった。

 そういう意味で、彼の演技はデフォで頂点からスタートしたと言える。唯一、僕個人として留保事項なのは、これらの演技が行われた舞台だ。誤解しないで欲しい。NHK杯はもちろんグランプリシリーズの大会として毎年開催されるトップレベルの大会だ。しかし、五輪やワールドに比べ、順位や競争相手の重圧は少ない。もちろんこれは重箱の隅をつつくような領域だが、ただそれも、「史上最高」に関する議論をしているからこそ必要なのだ。

 というわけで、 過去のワールドと五輪での優勝演技を振り返ってみたい。これらは、高い技術と演技が一体となっていたという意味で特別だった。

(以下、解説される各演技の動画あります。是非ジャッキーさんのサイトで見てください)

・シェン&ツァオ 2007年ワールド金メダル クリーンでエモーショナル。フリーでミスのあった五輪優勝の演技よりも良かった。しかし技術的傑作かというと、そうは言えない。

・ミシェル・クワン 2003年ワールド金メダル ノーミス、鳥肌。彼女のワールドでの演技中、おそらく最も感動的。しかし3-3を入れない6トリプルの構成は、彼女のできる最高難度ではない。

・パトリック・チャン 2011年ワールド金メダル 2つのプログラム中3本のクワドと、チャンのトレードマークの素晴らしいスケーティング。当時の男子の演技では最もオールラウンド。ジャンパーとしてもスケーターとしても素晴らしい彼がハードルを上げたことが、男子のクワド復活のきっかけとなった。しかし、他大会の二つの演技はパーフェクトだったが、ここでは3Aでステップアウトしている。

・ユナ・キム 2010年五輪金メダル 従って、ジャンプと演技両方が優れていたという意味で(羽生の演技と)比較できるのはおそらくキムヨナのこの演技。バンクーバーにおける彼女の優位は圧倒的だった。23点差をつけての優勝、高い技術力(3Loの欠如が最も目立つ)、そしてショート・フリーでの演技。バンクーバーで彼女が打ち立てたフリーと総合得点の記録は未だに破られていない。

 キムヨナの演技は、五輪という、プレッシャーと緊張感のある状況で行われたという意味で、羽生のNHK杯と同等か、ほんの少し上回る評価ができるのではないか。しかし、僕にとっては、男子シングルにおける史上最高の演技は、羽生のNHK杯演技なのだ。

 でも、ひょっとしたら、今から数ヶ月後、僕はまたここに立ち戻って今週末のGOAT性の評価を見直しているかもしれない。その時は違う結論になっているかもしれないし、もしかしたら羽生自身がさらに偉大な演技でこの演技を超えてしまっているかもしれない。完全にありえることだ。

以上。