トレイシーのGPF男子フリー振り返り | siennaのブログ 〜羽生君応援ブログ〜

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羽生結弦選手の現役時代をリアルタイムで体験できる幸運に心から感謝しつつ、彼のスケートのここが好きあそこが好きと書き連ね、ついでにフィギュアにも詳しくなろうと頑張る欧州住まいのブログ主です。

皆さん、あけましておめでとうございます!
2016年も結弦くんが夢に向かって健康で邁進できますように。
皆さんにとっても良い一年でありますように。
私も彼を応援できる環境にあることを感謝しつつ、頑張ってブログをアップしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

さて、クリスマス・年末と何かと忙しく、いい記事を横目にゆっくり訳す時間がとれないでいましたが、元旦も過ぎたことだし、そろそろ通常運転に戻る!(^-^)/ 週明けの仕事始めまで、いくつか記事を訳せればいいなあと思っています。

今回は、大晦日にアップされたカナダ・TSNのトレイシーによるGPF男子フリーの振り返り。
この記事を読むと、トレイシーさんにとって、この大会が男子フィギュア最高の内容であったこと、長年フィギュア界を見続けてきた彼女にとっても例外的で歴史的な大会だったということがよくわかります。


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Simply unforgettable 
決して忘れられない

By Tracy Wilson


 前評判の高いスポーツイベントが、実際にその期待に沿うのは稀なこと。

 バルセロナで行われたGPFに於ける男子の試合はまさにその稀なケースだった。男子フリーは、筆者の見た中で最高のものだったと思う。

 個人的には、歴代男子ファイナルの中で最高のグループだった。

 出場6人中上位5人のフリースケートは、クワドの数も記録的ならば、史上最高スコアも更新、観客を喜ばせる最高の演技となった。

 その5人の中、3人はフィギュア界におけるリーダーであり、2人は若いルーキー。

 カナダのパトリック・チャンは、復帰の途上にあってリーダーの地位を再確立しようと奮闘中だ。対するは、最近パトリックの持つフリーの記録を破った五輪王者・羽生結弦、そして、地元の英雄で現世界王者のハビエル・フェルナンデス。ルーキー格は、中国のクワドキング、ボーヤン・ジンと、新しい日本のフィギュアのセンセーション、宇野昌磨だ。

 会場の雰囲気は熱を帯びていた。

 観客は熱心で目が肥えており、アリーナの席はリンクぎりぎりから天井の梁まで埋まった。

 観客の内訳は、大勢の地元ファンのほか、熱心な日本からのサポーター多数、そして少数だが声の通る北米と欧州からのファン。アリーナのエネルギーと興奮は手で触れられそうなほどで、それがスケーターたちの栄養分となった。

 トップ5選手中の4人の演技は、彼らの選手生活で最高の出来だったのではないかと思わせる素晴らしさ。テクニカルを落とすことなく表現力を高めることに揃って成功した。

 パトリックは、二つのエレメンツがノーカンになるという失敗から散々な結果に終わったショートのために一番滑走。なんとかして再びレースに食い込み表彰台を狙うという、ありがたくないポジションでトップバッターとして登場。挽回を目指していたが、そのためにはベストパフォーマンス以外ありえないことを彼は承知していた。

 チャンのスケートは複雑で魂のこもったショパンメドレーの解釈だった。息を呑むようなスピード、複雑で意表を突く振り付けを、一見たやすく実施する様は見事。二つのクワドのうち一つがトリプルになったため技術点は抑えられたが、演技全体に悪影響を与えるものではなかった。 観客がスタンディングオベーションをする、そんな演技だった。筆者の周りの報道関係者も立ち上がった。

 宇野昌磨とボーヤン・ジンは共に去年ジュニアGPFに出場、今季からシニアレベルに参戦し、失うものは何もなく、すべてを吸収してやろうという新人らしい熱意を持って滑っている。彼らは、ここファイナルでもそのスタイルをキープしていた。

 宇野は若々しく真摯にトゥーランドットを滑り、ほぼパーフェクト。2クワドのうち一本を後半に配し、難度を上げた。エレメンツを決めて音楽をしぼり取るように表現する宇野に観客は大いに盛り上がり、フィニッシュに近づくにつれ万雷の喝采が贈られた。筆者は、チャンと宇野にたいする観客の反応を、バックステージの選手たちがどう捉え、感じているのかという点が気になった。

 チャンは表現力のおかげでフリーで優位に立ったが、ショートの遅れを取り戻すには十分でなく、宇野がリードを保つことになった。宇野のTESは100点超えという目覚ましいものである。100点超えは非常に難しく、以前は極めて稀なものだった。ところがこの日は、宇野に続き、さらに3人がそのラインを突破することになる。

 ジンのジャンプ能力は、技術的な面で男子に確実にプレッシャーを与えている。彼の出場する大会はエキサイティングにならざるを得ない。

 続くスペインのハビエル・フェルナンデスの登場は割れんばかりの喝采で迎えられた。この表現でも足りないくらいだ。彼が平常心を取り戻すのに、最初のクワドが犠牲になった。着氷でオーバーターンすると、きっちり集中してコーナーを周り、ゴージャスな4S-3Tを決めた。その後はシナトラのガイズアンドドールズの音楽に合わせ、活き活きとした演技を問題なく披露した。3クワド構成のチャーミングなプログラムに、観客はフィニッシュを待たずに立ち上がった。この演技の質と難度は、201.43という大変な高得点を獲得した。

 このスコアにより、フェルナンデスは、フリーで200点を超えた史上二人目の選手となった。

 フェルナンデスの点数がボードに掲示される間、最終滑走者の羽生結弦はリンクを周回しながら出番を待っていた。ハビエルのスコアを上回るために何をなすべきか。彼ほどそれが分かっていた人間はいない。結弦はほんの2週間前にGP日本大会でノーミスを達成、フリーで200点を超えた初めてのスケーターとなった。しかもショート・フリー両方で新記録を打ち立てている。

 ここスペインではすでにショートでノーミス演技を行い、新記録を出した。彼に素晴らしい演技をする能力があることに疑いはない。しかし、それを再び繰り返すことができるのか。彼の答えは雄弁だった。和のプログラム「SEIMEI」のセンセーショナルな演技。プログラムは3つのパワフルで精密なクワドを含む高難度な構成で、後半で跳ぶ3つめのクワドは3Tを付けるコンボだ。

 結弦はエキサイトしながらも落ち着いていた。流れるようにしなやかな身体でプログラム中のすべての動きを、非常に軽々と優雅にこなす。 観客はそんな演技にただ深く腰掛けて魅せられるのではなく、前のめりになり我が目を疑いつつも、それを上回る歓喜の気持ちで偉業の再来に立ち会っていた。ジャッジの反応は、世界最高点を塗り替えるスコアという形で表わされた。

 その夜は良演技への奮起と、追い詰められても超越しようという意志に満ちていた。

 この夜は決して忘れられない。男子フィギュアに新たなスタンダードが作られたのだ。