ロンドンで改めてDJとは何かを考えた | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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Kyoto Jazz Massive 沖野修也 Official Blog

今週の日曜日、
ロンドンのクラブで
回して来ました。

今年2回目のロンドン。
前回はこともあろうに
The Roomの
21周年記念パーティーを
LIFEという場所で敢行し、
僕と佐藤強志、
DJ KAWASAKIと
冨永陽介の4人で
本場に乗り込んだんです。

26年前に
クラブ・カルチャーの洗礼を受けた
ロンドンで
日本人だけでプレイするって
(通常、
僕はゲストで呼ばれてきましたし、
ロンドン在住の日本人DJの方
が回すのは普通の事なんでしょうけど
僕達は現地の事情を全く知らないので)
無茶なんですよね。

その時も
大丈夫かな~と
結構心配してたんですが
(ま、なんとかなりました)、
今回は
心配が
その時の比ではなかったんです・・・。

それは何故か?
勿論、
ロンドンという場所って事が
大きいですよね。
一流のDJ達が
切磋琢磨している都市です。

しかも今回は
ジャズのイベントだったんですよね。
PERRY LEWISというダンサーにして
DJでもあるレジェンドが
招聘してくれたんです。
今年の2月にオファーを受け、
決定したのが8月・・・。

ジャズで踊るカルチャーの
発信源でもあるロンドンで、
まさに本場のダンサー達を前にして
腕が試される訳です。

お客さんの中には、
僕がロンドンに行く前
(26年前ですよ)から
ジャズで踊るシーンに
通い続けている人がいるし、
実際に踊り続けて来た人もいるんです。
曲だって知り尽くしています。

更に、
僕のDJのパートナーは
あの
PATRICK FORGEさん。

彼は、
GILLES PETERSONと共に
ロンドンの
クラブ・ジャズ・シーンを牽引して来た
重鎮。

GILLESもインタビューで
PATRICKから
ジャズの知識を教わったと
公言している程の強者です。

何を隠そうこの僕も
PATRICKさんに会う度に
彼から常に新しい情報
(それは新譜・旧譜を問わず)を
御教授して頂いています。

いわば
僕にとっての先生みたいな存在。

そんな状況って、
ちょっと尋常じゃないんですよね。
緊張感が・・・。

果たして
僕は
ダンサー達を満足させる事が
できるのか?
PATRICKさんを
唸らせるようなプレイが
できるのか?

実は出国前、
10日程体調が悪く、
5日も寝込んでいたので
十分にレコードも準備できず、
新しい発見を得る為に
レコ屋にも行けなかった・・・
(プロなら
そんな言い訳は許されないんですが)。

結論から先に言うと、
何とかなりました。

場内大盛況だったし
踊れるジャズの
歴代ヒット曲のお陰もあって
一応形になりました。

何人もの友達に
確認したんです。
大丈夫だったかと・・・。

お世辞かもしれませんが、
良かったと・・・。

でも
安堵する事はありませんでした。

本当にあれで良かったのか?

僕は何度も自問自答しました。

DJたる者、
まず、
オーディエンスを
楽しませなければなりません。

なのに、
ここをクリアするのが
とても難しかった。

当然の事ながら
ロンドンの
ジャズ・ダンサー達が
好む音楽の傾向というものがありまして、
自分が好きなジャズと
彼等の好きなジャズの
接点を探す作業を短時間の内に
行わなければいけない訳です。

僕が
踊れると確信して
持って行った曲でも
反応が鈍かったりすると
それは大変な事に・・・。
立て直す為の曲を
数分間の内に
探さなければいけないし、
ともすると
そもそも持って行っていない!
という事もなきにしもあらず・・・。

日本だと
BPMが125位で
ボッサなリズム+4ビートなジャズが
比較的好まれるでしょ、
生音は?
ロンドンは違うんです。
BPMは130を超える高速ジャズで、
グルーヴはよりサンバに近い感じ。

そんなの持って来てたっけ・・・(苦笑)。

ダンサーの反応に
必死で対応しながら、
しかも、
プレイの前に
コアなファンの人達から
「日本人ジャズ楽しみにしてるからねー」
なんて
声をかけられたものだから、
ダンサーのテンションを上げつつ、
国産モノを混ぜるという
アンビバレントな状況が
続いたんですよね。

それに、
早い時間に
キラー・チューンを投入してしまうと
後半にネタ切れになる可能性があったので
秘密兵器(レアな和ジャズや未発表音源)は
取っておいたんですよね。

ところが思わぬ展開が・・・。

PATRICK先生が
BACK TO BACKをやろうと・・・。

どういう事だか判ります?

僕が散々
色々な曲を教えて貰って来た人と
2人で一曲づつ交替で
プレイするんですよ。

打つ手がないじゃないですか!

おそらく
僕がかける曲は
彼は全部知っているだろうから
手の内を
全部読まれている訳です。

このブログでも
何度も
BACK TO BACKの事は
書いていますが、
2人で1曲づつ交替で
かけるという事は、
相手が何をかけるか判らないから
展開を計算できないんです。
相手がかけた曲に
即座に反応しないといけないし、
相手を触発するような
刺激的な選曲も必要になる。

ある意味勝負的な要素もあり、
時に
DJの優劣が
覿面に現れる
高度なプレイ・スタイルなんですよね。

相手が持っていない曲、
或は、予想しないだろう曲。
それらを使って
相手以上に聴衆を盛り上げる・・・。

両者の実力が拮抗し、
ハイ・レベルな攻防が続くと
インプロビゼーションが
予期せぬスパイラルを巻き起こし、
誰もが観た事も聴いた事もない
奇跡が起こる事も・・・。

故に
実力差があると
一方だけが盛り上がり
逆のターン・テーブルが
回っている時は
微妙な空気が
漂ってしまうもんなんです。

だから僕、必死でしたよ。

だって
PATRICKさんは
本場のシーンの
酸いも甘いも知り尽くした男。
本場ロンドンの
踊れるジャズの
グルーヴを
構築して来た一人でもあるんです。

彼の後に
矛盾を生まない
曲のチョイスを心がけ、
フロアーの熱量を
維持しなければなりません。

それだけでも大変な事なのに
彼は
僕が知らない曲を続々と投入して来る・・・。

僕はと言えば、
クラシックスの投入で
最低限の役割を果たしつつも
ある意味
防戦一方の状態に
追い込まれて行きます。

PATRICKさんの何が凄いって、
生音の新譜をプレイして
ダンサーを
挑発し続けるんですよね。

僕が彼等をノセられるのは
彼等が知っている曲だからなんですよ。
方やPATRICKさんは、
ダンサーが知らない
(僕も知らない)曲で
フロアーのボルテージを
どんどん上げて行く訳です。
つまり、
ダンサーが欲するグルーヴを
ちゃんと理解していて、
そのグルーヴが内在する音楽を
新譜(しかも生音)の中から
見つけ出し、
彼等に供給していたんですよね。

生音のジャズで踊る。

ともすると歴代の名曲を
往年のダンサー達が楽しむ
と思われる人がいるかもしれないんですが
決してそうではないんです。

PATRICKさんのように
新しい曲を
ダンサーに紹介しているし、
新しい曲を
取り入れる事で
シーンの新陳代謝を画策している。

実際に
ダンサーの年齢層も幅広かった!
上は70近い人もいたけど、
下は7歳位の子供まで。
ダンサーのお子さんかなー?
10歳位の男の子だと
大人顔負けに踊れますからね。
サッカーの
天才少年みたいなもんでしょうね。

優れたDJは、
人を踊らせるだけでなく
驚かせるものです。

それは誰も知らない
珍しい曲であるかもしれないし、
誰もが知っている有名なアーティストの
アルバムや
12インチの
B面に入っている曲かもしれない。

新譜で誰でも手に入る筈なんだけど
まさかそんな人が
踊れる曲をやっている訳がないと
見過ごされている
アーティストの曲かもしれない。

そもそも
曲じゃなくて
誰も思いついた事のない
組み合わせかもしれない。

踊らせるなんて当たり前。
価値観を逆転させるような
衝撃を
驚きと共に
人に与えるのが
僕の考えるDJのあるべき姿なんです。

僕は自分の著書、
『DJ選曲術』の中で、
正しい選曲は
前後の関連性がある事だ
と書きました。
そして、
優れた選曲は
そこに意外性を盛り込む事だ
とも書きました。

あの夜、
僕はロンドンで
ダンサーを、
そして、
PATRICKさんを
驚かす事は
できたのでしょうか?

PATRICKさんに
押し込まれっ放しの
僕は
秘密兵器を
披露するタイミングを
見失ってしまいました。
次の曲を
自分で選べないBACK TO BACKで
"次の次"に自分がかけたい曲を
鳴らす為には
パートナーに
その曲の前に相応しい曲を
かけさせなくてはいけません。
つまり、
自分の術中にハメる為に
相手を自らのペースに
誘い込まなければいけないのです。

そんな事が
PATRICKさんに対して
できると思いますか?

そもそも
僕の抵抗が通用する相手でもない上に、
彼が持って来たレコードは
僕の3倍近くあり、
CDですら2倍以上はあったでしょう・・・。

運良く、
それこそ
PATRICKさんやGILLESのお陰で
ロンドンでも
認知の高い
僕の"STILL IN LOVE"に
辿り着けたから良かったものの、
そうでなかったら
どうなっていたか今振り返っても
背筋がぞっとします。

プロとして
ダンサー達の足を止める事は
なかったですよ。

STILL IN LOVEで
大円団だったしw。

それでも、
僕は自分自身のプレイに決して満足していないんです。

プロのDJとして。

僕はもう一度
PERRYさんのイベントで
回したいと思っています。

今回、
改めて体感した
そのグルーヴ感を
生演奏でレコーディングし、
彼等の為に新曲を作りたい。
そして、
その曲をプレイしたい。

更には
彼等が、
そして、
PATRICKさんが知らない
新旧の音源を探し出し
踊らせると共に
驚かせたい。

今回
僕は
DJになる事を決意した街で
改めて強烈な洗礼を受けました。

DJを初めて四半世紀。
リベンジの決意は
激しい衝動となり、
更なる高みへ向かうよう
僕を駆り立てています。