大竹司法書士@法律ってなんだろう!?

はじめまして!東京 外苑近くで事務所を経営する司法書士 大竹弘幸です。

私の事務所の日々の業務話なども交えつつ、一般の方々にも役立つような日常の法律に関する話をゆるゆるに書いていきたいと思います。

法律の話はとかく堅くなりがちですが、皆様に楽しく読んでもらえるように頑張ります。

ご意見やご要望などありましたら、コメントいただければ嬉しいです。


現在公開中の「消せない根抵当権」もだいぶ記事が増えてきましたので、INDEXを作成してみました。

初めての方は、こちらからお読みください(結構長いですが・・・・(^^ゞ)。

ちなみにフィクションです。念のため(^^)


消せない根抵当権

    その1~その23


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法律相談事例のブログが・・・

なが~~~く更新をさぼってしまいました。


近く再開するかも??


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「消せない根抵当権」新たにINDEX作成しました

みなさま、いつも更新が少ないのに、読んでいただいてありがとうございます。


今まで、メッセージボードに INDEX を置いてあったのですが、字数制限で新規作成出来なくなってしまったので新たに作成しました。


初めていらした方は是非「消せない根抵当権」その1 からお読みください(少し長いですが・・・・(⌒-⌒;)。


今後も出きる限り更新していきますので、宜しくお願いいたします。


●  ●


消せない根抵当権(* ̄∇ ̄*)
その1 その2 その3 その4 その5
その6 その7 その8 その9 その10
その11 その12 その13 その14 その15
その16 その17 その18 その19 その20
その21 その22 その23 その24


消せない根抵当権 その23

滝口の会社に到着し、私は失踪した社長の写真を受け取った。
しかしよく考えてみれば、私が写真を受け取ったところで、普段の社長の行動など知る由もなく、探すことなど到底不可能だろう。
都心だけを探すのにも、六法全書からたった一つの適用条文を導き出すほど大変に感じるのに、これが他府県に逃げたとなると、知らない国で裁判をするほど勝訴不可能なように感じる。


ここは一つ、滝口の情報収集力に賭けるしかないだろう。


頼むぞ、滝口!!


滝口も言わずともわかっているらしい。
「高瀬さんはもうお帰りになっても結構ですよ。後は私ができるだけ探しますから。何か情報が入ってきたときは、一緒に社長の捜索をお願いします、すぐにご連絡しますから」


滝口の言葉に背中を押され、私は不動産会社を後にした。


自宅までの帰り道、私は少し冷静さを取り戻し、今まであったことを思い返す余裕が出来た。


自宅不動産を探し初めて、理想とも言える現在の自宅建物に偶然にも出会った。
内覧したときなどは、あまりの興奮につい我を忘れてしまうほどのすばらしい物件だった。


心の中では即購入を決めて、後は購入金額の交渉。
6,000万円で売り出していた物件が、破格の値引きでなんと4,000万円に。


ここまでは順調に話が進んでいたはずだ。
売れ残っているので、安く投げ売りしたのだろうなどと安易に思い購入したのだが、それがこんなことに巻き込まれるなんて。
迂闊だった。


私も過去には、少しは法律をかじったことのある人間だ。
ここは一度冷静になって法律的な視点で今回の事件を考えてみる必要があるだろう。


まずは売買契約だ。


民法の原則からいけば、売買契約自体は当事者の確定的・最終的な意思の合致があるので有効なはずだ。売買契約書も作成されているのでここは問題ないだろう。


民法第555条(売買)
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。


通常の不動産取引の売買契約書では、所有権は最終代金の支払い時に買い主に移転するとなっているが、代金も全額支払っている。
所有権は間違いなく私に移っているはずだ。


購入以前に不動産に設定されていた担保権(根抵当権)などは、引き渡し時までに売り主の責任において抹消してから買い主に引き渡すと売買契約書にも書いてある。
ここについても私に落ち度はないはずだ。


問題は根抵当権が抹消されずに、所有権が移転してしまった場合はどうなるかだ。
少なくとも売り主の不動産会社に抹消義務は間違いなくあるだろう。


しかし、社長は私の支払った購入代金を持ったまま失踪中である。
おまけに根抵当権の抹消書類も偽造文書であり、多分失踪した社長が勝手に作成したのだろう。


刑事的には公正証書原本不実記載の未遂に問えるだろうし、私文書偽造にも該当する可能性が高い。
民事上もいろいろな方法で損害賠償請求を出きるように思う。


だがまてよ、

いくら民事・刑事の訴追が可能でも、当の社長が見つからなければ、私にとってはどうにもならないじゃないか。
銀行は今はまだ何も言ってないが、いざとなったら不動産の競売を申し立てて来るかもしれない。


そうなると、私の自宅の所有権を守る方法はあるのだろうか?


ここまで考えて、私の思考は行き詰まってしまった。
これ以上は私の頭で考えても、何も打開策を思いつかない。


ああ、もう次は降りる駅だ。
ほどなくして自宅最寄り駅に電車は到着し、私は電車を降り、改札へと向かった。


あれ?
見覚えのある顔のような・・・・。


せっ、先輩だ。
昔お世話になった、司法書士事務所の先輩だ。



To Be Continued

消せない根抵当権 その22


何も言わず失踪した不動産会社の社長と、残された極度額3億円の根抵当権。
そして偽造された抹消書類。


何も解決の手だてを見つけられず、途方に暮れる金融機関と不動産業者担当者、それに私の3人。


果たして、次の展開などは訪れるのであろうか?


不動産業者担当者の滝口の口から出た、香坂と言う謎の女性の存在は、事態解決の突破口となるのだろうか。
担当者の柴田が鋭く切り込む。


「滝口さん、その女性は社長とはどんな関係なのかご存じないのですか?」
「いや、今までまったく面識がなかったのでわかりません」
「ところで、社長は・・・その、普段女性関係はどうだったのですか」
「私もプライベートではあまりお付き合いしていなかったので、正直なところよくわかりません。でも、あまり派手に遊ぶようなタイプの人ではなかったと思いますよ」


どうやら柴田の興味は、その女がらみの失踪の線に傾いてきたようだ。


私も滝口に聞いてみる。
「社長は結婚とかはしていなかったのですか?」


滝口が答える。
「私も他の社員から聞いた話ですが、5年前に離婚して、今は一人暮らしをしているとのことでしたが」


そうか、家族はいないのか。
と言うことは、会社の資金を横領して、女と失踪したと言うこともあり得るか・・・・。
しかしよりにもよって、私の支払ったお金を持っていなくなってしまうとは。


「滝口さん、他には何か思い当たるようなことはありませんか」
「いえ、他には何もありません」
有力な情報は今のところ無しか。相変わらず辛い状況だ。


「とにかく、まだ情報が不足してますね。ここで話し合っていても埒があかないので、それぞれご協力をいただいて、出きる限りの情報を集めましょう」


もう場は、完全に柴田が仕切り始めていた。
言葉はソフトだが、鋭い眼光は、有無を言わず私たちを従わせる力を帯びている。
ここは一つ、柴田にこの先の展開を委ねて見るのがいいのかもしれない。


「それでは、滝口さんはこれから取引先をまわって、社長が普段話していたことや、立ち寄りそうな場所の情報を収集してきてください。私はこれから上司と、今後の対応を検討しておきます」


「それと高瀬さん、とりあえず被害者でもありますし、今のところ何も動けないでしょうから、今日はお引き取りいただいて、ご連絡をお待ちください」


なんだ、私は何もしないのか?
ついさっきみんなで協力してって言ったじゃないか。何もしないで待つなんて私には耐えられない!
たまらず私は口を開いた。


「ただ黙って待つだけでは落ち着きません。私も何か協力したいのですが・・・」


しばし柴田が考える。
「わかりました。滝口さん、会社に社長の写真などはありますか?」
「はい、旅行に行ったときの写真が何枚かあったと思います」
「では、それを高瀬さんにお渡しください。」


「高瀬さんは滝口さんに協力して、手分けして社長の居場所の手がかりを探してください」


ただ何もしないでじっと待つより、遙かに楽だ。
ここは滝口に出きる限りの協力をしよう。


「では、何か新しい情報がわかりましたら、すぐ私宛にご連絡をお願いします」
そう言うと柴田は、まるで商談が終わったかのように何事もなく立ち上がり、応接室を後にした。

私たちも一刻も早く、社長を捜し始めるべきだろう。


ここに来たときには、何とか抹消書類を交付してもらおうと必死で考えていたが、今はそんなことは不可能だと思い知らされていた。
とにかく今は消えた社長の消息を突き止めない限り、私に明るい未来は訪れるはずもない。
そしてキーワードは、何度か会社に訪れた香坂という女性かもしれない。
諦める前に、できる限りのことはして、その先のことはまたその時に考えてみよう。


私と滝口も、社長の写真を入手すべく金融機関を後にし、売買決済の舞台となった滝口の会社へ車を走らせた。



To Be Continued



消せない根抵当権 その21

私は本当に騙されたのだろうか。


自宅の購入に支払った金額は現金で4,000万円。
現在自宅の土地に設定されている根抵当権はなんと極度額3億円。
本当は購入と同時に抹消されるべきであったものが、なにやら訳の分からないまま今も設定されたままになっている。
単純に計算しても、2億6,000万円の赤字だ!


いかん、引き算などしている場合ではない。
こんなものを支払う義務など、私には無いはずなのだから。


金融機関の担当者 柴田の説明を聞き、今置かれている自分の状況を痛いほど思い知らされた。これからどうすれば・・・・・・・。


途方に暮れてしまった私だったが、隣りに座る滝口に今更ながら気がついた。
滝口はじっとテーブルをにらみつけたまま、先ほどから何も言葉を発していない。
滝口を見ると、額には玉のような汗が滲んでいた。


私はこの事態の突破口が何も見いだせないまま、滝口に言った。
「滝口さん、あなた私に、"登記の責任はすべて私がとりますから"って言いましたよね。これどうしてくれるんですか?」
滝口は一瞬悲痛な表情を浮かべた。
「す、すいません・・・・・」
消え入りそうな弱々しい声だ。
「謝ってもらっても、何の助けにもなりませんよ!どう対処してくれるのか、具体的な返事をしてください」
滝口は目をギュッとつぶったまま、俯いたままだ。


滝口には直接の責任はないのは、法務局からのやり取りを聞いている限りでは明らかだろう。

心の片隅ではわかっているのだが、今私にできるのは滝口を責めることしかないのだ。かわいそうだが・・・

「滝口さん!!」

私もつい声に力が入る。


その時、柴田が私たちの間に割って入ってきた。
「まあまあ高瀬さん、ここでケンカをされても事態は何にも変わらないので、やめてください」


相変わらず冷静な奴だ。いや、冷静を通り越して、冷たい奴だ、嫌いだ。


「とりあえず、事態を正確に把握するために、社長の消息も含めて、情報を収集して整理することが先決でしょう。滝口さん、ここしばらくの社長の様子を聞かせてください」


柴田、良いことを言うじゃないか。頼れる奴かもしれない・・・。


柴田の言葉に、滝口がやっと顔を上げて私たちを見た。
「今思うと、ここしばらくの社長の様子はおかしかったように思います」


私と柴田は、全身で言葉を感じるかのように、滝口の話に意識を集中させた。
「実は社長は高瀬さんが今回の不動産の購入を決めた辺りから、ほとんど会社には来ていませんでした」
「じゃあ滝口さんはどうやって私の売買を進めていたんですか?」
「社長から電話で指示が来ていまして、私からも電話で日に1回、報告するような感じでした」

そうだったのか。


今度は柴田が問いかける。
「それで、おかしかったように思うというのは?」
「はい、今回とは別の物件なんですが、半年前から購入を検討し、地主に交渉を持ちかけていた件がありまして。それがちょうど1ヶ月程前だったと思います。急に社長がやはり購入は延期すると言い出しまして」
なにやら私の知らなかった、バックグランドの話になって来たようだぞ。


滝口が続ける。
「絶対高く売れるだろうと読んでいた物件だったので、私が"社長どうしてやめるんですか"って聞いたんです」
柴田も興味深そうに聞いている。
「そしたら、仕入れ資金でトラブルがあったから、延期だと言いまして」


私にはこの話が何を意味するのかまだ分からない。
でももうしばらく黙って聞いてみよう。


「今更こんな話をしてもしょうがないんですが、うちの会社は結構収益をあげていたんですよ。柴田さんもよくご存じだと思いますが。だから仕入れのための資金が不足することなんて、考えてもいなかったんですよね。」
「確かに滝口さんの会社は、業績は悪くありませんでした」
柴田が答える。
「その頃から社長があまり会社に来なくなってきました。毎日どこかに行っているようでした。」

いよいよ行動が怪しくなってきた。


「たまに会社に来ても、なにやら自分の部屋で、電話ばかりしていました」
「どこに電話していたのかわかりませんでしたか?」
「ええ、私にはまったくわかりませんでした」


ん~、これだけでは何にも解決の糸口がつかめない。滝口、他に何か情報はないのか?
柴田も私と同じ思いらしく、滝口に言う。
「それだけじゃああまり役に立つ情報とは言えませんね」

あたりまえだ。


「そういえば・・・・」
んっ、


「社長が留守の時に、2度ほど知らない女性が訪ねて来たことがありました。名前は香坂と名乗っていました」


女性??
あまりにも月並みすぎるが、犯罪の影に女ありか・・・・・?



To Be Continued


消せない根抵当権 その20

担保を解除してもらうため金融機関を訪れた私と不動産業者の滝口であったが、金融機関側担当者 柴田の何事にも動じない冷静沈着な対応により、いささか形勢不利な状況になってきてしまった。
柴田からつい先ほど告げられた言葉は「物上保証人」。


物上保証人とは何なんだろう?
保証人と付くが、私は保証契約などをした覚えは一切ないはずだ。


柴田の発言も、私と同じで、何ら根拠がなく、その場しのぎの苦し紛れに言ってるだけじゃないのか?


私は何とか落ち着きを取り戻そうと、無意識のうちに額に手をやると、緊張のためかうっすらと汗がにじみ始めていた。


「物上保証人って何ですか、私はそちらと保証契約をした覚えなどまったくありませんが」


私は先ほどとはまったく反対の立場で、柴田に言ってやった。


出きる限り相手にプレッシャーを与えようと、鷹が獲物を狙うように鋭い目で柴田を見たが、まったく動じる様子はない。


まるで何事も無かったかのように冷静な声で柴田が答える。


「物上保証人というのはですね、他人の債務のために、自分の財産を担保に供している人のことを言うんですよ。通常の契約による保証人とは違って、債務を弁済する義務は全くないんですがね」


そんな保証人があるのか、全然知らなかった。
いやいや、しかし今は感心している場合ではない。

何とか柴田に交渉で勝利しなければならないのだ。そして何が何でも根抵当権の抹消の書類を交付してもらわなければ。


私は柴田に食い下がるように言った。


「今、債務を弁済する義務は無いって言いましたが、それなら担保も解除すべきではないのでしょうか?」
「ん~、なんと説明したらいいのか。確かに弁済の義務はありません。しかし債務が支払われなくなった時、いわゆる債務不履行の場合ですが、この場合は根抵当権が競売により実行され不動産は現金化されます。この現金化した金額の範囲内では、物上保証人は債務を支払う責任を負うことになるんです。おわかりいただけますか」


なんということだ。
そんなことがあるなんて・・・・・。


柴田が続ける。


「簡単に言いますと、今の状態は、高瀬さんが当行の担保を負担したまま、不動産を購入した状態になっているのではないでしょうか」


もう言うな、言わないでくれ(心の叫び)。
やっと柴田が言っている意味が飲み込めてきた。


結局は私が騙されたと言うことか、私が詐欺にあったということなのか。


ここに来て、私は自分も詐欺にあったのだという事実を初めて認識できた。
もうこれは抹消書類の交付だけの問題じゃないのだ。


いきなりハンマーで殴られたようなショックの大きさに、私は言葉を失い、横に座る滝口の存在すらも忘れ去っていた。


To Be Continued

消せない根抵当権 その19

金融機関の担当者の柴田からの発言は、ある程度の覚悟はしていたものの、私にとってはまるで死刑の宣告のように聞こえた。


柴田はかわらず私たちを鋭い目で見据えている。
これではまるで私たちが書類の偽造をした犯罪者のような気分だ。
私だって被害者なのだ・・・・。


そうだ!柴田の眼光にたじろいでいる場合ではない。
私も被害者なのだから、何とか担保を外してもらえるように交渉しなくては。
抹消書類の偽造は不動産会社と銀行の間の問題であり、不動産の買主の私は直接は関係ないのだから。


私は柴田にそのことを伝えようと意を決した。


「柴田さん、そちらも被害者なのは私にもよくわかります。でもそちらの銀行での取引は私には何の関係もないことなんです。一番の被害者は私なんですよ。そこで相談なんですが、偽造の件はあとで刑事訴追なり裁判なりすることにしていただいて、私は巻き込まれたくないんで一旦担保を解除してもらうということは出来ないでしょうか?」


柴田が考える間もなく答えた。
「それは多分難しいでしょう」


強く突き放すような、かつ冷静な回答だった。考える余地もないのか。

しかしここで引き下がったらおしまいだ。
私の持っている知識をフルに使って何とかこの難局を乗り切らないと。
私は頭脳をフルスピードで回転させた。

そうだ!私と銀行の間になにも取引はないので、そもそも土地についている根抵当権は無効なんじゃないのか?


我ながらいい考えかもしれない!!明確な根拠なないけど・・・・。

今考えついたのだが、言ってみる価値はあるかも知れない。


「でも柴田さん、私はそちらとの取引などないので、所有者がかわった以上、根抵当権は無効になるんじゃないですか?それならそちらには根抵当権を外す義務があるんじゃないでしょうか?」


柴田は私たちを見据えたままじっと考えているようだ。
しばし沈黙が応接室を支配した。


その沈黙を破ったのは柴田だった。
「高瀬さんとおっしゃいましたよね、そちらも被害者ということでお気持ちは私もよくわかります。でも根抵当権が無効になるというのは何ら根拠がないんではないんでしょうか」


根拠がないのを見破られている・・・・
でもここでひいてはダメだ!何とか頑張らないと。
私は思いつく限りのことを言った。


「でも所有者と債権者にまったく取引がないのに、根抵当権が有効に成立しているっていうのはおかしいんじゃないですか」


いい感じだ。このまま柴田に勝てば希望の光が見えるかもしれない。
とりあえず考えつく限りを言っておこう。


柴田は動揺するでもなく、静かに私たちを見ている。
どうだ、反論できるか。


柴田は静かに、そして何の感情も感じられない声で言った。


「高瀬さん、私が先ほどからのお話しを聞いて考えるに、あなたは今、物上保証人という立場になっているんではないでしょうか」
「物上保証人?・・・・・・」


私の一筋の希望の光を、何の躊躇いもなく覆い隠す、柴田の一言だった。



To Be Continued




消せない根抵当権 その18

何ら解決策を見いだせないまま私たちは金融機関の支店に到着した。
登記申請した添付書類について、登記所から呼び出され書類は偽造だと言われ、金融機関からも抹消書類は交付していないと言われた。
これからこの金融機関で出される事実と結論が、私の今後の運命を決めるのであろう。


私は意を決して、不動産業者の滝口と共に金融機関の建物の中へと向かった。


窓口は週末近くとあってか、それなりに込んでいる。
ただこの中でも、偽造書類の抹消交渉に訪れているのは多分私たちだけであろう。

緊張のせいだろうか、胸が圧迫されたように苦しく、その空間の空気密度が薄くなったように感じられる。


滝口が窓口の女性に担当者の柴田を呼びだしてもらえるよう伝える。


ほどなくして担当者の柴田が窓口に現れた。容姿からするとまだ20代であろうか。やせ形で、顔は俳優の谷原章介を連想させるような優しい顔立ちをしている。


何の根拠も無いのだが、この担当者であれば交渉はうまくいくかもしれない!!
私は心の中で、これから起こるであろう交渉の展開に、密かに甘い期待をいだいていた。


滝口が柴田に私を紹介したあと、私たちはカウンター奥の応接室に通された。
柴田が滝口に話しかける。


「まず、当行はまだ詳しい状況を把握できていないので、そこからお話しいただけますか」
顔に似合わず、落ち着いた硬質な声である。


滝口が決済当日から登記申請、今日の登記所とのやり取りを手短に伝える。
柴田はうなずくこともせず、ただ静かに聞いているだけだ。


滝口が一通り話し終わると、柴田が口を開いた。
「大体の事情はわかりました。まず当行がわかっていることからお伝えしましょう。今お話しにありました根抵当権の抹消書類ですが、当行が交付したという事実はまったくありません。当然担保権の解除にも同意してはおりません」


ハッキリと拒絶を表した声音であった。

柴田が続ける。


「たしかにそちらの不動産会社の社長から、数週間前に、当行でお貸ししている事業資金の一部返済の打診はありました。分譲不動産の1つが売却できそうなので、その不動産の担保を外して欲しいとのことでした。しかし一部返済額が少ない金額だったので、これでははずせませんよと協議していたんですよ」


少ない金額?
少ない金額ってどういうことだ、具体的にはいくらぐらいだ?


滝口が私の心を代弁するかのように柴田に聞いた。
「少ない金額って・・・・いくらだったんですか」
「社長から提示されたのは2000万円でした」


にっ、2000万円??
私が購入資金として支払ったのは4000万円のハズだ。
なぜ4000万円支払おうとしなかったのだろう・・・。
滝口も面食らった顔をしている。


柴田が話を続ける。
「担保を一部解除する金額には足りないので、当行としては解除するなら返済金額を増やすか、かわりの不動産を追加担保で入れていただくよう提案をしておりました。それが10日程前ですか、社長から連絡があり、売買は中止になったから、抹消の件はなかったことにして欲しいと言われました」


10日程前というと、私が購入代金を最終支払いする直前頃の時期だ。
私が知る限りでは、売買契約の過程で購入を中止するような要素は全くなかった。
不動産会社の社長はなぜそんな連絡を金融機関に入れたのだろう。


私の中では、不安とは別に濃い霧がかかったように謎が増えるばかりである。


「そのような経緯だったので、今日滝口さんからお電話をいただいたときも、何のことか正直わからなかったんですよ。でも今のお話しを聞いて、大筋の流れはわかりました。お話しが事実だとするなら、当行も充分に調査した上で、然るべき処置を検討しないといけません」

揺るぎない意思を感じる声音だ。まずい。


柴田の顔を見ると、先ほどまであった優しそうな笑みはいつの間にか消え、人を威圧するような鋭い光を帯びた眼差しが私たちを捕らえていた。


私の不動産の担保抹消の交渉はいつ切り出せるのだろう・・・・・。

まだ重い闇は続きそうな気配だ。



To Be Continued



消せない根抵当権 その17

私は今まで、短い人生だったが地に足を着けて歩んできたつもりである。
よい伴侶にも恵まれ、そこそこいい夫でもあると思う。


それが今はどうだ。神様のいたずらか大変な事件に巻き込まれてしまっている。
この先私の人生、それと自宅はどうなってしまうのだろうか・・・・・。


ほんの数分前までは絶望の淵にいた私だったが、滝口の提案により、かすかに出口が見えたような思いがした。
金融機関との担保抹消の交渉。


今はすべてが八方ふさがりの状態なので、この滝口の提案に望みを託す以外に方法はないであろう。
私は滝口をせかすように言った。


「早速金融機関に連絡を取り、事情の説明に行きましょう!とにかくお願いするだけお願いして、何とか担保をはずしてもらうしか解決策はないでしょう。さあ早く連絡して!」


滝口は私に言われるままに携帯のボタンをプッシュした。


「あっ、○○不動産の滝口と申しますが、柴田さんいらっしゃいますか」


柴田、金融機関の担当者である。


「お世話になります。滝口ですが、昨日お話しした登記の件で、これからご説明にお伺いしたいと思うのですが、いかがでしょうか?」


どうやら担当者も今日は支店にいて、しばらくは外出しないらしい。

ラッキーだ。まだすべてのツキに見放されたわけではないようだ。


滝口が電話を終えるのを待ち、私は滝口に聞いた。


「どうですか、今日これから相手の予定は大丈夫そうですか」
「えぇ、これから伺いますと伝えました」


金融機関の支店は、ここから車で15分ほどの場所にあるらしい。
私は滝口が乗ってきた車に同乗し、支店に向かうことにした。


車内では私は必死に頭の中を整理しようと努めていた。
滝口に話しかける余裕すらない。


もちろん滝口も無言のまま運転を続けている。
こいつは今頭の中で何を考えているのだろうか。果たして金融機関では抹消登記に協力してもらえるように話を進めてくれるのだろうか。


お互い重苦しい雰囲気を身に纏いながら、ほどなくして車は運命のターニングポイントに到着した。



To Be Continued

消せない根抵当権 その16

登記所の奥まった応接室で、私と滝口は二人だけ取り残されてしまい、しばらく沈黙だけが支配する時間が流れた。

登記申請された根抵当権の抹消書類は偽造、当事者である売主の不動産会社の社長は失踪、明後日の金曜日までに何とかしないと抹消登記は却下されてしまうという登記官の最後通告もあった。


どうすればいいのだろう・・・・・。


私の頭の中は次から次へと降りかかる難題に、出口のない迷路に迷い込んだように焦燥感と絶望感だけが支配している。
不動産取引の経験も知識もない私には、現状の問題を打開する方法を見つけることは出来るはずもなく、状況は底の見えない深い闇に落ちて行くばかりだ。


私は沈黙と絶望に耐えきれなくなり滝口に詰め寄った。
「滝口さんは購入の際に、責任持ってやりますからと言ってましたよね。どうしてくれるんですか?」


滝口は俯いて沈黙したままである。


滝口にしてみても、頭の中は私と同じように混乱している状況なのであろう。

しかし、滝口は今回の問題の原因となった売主の会社の担当者なのである。

不動産取引の経験も知識もあるはずなので、何とかいい知恵を絞ってもらうしかない。
今は彼に頼る以外、先に進む方法はないであろう。


先ほど部屋を出ていった登記官が、チラチラとこちらを伺っている。
早く私たちに出ていってもらいたいのだろうか。


「滝口さん、ここにいても埒があかないので、とりあえず外に出てどうするかを話し合いましょう。いいですね?」

滝口は声もなくうなずいた。


私たちは登記所を出て、近所の喫茶店で話し合うことにした。
私は喫茶店で向かい合わせの席に座り滝口を見た。
滝口はずっと下を向き無言のままである。


絶望に支配されながらも、私は滝口に話しかけた。
「滝口さんは今まで何件も不動産の取引をこなしてきた。いわばプロだ!何とか問題を解決するいい方法はないんですか!!」


沈黙を続けていた滝口がおそるおそる顔を上げ、私を見た。

滝口が口を開く。

「高瀬さんには本当に申し訳なく思っているのですが、偽造書類なんてのは私も初めての経験でして、どうしていいのか分からないのが正直なところです・・・・・」


私が聞きたいのはそんなことじゃあない!
解決策を聞きたいんだ。何か知恵を絞って解決策を探してくれ!!


「もし解決策があるとするなら・・・・・・」


おっ、
なんかあるのか?


「金融機関に今回の事情を話して、抹消登記に協力してもらうほかないかもしれません」


そうか、金融機関に抹消協力を頼むのか。私はそこまで頭がまわらなかった。

それはいい案かもしれない。
金融機関に詳しく事情を説明すれば、売買して所有者もかわっていることだし、確かに抹消登記に協力してもらえるかもしれないだろう。


ここはすぐにでも金融機関に行って、根抵当権の抹消の交渉をしなければいけない。


深い闇の中でもがいていた私に、一縷の希望の光が射したような気がした。



To Be Continued

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