消せない根抵当権 その5 | 大竹司法書士@法律ってなんだろう!?

消せない根抵当権 その5

私たち夫婦が、運命の物件に出会った翌日のことである。

(この時すでに運命の出会いを感じていた)

私は不動産の登記簿を事前に調査することにした。
普通の人生なら、登記簿を見ることなんて一生のうち2,3回あるかどうかであろう。
しかし私は今までに何十回となく登記簿を見たことがあったのである。


実は、学生時代、先輩の紹介で3ヶ月だけだが司法書士事務所でアルバイトをしたことがあった。
最初は机の上での事務仕事がメインかと想像して入ったのだが、予想に反してほぼ100%体力勝負の仕事だった。
雨の日も風邪の日も、一日5,6カ所の登記所を毎日毎日廻らされたものだ。
もちろん仕事の内容は登記簿の調査業務。
結局3ヶ月だけでは、事務所のパソコンにすら触らせてもらえなかった。


事務所では1人厳しい先輩がいて、来る日も来る日も登記簿のイロハから調査のしかたまでたたき込まれたものだ。

今思い出してもふつふつと殺意が・・・・・。

まあ、私の話はいいとして、普通の人より登記簿にはなれており、記載内容も半分ぐらいはわかっているつもりだ。
バイトをしていた頃とは違い、今では登記簿だけならインターネットでも閲覧ができるようになったらしい。
昔のことを考えると、随分便利になったものだ。


早速私はパソコンで不動産業者の滝口から教えてもらった地番で土地の登記簿を閲覧してみた。

パソコンの画面に登記簿が表示された。


なになに、土地の広さは148.5㎡か、東京の郊外としてはまあまあの広さだ。

次に土地の所有者が記載してある甲区を見てみた。

確かに滝口の名刺に記載のある会社が所有者としてのっている。

甲区は問題ないか・・・・。


次の瞬間、私は担保権の表示がある乙区を見て絶句してしまった。


「なっ、なんだこれは、極度額3億円の根抵当権が、登記簿の最後にひっそりと自分を主張している・・・・」


ここですぐに騒ぎ立てないのが、3ヶ月間司法書士事務所でのアルバイト経験がある私の強みである。

「落ち着け、落ち着くんだ自分(・_・;)」


その時、昔先輩に教えてもらったことを思い出していた。

新築分譲の不動産の調査をしていたら、予想外の抵当権がついていたことのあった時だった。


「先輩、この不動産これから分譲する予定でまだ買い主もついていないのに、何ですでに抵当権がついているんですか?」
「これは分譲業者が建売住宅を売り出すのに、自己資金がないと銀行から借金をして土地を仕入れて、建物を建てて売るから、借金の分だけ土地に担保がついているんだ」


まだ社会をよく知らなかった私は、先輩からその話を聞かされて、感心してほんの少し先輩を尊敬したものだった。


しかし、今回の根抵当は金額が3億円とは・・・・。

今回の分譲住宅以外に、どこで何をしてこんな金額を借り入れたんだろう。


確か先輩はこんなことも言っていた。


「この抵当権は売るときはどうするんですか?こんなのがついたままだと買い主も困っちゃいますよね」

「これは売買の決済日に、買主が購入代金を売り主に支払った時、売り主はすぐ借入銀行に返済し、同時に抹消書類もその場で出してもらえる。」
「売買の登記を登記所に提出する際に、抵当権の抹消登記も連件で申請するから、売買の登記が終わったときには、抵当権も抹消されていて、買い主には不利益が出ないようになっているんだ。まあ、簡単に言うと売買代金の支払いと債務の弁済・抹消書類の交付が同時履行の条件が付いているんだな」

「わかったか、この唐変木」


一言多い奴だ、おまけに古い・・・・。


余計なことまで思い出してしまったが、今回もそういう手続きになるのだろうか。


いや、ならないとまずい!!


十分注意して話を進める必要がありそうだ。


私はとりあえず登記簿をプリントアウトし、滝口から価格の返答があった際に確認してみようと心に決めて、出社することにした。