消せない根抵当権 その21
私は本当に騙されたのだろうか。
自宅の購入に支払った金額は現金で4,000万円。
現在自宅の土地に設定されている根抵当権はなんと極度額3億円。
本当は購入と同時に抹消されるべきであったものが、なにやら訳の分からないまま今も設定されたままになっている。
単純に計算しても、2億6,000万円の赤字だ!
いかん、引き算などしている場合ではない。
こんなものを支払う義務など、私には無いはずなのだから。
金融機関の担当者 柴田の説明を聞き、今置かれている自分の状況を痛いほど思い知らされた。これからどうすれば・・・・・・・。
途方に暮れてしまった私だったが、隣りに座る滝口に今更ながら気がついた。
滝口はじっとテーブルをにらみつけたまま、先ほどから何も言葉を発していない。
滝口を見ると、額には玉のような汗が滲んでいた。
私はこの事態の突破口が何も見いだせないまま、滝口に言った。
「滝口さん、あなた私に、"登記の責任はすべて私がとりますから"って言いましたよね。これどうしてくれるんですか?」
滝口は一瞬悲痛な表情を浮かべた。
「す、すいません・・・・・」
消え入りそうな弱々しい声だ。
「謝ってもらっても、何の助けにもなりませんよ!どう対処してくれるのか、具体的な返事をしてください」
滝口は目をギュッとつぶったまま、俯いたままだ。
滝口には直接の責任はないのは、法務局からのやり取りを聞いている限りでは明らかだろう。
心の片隅ではわかっているのだが、今私にできるのは滝口を責めることしかないのだ。かわいそうだが・・・
「滝口さん!!」
私もつい声に力が入る。
その時、柴田が私たちの間に割って入ってきた。
「まあまあ高瀬さん、ここでケンカをされても事態は何にも変わらないので、やめてください」
相変わらず冷静な奴だ。いや、冷静を通り越して、冷たい奴だ、嫌いだ。
「とりあえず、事態を正確に把握するために、社長の消息も含めて、情報を収集して整理することが先決でしょう。滝口さん、ここしばらくの社長の様子を聞かせてください」
柴田、良いことを言うじゃないか。頼れる奴かもしれない・・・。
柴田の言葉に、滝口がやっと顔を上げて私たちを見た。
「今思うと、ここしばらくの社長の様子はおかしかったように思います」
私と柴田は、全身で言葉を感じるかのように、滝口の話に意識を集中させた。
「実は社長は高瀬さんが今回の不動産の購入を決めた辺りから、ほとんど会社には来ていませんでした」
「じゃあ滝口さんはどうやって私の売買を進めていたんですか?」
「社長から電話で指示が来ていまして、私からも電話で日に1回、報告するような感じでした」
そうだったのか。
今度は柴田が問いかける。
「それで、おかしかったように思うというのは?」
「はい、今回とは別の物件なんですが、半年前から購入を検討し、地主に交渉を持ちかけていた件がありまして。それがちょうど1ヶ月程前だったと思います。急に社長がやはり購入は延期すると言い出しまして」
なにやら私の知らなかった、バックグランドの話になって来たようだぞ。
滝口が続ける。
「絶対高く売れるだろうと読んでいた物件だったので、私が"社長どうしてやめるんですか"って聞いたんです」
柴田も興味深そうに聞いている。
「そしたら、仕入れ資金でトラブルがあったから、延期だと言いまして」
私にはこの話が何を意味するのかまだ分からない。
でももうしばらく黙って聞いてみよう。
「今更こんな話をしてもしょうがないんですが、うちの会社は結構収益をあげていたんですよ。柴田さんもよくご存じだと思いますが。だから仕入れのための資金が不足することなんて、考えてもいなかったんですよね。」
「確かに滝口さんの会社は、業績は悪くありませんでした」
柴田が答える。
「その頃から社長があまり会社に来なくなってきました。毎日どこかに行っているようでした。」
いよいよ行動が怪しくなってきた。
「たまに会社に来ても、なにやら自分の部屋で、電話ばかりしていました」
「どこに電話していたのかわかりませんでしたか?」
「ええ、私にはまったくわかりませんでした」
ん~、これだけでは何にも解決の糸口がつかめない。滝口、他に何か情報はないのか?
柴田も私と同じ思いらしく、滝口に言う。
「それだけじゃああまり役に立つ情報とは言えませんね」
あたりまえだ。
「そういえば・・・・」
んっ、
「社長が留守の時に、2度ほど知らない女性が訪ねて来たことがありました。名前は香坂と名乗っていました」
女性??
あまりにも月並みすぎるが、犯罪の影に女ありか・・・・・?
To Be Continued