死刑弁護人 | LIVESTOCK STYLE

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風琴工房詩森ろばのブログです。

ここを読んでらっしゃる方のおそらく多数は、
死刑存置をのぞんでらっしゃるのかな、
と思います。
日本では心情的にどうしても存置が多数になるようです。
罪と罰、というものが宗教的な文脈では語られず、
血縁の情が濃い。
結果、
わたしがもしもあの立場になってしまったら、
という共感のこころが強い。
それは悪いことばかりではなく、
日本人のひとつの美点とは思うのですが、
結果として死刑はなくならない、
なくすのは難しいと感じています。


わたしは廃止派です。
とはいえ。
廃止と存置の是非、
そういう視点でこの映画を見ると
大きなものを見誤りそうです。


「死刑弁護人」


多くの引き取り手のない死刑事件を
扱った弁護人。
安田好弘さんのドキュメンタリです。
古くは新宿西口バス放火事件、
和歌山カレー事件の林真須美被告、
オウムの麻原被告、
そして最近では
光市母子殺害の弁護で、
悪魔の弁護人とまで言われました。


わたしは彼に関してのある程度の知識は
もちろんあったのですが、
それでもマスコミで報道されている
彼の姿を真に受けてこの映画を見ると、
その穏やかな語り口と、
求道的でありながらも
理想のみに堕ちない、
情感に溢れつつも
情に流されない
その在り方のすべてに
驚くのではないかと思います。


主義主張が同期するかどうかは
まず置いておいて
ぜひこの映画を見ていただきたいです。
日本というこの国にも、
こういう大人がちゃんといる、ということが、
わたしたちのひとつの拠り所となるのではないか、
そんなことを思いました。
それほどに安田弁護士とは
凄まじいひとでした。
修羅である、と思った。
こんなこと、解ってしまうひとは修羅だ。
そして、
彼の足もとにも及ばないにしろ、
わたしもまた同じ修羅を生きていると思った。


先日見た「わたしを生きる」もそうですが、
マスコミによってねつ造された世界は
恐ろしい、と思いました。
事実は
「報道されること」
「報道されないこと」
の両面から改ざんされ編集されうる。
もちろんこのドキュメンタリだって
編集された世界であり、
ぜんぶを鵜呑みにしてはいけない。
けれど、
マスコミ報道と実像の大きな乖離を
あからさまに見せつけた、
という点でも価値のある映画だと思います。


いろいろ価値観を揺さぶられるところのある映画でしたが、
そのなかで、
オウムの麻原について言及された箇所が
凄かったと思います。
短い言葉で、
麻原というひとの得体のしれない奥深さと
魅力を語りきっていました。
正直に言うと、
いままでどんな文献を読んでも
あれほどのひとたちが麻原を盲信し、
なぜあんな事件が起こったのかがどうしてもわからなかった。
しかし、
やはりカリスマであったのだと。
それを前提にしないとオウムはやはり解釈できないのだと。
はじめてわたしは思ったのでした。



しばらく期限を切らず
ポレボレ東中野で公開していくようです。
来週すぎるとレイトショーになるのかな。
ぜひ見ていただきたい映画です。
オススメいたします。