グラン・トリノ | LIVESTOCK STYLE

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風琴工房詩森ろばのブログです。

そして見逃していたこの映画も見たのでした。
素敵な映画でした。
クリント・イーストウッドの差別に関しての
キッパリとした態度はどうやって醸成されたものなのかしら。
アメリカのインテリ層では、
こういう意識の在り方って、
多数派とまでは言わないけど
ある程度浸透しているものなのかしら。
それとも、
やっぱりマイノリティなのかしら。


まあそんなことはいいのですが、
丁寧にレイヤーを重ねたテキストが素晴らしく、
俳優は最後にする、と言っているクリントの演技にも
グッと引きこまれるとてもよい映画でした。






(ここからラストのネタばれあり、です)






そして、この映画が出色なのは、
ラストの仕掛けではないかと思います。
クリント演じるウォルトは
敵を殺めることなく
丸腰のまま死んでいくのですが、
子供を閉じ込めて復讐にでかけることで、
その結末を予感させないという
テキストの仕掛けの「巧さ」が
なにはさておき素晴らしい。


しかし、わたしは、
ちょっと邪道な感じ方かもしれませんけれども、



西部劇のアクションスターとして、
正義の暴力を華々しく生きたクリントだからこそ、
暴力は犯さない、しかし大切なものは守る、
というそのウォルトの選択が、
虚構の中での暴力は正義のためならあり、
という映画や創作物のなかで延々信じられてきた
ロジックを否定するという
ダブルミーニングに思われ、
そのことにとても強く心打たれたのでした。



不屈のヒーローも撃たれれば死ぬ。
でもひとは最後の一瞬まで
あたらしい価値観を獲得していくことができる。



そういったシンプルで、
でも見失いがちな大切なことを
今年80歳になるというクリントが、
身を挺してわたしたちに見せてくれた映画だと思います。



ささやかな映画ですが、
大きなギフトをもらった。
そんな体験でした。