Civilian/Gentle Giant | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 あれだけ完成度の高い、行き着くところまで行ってしまったLiveアルバムを発表した彼らが次に発表したスタジオ・アルバムが全ての始まりであった。PunkやDiscoが音楽界を席巻した77年にリリースされた『The Missing Piece』は、不幸なアルバムだ。当時は酷評されたが、FunkやPunkを取り入れたようにみせかけて彼らの複雑に構築された音楽性はまだ、以前よりわかりやすく聴かせるような曲調の中で独自性を主張していた。つまりシンプルで親しみやすさ、わかりやすさを装いながら一流の技巧と綿密に考え抜かれたアイディアを散りばめた完成度の高い楽曲で構成された傑作である。問題は続く2枚のアルバムである。幅広いリスナーを獲得するように周囲からかけられた抑圧は相当なものであったらしい。続く『Giant For A Day』は、おそらく多くの彼らのファンからワースト作扱いされている作品である。実は本国よりも米国で人気を集めていた彼らは、全米アルバムチャートで40位台を獲得後もチャート・インを続けていたのだが、よりシンプルな作品でチャート圏外を記録したのも大きかった。そしてGentle Giantとして最後の公式スタジオ・アルバムとなった本盤『Civilian』がリリースされる。前作より持ち直した作品として現在はそれなりの評価を受けているが、全盛期の彼らを求めるファンからの支持を得ることはできなかった。それでも、Gentle Giantのアルバムとしてではなく英国ロックとして聴けば十分Qualityの高いアルバムだ。個人的には前作もSwampで、Steely Dan的な仕掛けを施した愛すべきBritish Rock的作品として気に入っている。本作ではより米国市場を意識し、メリハリをつけCatchyなメロディーを前作よりも強調した。彼ららしさが殆んど失われてしまった最後の2枚のアルバムも、実はGary Greenギターがこれまでよりも目立っていて個人的には楽しめる作品となっているのだ。

 『Civilian』はGentle Giant80年の春にリリースしたアルバム。前作よりサウンドはよりHardSolidになり、Derek ShulmanのVocalもパワー全開だ。楽曲も、よりストレートになった。それにしても、らしくないジャケットは80年代のNew Waveバンドのよう。そして、Ray Shulmanのピック弾きによって、あの深みと腰のある素晴らしい低音を聴かせてくれたFender Precisionに変わって8弦ベースが、このアルバムの殆んどで弾かれている点と、アコギを取り入れたナンバーが1曲で、それもかなり目立たない扱いにしかなっていない点、さらに米国録音によって彼らが持っていた英国的な憂いに満ちた陰りのあるくぐもった音が失われてしまった点が残念だ。英国的なTradの香りはむしろ前作よりも希薄になってしまった。しかし、79年はアルバムをリリースせずに米国にまで行って、それっぽい曲作りと録音を行った本作は、Derekにとっては思い入れのある作品らしい。確かに楽曲は前作より遥かに考え抜かれてPopかつシンプルでわかりやすいメリハリのある構成で幅広い音楽層にアピールするものになっている。80年代にはGenesisや、Yesが楽曲をよりコンパクト化してMainstreamに接近した大味な音楽でUS市場において大成功を収める。本作はそれらの作品に比較しても音楽性は高く、彼らより遥かに高度なテクニックは抑え気味ではあるが隠し味として機能している。歌詞も彼ららしい社会性を持ち、鋭い批評精神も健在だ。しかし、本作以上のUS市場へのすり寄り、大衆路線を彼らは望まなかったのだ。そして楽曲やアレンジがシンプルになっても細部で捻りまくった楽曲や米国社会への批判全開の歌詞など、英国人気質を捨て去ることは最後まで出来なかったのだろう。
オープニングはElectricなイントロから始まる“Convenience (Clean And Easy) ”。Igor Stravinskyの"Rite of Spring"を引用しながらサビはCatchyでSolidなリズム隊も迫力満点。この曲のみGary Greenが作曲に加わっている。
GreenのBluesyなギターRiffがカッコイイ“All Through The Night”。
Shadows On The Street”はKerry MinnearのGentleなVocalをFeatureしたナンバーだが、かつての深みはない。
Number One”はIntroが8分音符くって入る騙しのRgythmだが、彼らにしてはシンプルなもの。
Underground”は、YesをParody化したような曲。John WeathersのドラミングはUp Tempoでも、変拍子でも真っ黒いBack Beatでも何を叩かせも抜群のノリを出せるところがGGの強み。
PopでNew Waveな雰囲気の“I Am A Camera”。ノリがパワフルなYesとかThe Bugglesみたいな感じ。未来を見越したかのような歌詞も秀逸。
Inside Out”はArpeggioと無表情なChorusが淡々と続く。派手なギター・ソロがあってもいいのに最期まで無機質なまでに押し通すのが面白い。
最後は、80'sなイントロとRhythmを先取りした“It's Not Imagination”。メディアのSubliminal Advertisingを鋭く描き出した歌詞が彼ららしい。そして再びジャケットとアルバム・タイトルを見返すと、それが、このアルバム全体のThemeでもあることに最後に気付かされるのだ。最後の最後に彼ららしい仕掛けでニヤリとさせられる。80年代ど頭に1枚のアルバムを残し、MTVの時代全盛の時代には、Grntle Giantは既に解散していたのだった。
(Hit-C Fiore)