Music Zounds/Wolfgang Dauner Trio | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 大好きなドイツのピアノ弾きの変なオジサンWolfgang Dauner。いやいや、外見で判断してはいけない。すごい才能を持った御方である。そして、この音盤を聴いてますます好きになった。まず、人を食ったようなジャケットが最高。50年代後半に欧州には珍しい陽性のSwingyなピアノでデビューしたDaunerは、その後、劇的にそのスタイルを変化し続け一筋縄ではいかないどころか、どこまで本気なのかユーモアなのか、全く理解できないところが素晴らしい。人を楽しませたり、驚かせたりするのが好きというより、自分が楽しんじゃってるような困った御大であるが、なぜか憎めない。例えはなんだけど、天才漫画家の赤塚不二夫先生を連想してしまうのであった。Keith Jarrettも裸足で逃げ出すような耽美的な演奏や、スリルに満ちた超絶技巧のピアノ・テクニックを披露したかと思えば、突然PsycheでHippieな方向に行ってみたり、前衛的な、どフリーの世界に転じて、わけのわからないことをやってみたり、常人には、とても考えが及ばない人である。これまたドイツが世界に誇る有能なベーシストのEberhard Weberと、後にJazzrockグループExmagma にも参加する鬼才ドラマーFred Bracefulとのトリオは、64年作の『Dream Talk』という、Aggressiveで理知的で優雅な美しさも共存する、きわめて欧州的な魅力を持つ名作を残している。かと思えば、67年にSabaに残した『Free Action』ではJean-Luc PontyMani Neumeierなどのゲストを迎えてEthnicな要素も加わったAvant-GardなJazzを演奏している。DaunerのトリオはDaunerとEberhard Weberが固定で、ドラマーはFred BracefulであったりRonland Witichであったりする。またPierre Farvreをドラムに迎えた67年の『Klavier Feuer』では、当時のヒット・ナンバーを心地良くBossa風な演奏もまじえて陽気で抜群のノリで楽しませてくれる。


 『Music Zounds』は70年MPSからリリースされたWolfgang Dauner Trioのアルバム。正装してお真面目な顔してピアノの前でポーズをキメつつ、「There is nobody as fascinating as a musician」なんて、漫画のフキダシみたいにつぶやいているジャケットのセンス。これは素晴らしい。この辺の御フザケをどう解釈するかでDaunerに対する評価は変わってくるだろう。元来、保守的にJazzを追求していく学究肌の方々には、時にシリアスに、時にユーモアたっぷりに自由奔放に外しまくるDaunerの感覚が中々理解できないのかもしれない。

 本作では勿論、ベースは天才Eberhard Weber。ドラムスはRoland Wittich。同年にECMから『Output』という実験的な作品を残しているのが信じられない、吹っ切れたような明快で陽性のJazz。それにしても、60年代後半から70年代頭くらいまでのDauner関連作のリリースは、作品数もさることながら振幅の大きさに驚く。おそらく創作意欲の嵐が吹き荒れ、新しい音楽のアイデアが次から次に湧いて仕方なかったのかもしれない。当時、DaunerがProgressiveなJazzやInnovativeな音楽を目指そうとしたのかは、さておき、とにかく、それらの作品はExperiemtalな要素に満ちていた。本作を聴いて、まず驚くのはアコピにEffect処理したかのような残響音が耳につくところである。普通じゃない、やっぱり。時折、高音部で歪んでしまったりするのだけれど、これまた味にしているのがスゴイ。

アルバムのオープナーはノリが抜群の“Leap Tick”。こういうナンバーを聴くと、かつてクラブ界隈でDauner関連作が重宝されたのがよくわかる。MPSからリリースされたQuintet編成での『Oimels』や上述のKlavier Feuer』のナンバーに近い、キャッチーで腰が動き出す系である。

The Things We Did Last Summer”は大好きなスタンダード・ナンバー。これは比較的真面目に演奏。

Es läuft”ではDaunerの嬉々とした嬌声Scatが飛びかう。世の中には演奏中に声を発するピアノ弾きは意外と多いわけだけど、超絶技巧のあの方々のようなNarcissisticなものではないのが素晴らしい。このオジサンは音楽で自由に遊んでいる。この遊び心満点のこの半端ない突き抜け方は最高。

Jean-Luc Pontyのペンによる“Golden Green”もお気に入り。

やっぱり、この変なオジサンは素敵だ。

(Hit-C Fiore)