「法律の作り方を教えてください。プロセスがイマイチよく分からないんです。」

学生さんに質問されました。


彼に、僕は何を話せばよいのか、少々僕は悩みました。


1年くらい研究会で実態調査や各国調査や論点整理をして、

それから、正式な審議会で議論しつつ、内閣法制局で条文の審査を受けて、

関係省庁や団体、地方自治体などと調整して、さらに国会議員に。。。


そんなことを説明しても、学生さんにはイメージが湧かないような気がしたのです。

それぞれのプロセスの意味が多分分からないんじゃないかと。


そこで・・・

まず、法律を作るというのは、どういうことかということを話しました。



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君が大学のサークルや研究室で、メンバー全員で旅行に行くとしよう。

行き先や行程、費用、日程など、色んな希望の人がいる中で、

みんなが納得する一つの結論を出さなきゃいけないよね?


それと、法律を作るというのは、関係者の多さや利害の複雑さは異なるけど、

本質的には同じことなんだ。


○全員が従わなければいけない一つの決定をする(基本的に退出できない)

○意見・希望・利害が人によって異なる


こういう条件でものを決めることは、法律を作る以外にも普通のみんなの生活の中でもあると思うんだ。


夏休みに、サークルや研究室のメンバーで旅行に行く。

みんなが、とても楽しみにしている年1回の親睦旅行だ。

そのために、毎月旅行費用の積立てもみんながしている。


そう。

旅行にみんなで行くというのは決まっている。

でも、具体的に行程を決めようとなると、意見は百出だ。

君は、旅行の企画を任されている。


A君は、夏はパーッと海で泳ぎたい。できるならハワイに行ってみたい。

B子さんは、水着になるのはイヤだから、海には行きたくない。

C君は、飛行機恐怖症で、旅行に行くのは楽しみだけど電車でないと困る。

D子さんは、観光とおいしい料理を楽しみたい。

E君は、温泉でのんびりして、花火大会をみんなでやりたい。

F子さんは、とにかく海外はイヤだ。国内でもできれば近いところがいい。


みんな、ずいぶん意見が違うね。

誰かの意見を通そうとすると、誰かが困るみたいだ。


みんなの意見をちょっと考えてみよう。

A君の希望のハワイに行くためには、積み立てていた旅行費では足りないね。

1人5万円追加で集めたら行けるかも知れないけど、F子さんは海外は絶対イヤだと言うし、

C君は、飛行機は苦手だ。

A君の海に行きたいというのと、B子さんの希望は真っ向から対立するね。

D子さんの希望もちょっと違うみたいだ。


この前の企画会議では、みんな自分の希望を言うばかりで、

全然話がまとまらなかったよね。

最後は、みんなが譲らないと旅行の企画が決まらないよ!

と、困って君は声を荒げてしまったね。

でも、みんなも自分の希望にこだわり続けたら旅行の企画が決まらないということは、

わかってるさ。

せっかくの親睦旅行だから、欠席者はなしで、みんなが「楽しかった」と思える旅行にしたいもんだよね。



みんなで集まっても、意見を譲りづらいだろうから、

一人ひとり、どうしてその希望にこだわっているのか、どのくらい強くこだわっているのか、聞いてみよう。

そのこだわっている理由が、わがままじゃなくて仕方のないものなら他の人の理解も得られるんじゃないだろうか。


A君

「どうしてもハワイってわけじゃないんだ。一度行ってみたかったけど、今回でなくてもいいよ。でも、海はやっぱり行きたい。夏は海だよ。」

B子さん

「私、水着になるのは本当にイヤなの。日焼けするのもイヤだし。」

C君

「昔、飛行機に乗って具合が悪くなったことがあって、それ以来飛行機には乗っていないんだ。せっかくの旅行なのに、具合悪くなってみんなに迷惑かけるのもイヤだ。それ以外は、こだわらないよ。僕も旅行は楽しみにしてたし。」

D子さん

「どうしても海がイヤってことはないけど、私は子どもの頃から旅行と言えば観光と料理を楽しむものなのよ。でも、今回はみんなの旅行だから、みんなが海がいいっていうならいいわよ。」

E君

「最近、バイトと勉強で疲れてるから、のんびりしたいんだよね。あとは、思いで作りにみんなで花火したいってのが希望かな。」

F子さん

「みんなの前では、あんまり言いたくなかったんだけど、私兄弟が多くて、奨学金と家庭教師のバイトで生活していて、追加負担は難しいんだ。だから、積立金の範囲だったらよいのだけど。どうしても、ハワイとか追加負担があるのなら、残念だけど欠席かも。本当は行きたいのだけど・・・。」



なんとなく、みんなの本音が聞けた感じがするね。

予算の制約がある中で、追加負担が難しい人がいるとなると、行き先はやっぱり近場かな。

電車で行けるしね。

それと温泉があって、観光ができて、海があるところだね。

旅館は料理がおいしいところがいいね。

海はどうしようかねえ。。。

A君は海をとても楽しみにしているから、海も行かせてあげたいけど、

どうしてもイヤだという人もいるからね。

昼の行動は2班に分けてもいいかもしれないね。

それでも、夜みんなで一緒に楽しめば、親睦も深まるしね。


だいたいみんなの希望を総合すると、例えばだけど行程はこんな感じかな。


行き先:熱海(電車で)

昼:海に行くチームと観光チームで分ける

夕方から:旅館で地元の魚料理で宴会

夕食後:温泉でゆっくり

夜:浜辺で花火大会


こういう感じの行程で、みんな納得してもらえるか、

もう一度、一人ひとりのところに行ってみよう。


君は、A君に言うんだ。

「A君、君の海に行きたいという思いはよく分かったよ。ただ、この旅行はみんなが『楽しかった。いい思い出になった』という思いで帰ってこれるものにしたいんだ。なんとか、海に行ける行程にしたいと思うから、ハワイは何とか我慢してくれないか。正直言うと、追加負担する余裕がないメンバーもいるんだ。」

A君「わかったよ。別に、俺もわがまま言うわけじゃないから。海だけは頼むよ。」


次は、B子さんに。

「B子さん、君が海に行かずに、でも旅行をみんなで楽しめるように考えたい。A君の海へとの思いも強くてね。でも、他に海意外が希望の人もいるから、昼間は班分けしてもいいんじゃないかと思うのだけど、どうかな。夕食からはみんなで一緒に楽しめるし。」

B子「いいわよ。海に行かなくていいなら、あとはこだわらないから。」


C君に

「C君、飛行機は乗らなくていいようにするよ。費用的にも近場でないと追加負担が発生して難しいんだ。」

C君「無理言って悪いね。」

「大丈夫。きっとハワイに行きたいと言っていた、A君も納得するよ。ただ、A君は近場であっても海には行きたいみたいなんだ。海に行くのがイヤな人もいるから、いやでなければA君と一緒に海に行ってくれると助かるんだけど。」

C君「もちろんだよ。A君とは普段から仲いいし、僕も海は好きだよ。」


D子さんに

「D子さん、みんなの意見を総合すると、昼は海に行くチームと観光チームと2班作ろうかと思うんだ。海が苦手な人もいるし、どうしても海に行きたい人もいるので。」

D子「いいんじゃない。みんながそれで納得するなら、大歓迎よ。夜はみんなでぱーっと盛り上がりましょ。」


E君に

「E君、宿は温泉のあるところをとるよ。それと、海に近いから、夜は浜辺で花火大会もできるよ。」

E君「まじで!よかった。すごい楽しみだよ。」


F子さんに

「F子さん、行き先は追加負担のない近場にしようと思うから安心して。」

F子「そう・・・。でも、なんか私のせいで、みんなに我慢させてしまったんじゃないかな。」

「ううん。A君はね、特別ハワイに強いこだわりがあるわけじゃないようだよ。今回じゃなくても行けるし。それに、飛行機が苦手なメンバーもいるから、近場が一番いいと思うよ。」

F子「そうなの。よかった。私、旅行楽しみにしてたんだけど、みんなと希望が合うか不安だったの。」



どうやら、

旅行の行程が固まりそうだね。



こうやって、

みんなの意見や利害が異なる中で、

全員で一つの決定に従わなければいけない。

これと法律を作ることは一緒なんだよ。


ポイントは、こんなところだよね。

①みんなに「自分の意見に固執したら何も決まらない。」ということを理解してもらうこと。

②他の人の意見も、自分の意見と同じように尊重しなければいけないことを理解してもらうこと。

③みんなの意見とその背景、こだわり度合いをちゃんと把握すること。

④一人ひとりの意見を聞いた時に、一度はその人の立場になって共感してみること。そして、他の人に理解されるか考えてみること。

⑤誰の意見もないがしろにせず、できるだけ取り入れること。


ところで、君が、みんなの意見を丁寧に聞かずに、

熱海行きの行程をただ提示したら、みんな納得しただろうか?


今回のケースは、誰も100%希望が通っているわけではないんだ。

多分、みんな30%くらいしか希望が通っていない。

おそらく、突然結論である行程を提示したら、

「なんで、俺の意見が70%も無視されなきゃいけないんだよ!」

と怒る人もいたかもしれない。


きっとね。

君が、みんなの意見をちゃんと聞いて取り入れたから、

みんなは、

「全部希望は通らないのは当然だけど、30%でもあいつは取り入れてくれたんだな。」

そう思っているよ。


これが、法律を作るっていうことなんだよ。

もちろん、君は旅行の企画者だから、みんなの希望に合う観光地の知識や費用の見積もりや電車なども調べないといけない。

それは、僕らで言えば官僚としての政策についての専門知識なんだと思う。

それはとても大事なことだけど、それと同じかそれ以上に、色んな立場の人の意見を切り捨てずに、ちゃんと聞くことが大事なんだ。


そうやって、自分の意見が何割かでも聞いてもらえたのなら、

同じ結論でも、納得感やできあがった法律に対する信頼感が全然違ったものになるよね。


法律ってのは、全員が従わなきゃいけないルールだよね。

みんなが、そのルールが大事だと思っていれば、みんなその通り動くし、

逆に、勝手に決められたルールだと思えば、「俺は、そんなのしらねえ。」と、

守る人が少なくなっちゃうよね。

それじゃあ、せっかく法律を作っても社会はよくならない。

だから、プロセスがとても大事なんだ。


で、実際に法律を作るときは、

とっても、めんどくさいプロセスがあってね・・・

だけど、今言ったように、とっても大事なプロセスなんだよ。

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そこまで、話すと法律を作るプロセスの意味を学生さんに理解してもらえたみたいです。

僕は、安心して実際の法律を作る時のプロセスを話し出したのでした。

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