前回のブログでは、ビジネスと政策の本質的な違いについて書きました。

政策ができあがるまでには、慎重なプロセスが必要と。


慎重なプロセスがなぜ必要なのでしょうか。

乱暴な言い方をすれば政策を作るということは、

「全国民に強制的に1つの商品を押し売りする営み」だからです。

政策(制度や行政サービス)を使う時に、お客さん(国民)は選べないい、その費用は税金や保険料として強制的に徴収されます。

事前におおまかな社会的合意をとっておかないと、よい政策ができないし、

困る人や不満を強く持つ人が出てくるからです。


実際に、どのようなプロセスを経て、政策はできあがっているのでしょうか


メディアの報道では、そのプロセスの過程の中で目立った時にポンと出てきます。

それは、まるで鯨が海面に出てきて潮を吹く様子を船の上から見ているような感じではないかと思います。


今日は、実際に鯨号に乗って、僕らはどのように回遊しているかを書いてみたいと思います。


政策と一口に言っても、そのツールは多様です。

法律、予算、税制、PRなどなど。

ここでは、一番慎重なプロセスが求められ、かつ、自分自身の経験の多い「法律を作る」ということを例にお話したいと思います。


(注意)

1月上旬に招集される通常国会に提出する内閣提出法案を前提としている。
あくまで一般的なプロセスであり、重要法案や対決法案の場合は多少変動あり。

  政府が提出する法律案のプロセスであり、この他議員立法もある。


【法律ができあがるまで】 

1 省内の提出予定法案の決定(9月頃に概ね決定し、年末頃方針決定)
国会の審議時間が限られているため、省内の法案に優先順位をつけてどの法案を提出するか決める。省内の政策コンペティションのようなもの。
 【アクター】大臣官房総務課と法案担当部局→政務三役、厚生労働関係の与党議員

2 政府内の提出予定法案の決定(1月上旬に文書課長会議で決定)
①と同様のコンペティションを政府全体で行う。
 【アクター】内閣総務官室と各省庁の大臣官房→内閣、与党国会対策委員会

3 審議会のとりまとめ(前年の春~夏頃検討を開始するのが一般的)
その分野に詳しい人、関わりの深い人と議論をしながら案をとりまとめる。
 【アクター】現場の人、制度を使う人、お金を払う人、学者など専門家、法律家、メディア、労使など・・・。

4 各省庁との調整(重要な利害のある省庁は秋頃から事前に相談。閣議決定直前に全体調整)
他分野の政策への影響などを調整する。

  予算を必要とするものは財務省との調整、地方自治体の仕事に影響を与えるものは総務省との調整が重要。特に、どんなにニーズがあっても、予算がなければ実行できないので、それは大きな制約条件となります。
 【アクター】各省庁。重要な論点については、政務三役同士の折衝も行う。
  ※ 法令協議により各省の了解得た法案でないと閣議決定できない。閣議決定は全会一致

5 関係団体・地方団体との調整(秋頃から事前に相談。閣議決定直前に最終調整。)
現実社会に与える影響について、関係者の合意を得る。関係団体が反対している法案は国会で可決されるのは難しい。

6 内閣法制局の審査(前年夏頃から閣議決定直前まで)
憲法との整合性、他の法律との整合性、立法意思の明確性の担保

7 与党審査(閣議決定直前)
民主党の厚生労働部門会議で了承された法律案が閣議決定される。

   この過程で、修正が入ることももちろんある。

8 閣議決定(予算関連法案は2月上旬、予算非関連法案は3月上旬)
法案が政府として決定され、国会に提出される。

9 野党への法案説明(通常、閣議決定前後~法案審議の間)
野党が法案への賛否を決定するとともに審議の準備をする。

10 法案審議・成立(概ね3月~6月にかけて)
衆議院の所管の委員会で可決→衆議院本会議で可決→参議院でも同様。
  ※ 対決法案でないもの。極めて重要な大きなものでないものなどは参議院で先に審議することもある。

  ※ ねじれ国会の下では、法案が提出されてから与野党の調整の中で修正されることも珍しくない。


11 法律の施行(法律が成立してから半年~数年)

   法律が国会で可決・成立してから、すぐに制度がスタートするものもあるが、実際に制度がスタートするまでの間に、行政も制度を使う民間も準備が必要なものが多いので、周知期間をおくことが多いです。

   その間に、政令、省令、告示、通知などの細かいルールや業務マニュアルみたいなものを作り、全国に周知します。




いかがでしょうか?

ものすごく複雑かつ慎重なプロセスだと思いませんでしょうか。

実際には、1の省内コンペティションの前に、僕らは1年、2年かけて、データを集めたり、現場のヒアリングをしたり、研究会を開催して論点を整理したりしています。1つの法律を作る仕事は、2~3年のプロジェクトだったりします。


政治主導であれ、官僚主導であれ、

このようなプロセスを飛ばしては、独りよがりのモノができあがってしまいますし、

困る人、多くの不満を持つ人が出てきます。

1つの強制的に押し売りする商品を作るという性質上、国民全員が100%納得する法律というのはありません。

それでも、真摯に多くの人の意見に耳を傾けて作ることが何より大事だと僕は思うのです。


選挙は重要な民意を聴く場面ですし、それによって大きな政治の枠組みができあがりますが、

実際に政策を作る現場では、選挙と選挙の間に、1つ1つの政策を作る過程で、

丁寧に民意を聴くことが必要なのだと思います。