242.空っぽの自分 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

242.空っぽの自分

パソコンを立ち上げ、自分のブログをさかのぼり読む。
同じことを二度三度繰り返し書いている自分に笑いがこみ上げたりする。
忘れてた気持ち取り戻したり、捨て去った感情を懐かしんでみたりする。
私は考え込んだ末に抜け殻になることがよくある。
今まで積み上げてきたもの、これから目指すもの、いくら心を探しても見つけ出せなくなる時がある。
そんな時、自分が書いた文章を何度も何度も読む。
そして自分を形成する。
空っぽになった心に詰め込む。


2・3日私はそれを続けた。
埋まりつつある心に物足りなさを感じる。
私はもう一度、改めて私を形にしていこう、そう思ったのだ。


検索ツールバーに「ブログ」と記入し、ブログサービスを提供しているサイトを探した。
アメーバブログ、このブログを書き始める切っ掛けとなった。
思い出されることは少なかった。
だけど、出来る限り記憶を振り絞った。
どんな出来事があったかではなく、あの頃私はどう感じていたんだろうか…と。
蘇る記憶にどんどん触れていった。
自分の心が嫌がっていることもわかる。
思い出したくないこと、知りたくはなかったこと、出来る限り触れていった。
あの頃素直に出せなかった感情を今、私は形にするのだと。


そして思い出す、彼とやっていたコミュニティーサイトの存在。
ブックマークは削除されており、もう2年以上も放置されたページが残っているかも解らない状態で、そのサイトを探した。
コミュニティーサイトのトップページで自分の名前を入れ検索してみる。
検索件数1件。
紛れもなく、あの頃の私のページだった。
足跡ページを開く。
ユーザーがログイン状態でページを訪れると、名前が表示される仕組みになっている。
最後に私のページに訪れていたのは、彼だった。
2005年02月27日、どうやら彼は最近までやっていたらしい。
私は彼のあの頃の日記を読むべくして、彼のページに飛んだ。
日記ページを開く。
最終更新は、足跡を残した日だった。
流し読みながら、スクロールしてゆく。
2月13日に2つ、12日に1つ。
たった4つの日記。
2月12日には、2年ぶりに再開したことと前のページのパスワードを忘れ新たに作り直したことが記してあった。
このページはあの頃のものではなかった。
2月12日、彼が日記を再開しようと思ったのは何故だろうか。
そして、バレンタイン前日、人を愛することに想い悩む彼がいたこと…もしかしたら私はこのページを見てはいけなかったのかもしれない。
人を愛せないままの彼に翌日愛していると告げられた私は、どうしたらいいのだろうか…。
4つの日記には、彼の4つの心があった。
彼が日記で呼ぶ「あなた」に、私は自分を当てはめる事はできない。
恋人と呼ばれる「あなた」に、私はふさわしくない。
彼と「あなた」の思い出は、私の記憶にはない。
愛したい、最後の日記に書かれた「あなた」を私だと信じたかった。
そして目につく彼のユーザーID「yujiayumi」。
私は画面を消し、手際よくパソコンをシャットダウンした。


彼に貰った言葉を呼び覚ます。
バレンタインまでずっと会えずにいた数ヶ月。
私は彼の言葉を信じたのだ。
それにもう彼は彼女とは別れたのだから。
脳裏に刻まれた彼の4つの日記と女性の名前。
私が辿った過去は別ものだったのだろうか。
2月のことだから…。
脈絡もなく、想像と現実と不確かなものと確かなものとが入り混じり通過する。


<ゆうじ、またweb日記始めたの?2月だったから始めたって言わないのかな。ウチ、見ちゃったんだよね…。誰のこと想いながら書いた日記なの?ayumiって彼女?あの頃と今、ゆうじは何を考えてるの?>
深夜、そっと彼に送ったメール。
送信してから親友に話をしたら、こっぴどく怒られた。
親友の言葉は何一つ胸には響かず、ただ真っ直ぐに真実だけに目を向けてた。
「聞いてどうなるって言うの?」
「さぁ?」
「いい方向に向くわけがないじゃん」
「そう?」
「今まで知りながらも待ったんじゃん」
「そうだったっけ?」
「じゃ、逆にそうした理由は?」
「モヤが晴れるかな…って」
「過ぎた事なの!」
「流された果てに、笑って過ごせるものがあるって?」
「話し合った果てに、笑って過ごせるものがあるとは限らない」
「愛されてないかもしれないって思いながら信じることなんてできない」
「あいつも多分普通の男だよ…。何でもかんでも話し合って解決してゆけるほど、精神力強くないんだって…。モヤが晴れるのは誰?あんたら二人、共倒れだよ…」
「そう…」
親友の言葉を否定するほど、自分の言動に意味はなかった。
ただの嫉妬、そうなのだろうと思う。
一時の衝動、そうなのだろうと思う。
今後どうなってしまうのか、私には想定できなかった。
私は何がしたかったのだろうか。
見つけ出すためだった筈なのに…。
「せのり、大丈夫だよ…そんなに焦らなくても」
「焦ってるのかな?」
「皆自分が解らない奴ばっかだよ。それでも人を好きになる」
「それだけじゃ嫌だったから…」
「あいつ…なんて返事するんだろう?」
「何か急に怖くなってきた」
「ハッキリさせるの?」
「解らない…」
「好きだけじゃだめなのかな…」
「ふふ、今はそれだけでもいいって言いたいかも」
「私はそれだけでいいと思う…二人が追い求めてるものが理解できない」
「何だったのかな…」


空っぽになった体が求めていたのは、彼への独占欲だけだったように思う。
もう何もいらない、彼さえいてくれればそれでいい。
催眠術にかかったらきっとこんな感じなんだろうな…体がふわりふわりと漂う。
誰かに操られているようで、意思のない心にイラつきながらも、目を閉じ愛されているのだと想像する未来に薄ら笑う。

愛?何それ。

そんなの別になくったっていい。

ずっと側にいてくれたらそれでいい。

その為だったら何だってする。

我慢して待ってろって?!だったら一生そういい続けてて…。

誰の声だろう…私の中から囁くように聞こえてくる。



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