2006-03-27

230.言えなかったおめでとう

テーマ:彼女じゃない恋愛

しまって置いた、彼への誕生日プレゼントを出したのは3日後のこと、彼の誕生日まで後4日。
テーブルの上に置いた、プレゼントが入っている紙袋は少しよれていた。
折り目に沿って少し紙袋を引っ張り伸ばす。
紙袋越しに卓上カレンダーが目に入る。
土曜日、ピンク色のハート型シールを貼ったその日付けに予定はない。
感情は渦巻き、唇をかみ締めてみるが、痛みとともにかみ締める力を緩め、私はリップクリームを探す。
リップクリームを探している途中に、つめ磨きヤスリが目につき、爪を磨いてみる。
誰に指摘されるわけでもなく、たった一人の部屋で、平然を装う自分、何でもないフリをする自分が情けない。
色んな事を考えては打ち消した。
バレンタインの時みたいに、会いに行けばいいじゃないか。
何の遠慮?何の思いやり?
毛抜きで腕の毛を抜く。
何もしないのは、忙しいからだと言わんばかりに…。


彼は忙しいことと、徐々に体調が悪くなっていることをメールで知らせてきた。
はっきり言って私には社会の厳しさが解らない。
体調が悪ければ休めばいいではないか、そんな理屈がまかり通るものではないと頭で知りながら、しんどい思いをして働く世の中に矛盾を感じる。
何かが違う。
何かが間違っている。
本当は忙しくないのではないだろうか。
本当は体調など悪くないのではないだろうか。
本当は元気だし休みもあるし順調なのではないだろうか。
本当は休めるのに無理から働いているのではないだろうか。
本当は…私が間違っているのか…。
何か一つでも間違っていれば、こんなに苦しむことはない。
納得さえ出来れば、楽なものなのだ。
私の考えが間違っているのだな…。


死ぬほど苦しいのに死なないのは何故だろうか。
当たり前のことなのだけど、心の傷で死んでしまえるのなら、心も命と同等に扱われていたかもしれない。
心は終わりを知らない。
どんなに痛みを与えても、ずっとずっと耐える。
ただ一つの喜びを与えられる為だけに。


2月25日、彼の誕生日前日。
何処へも行く予定はないけれど、身なりを整えた。
期待などないし、もしものカケラもない。
他人の誕生日を嬉しいと思う動機さえ解らないが、ウキウキとする気分が溢れ出た結果の振る舞いだった。
そう、ただの自己満足。
今まで会えないことに対して滅入っていた気持ちが、「おめでとう」という気持ちであらわれた気分だった。
不思議だ。
この世に生まれてきた軌跡とか、この日に生まれなければ出会わなかったとか、感謝する次元はねじれて掴み損なっているけれど、とても嬉しい気分だ。
多分、私は2月26日を大好きだと答える。


彼からの連絡はこの日、一度もなかった。
今日もまた忙しいんだろうなと、受け流す余裕があった。
いや、寧ろ「おめでとう」の一心で落ち込む余裕すらなかったのかもしれない。
伝えねば、この気持ちを伝えねば…。
誕生日になった瞬間伝えることができたのなら、とても幸せなことだと思った。
携帯を開いてみると23時50分と液晶に浮かびあがる。
0時になったら電話しよう。
家の電話で標準時間を確かめる。
どうやら私は、5分も先急いでいたらしい。
携帯の時計を23時46分にセットし直し、じっと時が過ぎるのを待った。
再び携帯が23時50分を表示する。
私は待ち遠しくて、彼へとダイヤルする。
5回ほどコール音なり続け、自ら遮った。
彼は、電話に出てくれるだろうか。
あらぬ不安が横切る。
もう一度、ダイヤルする。
すると、僅かなコール音の後、彼の声が私の耳に届いた。
「もしもし」
「もしもし」
「ん?あれ?誰?」
「え?!ゆうじ?」
「あぁ、せのりか!今、誰か確かめる前に出たから解らんかった」
「そう…」
「あぁ、もう毎日毎日残業ばっかりでホンマしんどいわ」
「そっか」
「会いに行かれへんくってごめんな」
「うん」
「元気か?声、暗いぞ」
「うん…」
「俺の声聞いて元気にならんの?ん?」
「会えないと寂しいよ」
「そっか」
「寂しいよ!」
「ふ~ん」
「何よ!!」
「あはは、元気そうやん」
「元気じゃない」
「元気になってくれへんの?」
「寂しいもん」
彼の声を聞いて、急にとてつもなく甘えたくなった。
止まらなかった。
何て言って欲しかったのか解らなかったけれど、彼の言葉に期待してた。
だけど、電話の向こうから彼のため息が聞こえて…。
「寂しいよ、すごく毎日苦しい、辛い」
甘えに似た彼を責める言葉が溢れ出る。
「そう」
彼の返事は適当だった。
「苦しくてね、息が出来なくなっちゃうんだよ」
「ふ~ん、呼吸整えたら?」
「・・・」
冗談だったのかもしれない。
だけど、言葉を失った。
冗談だったのなら、何か言って欲しい。
なのに、彼も黙ったまま、携帯の機械音だけが耳に届く。
時計の秒針の音がやけに大きく聞こえた。
「話すことないなら、俺寝るわ」
「え、ダメ」
「何?何か用?」
「用…用…は…」
時計を見ると、まだ23時58分。
「うんと…えっと…」
「何?何かあるなら早く話して」
「あのね…えっとね…」
「話さないなら切るよ」
「えっと…」
「用はなんですか?」
「用は…な…い…」
「あっそ」
時計の針はゆっくりゆっくり進んでた。
私が早く数を数えても、早くは進んでくれなくて…。
無言の5秒後、彼は何も言わずに電話を切った。
10分、もたなかった。
「おめでとう」と言えずに。


涙がほほを伝った。
鼻水を啜り上げた2分間はあっというまに過ぎていった。
待ち遠しかった26日0時は、もう20分も前の昔。
<お誕生日おめでとう>
送ったメール、届けた気にはならなかった。
<ありがとう>
すぐに返事が返ってきた。
返事など返ってこなければ良かったのにと思った。
何故、あの時言わせてくれなかったの…彼を責める私がいる。
たった2分を責める。
こんな筈ではなかった。


バッチリとメイクされた私の顔は、場違いだ。
お調子に乗って作り上げたヘアメイク、頭にささったヘアピンを一つずつ取りはずす。
型が少し残ったまんま髪はズリ落ちて、今の空気にピッタリ似合っている。
溶けかけたヘアワックスが気持ち悪い。
マスカラが目に入って少しだけ痛い。
やけくそにティッシュで目を拭いたら、まつげが抜けて苛立った。


無意識に私はまた彼に電話をしていた。
ずっとコール音が鳴り響いている。
たった一言言いたかっただけなのだ…。
コール音は留守番電話に切り替わる。
そして私の携帯がなる。
<寝ます。おやすみ>


何かを察した。
彼の理解につながる何かを察した。
だから、私は傷ついていないフリをする。



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2 ■> hikariさん

きっと意図した返事が返ってくると解っていたら、こんなに気持ちを伝えることに躊躇うことはなくて、勇気だってほんの少しでいいんだろうな。やっと伝えた言葉を受けた相手に、今すぐ本音を聞かせてなんて今思えばちょっと自分勝手だったかな?!何て思いました。お互い様だったんだよね…。少なくとも相手にも、自分が勇気を振り絞った時間が必要だったのかもしれない。
そっか…その優しさはきっと誰かに言える力になると思うよ。私はそういう時、何も出来なくなってしまいます。「自分を虐めすぎだ」ってよく言われます。何となく、傷ついていなかったら、涙を流せなくなったら本当に終わっちゃう気がして、ずっとずっとしがみついてます。私は何かを失った時、心を楽にすることも大切だけど、傷ついていることがその時の救いだったりします。失ったことを嘆くことができるということ、それはきっといつかの幸せにつながると信じています。

1 ■せのりさん

彼氏のためにきれいにして、楽しみにしてるせのりさんはめちゃくちゃかわいいですよ!
本音を言えるせのりさんもかわいい。
男のひとって、無理して笑ってがんばってる女の子が好きなのかな?
私の彼氏も、やっと言えた私の本音を前にして、一蹴してくれることが多かったです。
本当に気持ちだからずっと出せなくて勇気をもって言ったのに、あるいは言うしかないとこまで追い詰められたから言ったのに・・
だから失望感も半端じゃない。
でもきっとそれはお互い様なんだけど・・。


私は苦しくて彼氏と別れました。
辛いというか、しんどすぎて。
何かそのせいで夜も眠れないし、そのおかげで仕事中も集中力が持たないし。
そんな自分に腹が立ってぶんなぐりたくなりました。
でも、今は自分が自分に優しくしてあげなくてどうするの?とも思って・・。
恥ずかしくてまだ誰にもいえないから、せのりさんに報告です。

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