222.揺らぎない今 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

222.揺らぎない今

語ることのない1ヶ月は思い返すととても早く過ぎ去るなと改めて感じる。
この1ヶ月、何があったっけな…定期的に週2回英会話教室へ通い、飽きるほど山へスノーボードへ行き、彼ともなんとなくメールで会話をする。
いずれもそこに感情は乗らない。
私は嬉しかったのか、辛かったのか、どんな思いですごした1ヶ月だったのか思い出せない。


1月ももう直ぐ終わりかけようとしている頃、珍しく夜に彼からの着信があった。
「もしもし」
「もしもし、どうしたの?」
「元気か?」
「うん、元気だよ」
「そっか、ごめんな、全然連絡しぃひんくって」
「大丈夫やけど?!」
「そっか~、大丈夫か・・・」
「何?」
「ん?今仕事帰りやねんけど、せのりの声聞きたくなってさ」
「ふ~ん、やっと聞きたくなったんや!ウチは、毎日聞きたいと思ってるけどね」
「あはははは」
彼は爆笑していた。
感情とは別に出た言葉で、私はリアクションに困った。
「あははは、そうやな、遅いわ!っちゅう話やわな」
「こっちはもう声忘れかけとるで」
「俺かて今日ふと思ったことでもなく、我慢できんくなったってのことやねんけどな」
「ふ~ん、ゆうじは幸せやね」
「え?!」
「声が聞きたくなったら聞かせてくれる人がいて、会いたくなれば会ってくれる人がいる。我慢することなんてなくない?」
「それなりに我慢はしてるけどな~」
「明日仕事が早いから寝なきゃとかそんな我慢でしょ」
「ま、仕事優先してるのは否定できんけど」
「声が聞きたくなっても電話に出ないわ、折り返しの連絡もないわ!会いたくなっても待つだけの日々、わがまま言ってもさらりと流されて…」
「悪いと思ってるよ」
「別にいいんやけどね」
「何か、かなり冷めておられる様子で…」
「ここで盛り上がるとこれから先一人で過ごすのが辛いからね、解る?こういうの」
「そんな我慢すんなよ、もっと素直に吐き出せ!」
「素直になっても仕方ないかなって思っちゃうよね…」
「連絡せん方がよかったか?」
「そう思うならしない方がいいんじゃない?」
「どっちやねん!」
「…自分で考えればいいじゃん」
「ごめん、そろそろ電車乗るから。また後でメールするから待ってて!」
「解んないよ。いつもそう言うてメールしてこないことばっかじゃん。寝るかもね」
「絶対するから、待ってて」
「寝るまでは、待ってる」
「帰ったら直ぐメールするから、な。声聞けてよかったよ。また、明日から頑張れる」
「そ、それじゃね」
携帯を切って、ため息が出た。
唇をあまく噛んでいた。


自分が今出せる限りなく素直に近い素直な気持ちを表してみても心は後悔という念を抱く。
私はいったいどうしたらいいんだ。


しばらくして携帯が鳴る。
<短い電話でごめんね。せのりのこと大好きだよ>
迷いは心の蓋を跳ね返す。
涙がどっとあふれ出た。
彼の言葉を嬉しいと思い、彼の言葉を悲しいと思う。


お正月に彼と会った時、少しだけ未来が見えた時から私はおかしかった。
今を大切にすることが怖いと思った。
今が未来をつくることを知っている。
今で未来が崩れ去ることも知っている。
未来の為に動く今が嫌だった。
待って得られない結果ならば、今を…。
なのに、待つことをなんとなくで選んだ私は、彼に期待しているのだ。

いい結果だけを望んでいる。


期待などしてはいないと、今まで今ということに意味を持たせていた。
今、彼と一緒にいるのは、今、彼を必要としているからだと。
待つ…私はいったい、何故、今、彼の側に居るのだろうか。

枝分かれする未来が今を無意味にする。


いけないことをすると、成り立たせるために正当化する。
矛盾だらけの今に私は言葉を失う。
素直って何?
私は彼を好きでも嫌いでもない。
私は幸せでも不幸せでもない。
何をしたって不満だらけで、何もしたくはないと思った。


だからまた、そっと心に蓋をした。
彼には返事をしていない。
心に蓋をするととても強くなれる。
一人でも生きていける、そう思えるほど心は強くなる。
私は誰も必要とは思わない。
誰にも頼れないのなら、一人で生きていくのみだ。

その選択は、未来を左右しない。



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