214.嫌な女の心配 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

214.嫌な女の心配

<あけましておめでとう。仕事納めの夜から高熱出て、布団で年越しました。オカンが心配して大阪まで来てくれたわ。だいぶマシになったけど、休みが傷病休暇になりそう。せのりは何してる?>
彼から届いた誰よりも遅い新年のあいさつメール。
<お母さんいるなら安心だね。ウチ?教えない>
余計な事に敏感で、必要な勘はさえない。
捻くれて子供みたいに反抗する。
お母さんとは連絡とってたんだ…。
何も教えてくれない人に教えてやるもんか…。
知りたかった今の彼を想像することも出来ず、彼の想いも私には届かない。
<ごめん、入院してました。携帯なくて連絡できなかった>
真実の言い訳が、何故かより私を攻撃する。
大ダメージだ。
<何で今更そういう事言うの?心配させない為?何も言われずに放っておかれる方がどれだけ心配か解からないの?はいそうですかで、受け流して欲しかった?今を知りたいと思う事って何?ウチはずっとゆうじを感じていたいと思う。ゆうじがウチに今を聞くのは何で?ただ聞いてみただけ?全てが過ぎてからの人に今のウチを教えてあげない>
彼を心配する想いが空回る。
私の悪い癖でもある。
悲観的な思考が、自分の存在を否定し奈落の底。
何が出来るわけでもない。
知らされていたとしても、今が変わることはない。
だけど多分、もっと素直になれていたと思う。
お母さんがそばにいてくれてよかった、元気になってよかったと、もっと素直に思えていた筈なのだ。
<昨日退院しました。病院行ったら結構ひどくて、直ぐに入院で点滴受けて、ずっと寝たきりやった。今は家で安静やって。体調が戻れば明日から出社するね。体が弱ってて免疫力が低下してたみたい。せのりが言ってる事は最もやと思う。俺なりにせのりの事を考えようとしてたけど中途半端やった。本当にごめん>
年が明けて5日たった日の彼との初喧嘩。
<ごめん、心配と不安でいっぱいやった。ちゃんと教えててくれないと、耐えられないんやから…。でも、よかった。大丈夫?無理しないでね>
やっとやっと、心が穏やかに、素直な言葉を口にする。


心配だ心配だと言いながら、やっぱり一番は自分の安心だった。
体調を崩していた彼が仕事納めまで無理して働いた体が限界だったことなど、簡単に想像できる。
家族だったなら、友達だったなら、彼女だったなら、何も聞かされずとも彼を心配することを最優先できたのかもしれない。
自分の安心の為に、彼の最後の無理を望んだ。
倒れる前に、連絡が欲しかった。
会いたいなんてワガママ言わない、ただ、不安なく心配していたかった。
どうやって心配すればいいのか解からなかった。
駆けつけて看病することも出来ずに、ただただ祈るだけの日々が歯痒かった。
頼って欲しかった。
側にいるのは私なのだと思いたかった。
元気な時だけの相手なのだと思いたくはなかった。


彼女じゃない事が、私を意地悪にする。
どんどん嫌な女になる気がする。


<体しんどい?ウチはこれからお買い物にいってくるね>
<だいぶ体調戻ってきたよ。やっぱりこれから仕事いってくるわ>
<えー!駄目だよ~!寝てなきゃ>
<ほんまは今日が仕事初めで、半休にしててん。夕方になってもうたけど、行ってくるわ。万全ではないけど、頑張るわな>
<う~ん、無理しないでね。いってらっしゃい>


彼は馬鹿の一つ覚えのように、逐一メールをくれた。
これも直ぐになくなってしまうのだろうけれど、何だか嬉しかった。
しんどいと言う彼に、不謹慎にも笑顔が漏れる。
とことん嫌な女だと思うが、彼には本気で無理しないでとは言わない。
でも、今はメールがなくなっても我慢ができる。
今は本当に彼の元気だけを祈ってるから。



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