212.交わす言葉察する心 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

212.交わす言葉察する心

翌日、昨日届いた彼からのメールを今日に繰越し返事をする。
<熱は出てるの?出張行くとホントいつも体調崩すよね…。大丈夫?今日は休みでしょ、ゆっくり休んでね>
きっと彼は寝込んでいたに違いないと信じた、否、思い込もうとした。
彼の返事はまた返ってこなくて、きっと今もしんどいのだと想像する。
<心配かけたね、何とか生きてるよ。仕事いかないと…>
その翌日の彼からのメールはとてもあやふやだった。
<何とかって、死にそうなわけ?あやふやな事言ったら余計心配だよ。あまり無理しないでね>
彼の体の弱さはよく知っていた。
どんな状態なのかという事を聞いても答えない事も解かっていた。
倒れるまで仕事を続ける事も、ぶっ倒れてから強制的に休ませられることも、それで休みが減ってしまうことも、全部全部解かってた。
だから返事のない彼にメールで声を届ける、届け続ける。
心から頑張れと言えるように、目をつむって彼を信じた。
私が知っている彼が全てなのだと。
違和感など何のあてにもならない。
信じた、そして、唇も噛み締めた。


なかなか連絡がこなくて不安な時間がどんどん過ぎてゆく。
<何とか頑張ってる。明日で仕事納め。あと1日頑張るわ。今日は飯食って早く寝るね。早く治さないと>
そうメールがあったのは29日の夜。
<まだ1日残ってるんだ…。大丈夫なの?体壊してからもう1週間にもなるのに…。絶対、お願いだから倒れないでね。おやすみ、早くよくなってね>
彼が眠りにつくのを想像した。
彼の言葉を信じた。
そして彼を心配した。
順序良く段取りを踏んで心が動く。
今まで自然に出てきていたこと、やろうとしている自分がいる。
彼を私は信用していない。


暫くして、携帯がなる。
電話だった。
「せのり?」
「どうしたの?眠れないの?」
「声が聞きたくなった」
「そっか、しんどい?」
「少し…」
「寝なきゃ治らないよ」
「あぁ」
彼は咳を繰り返しながら何とか話を続けようといていた。
「せのりはまだ寝んのか?」
「うん、今日は徹夜だよ」
「はぁ?何で?」
「今日はオールザッツ(*1)だもん。たむらを見なきゃ」
「そか、俺も見たかったな」
「駄目だよ!寝なきゃ」
「あぁ、声聞いたら寝れそう」
「よかった」
「おやすみ」
「おやすみ」
彼の声を聞いて私の中の不確かな心配が確かなものに変わってゆく。
段取りを組まないと動かなかった心が、一気に動き出す。
彼の辛そうな姿をわざわざ考えなくても頭に浮かんだ。
胸が痛くて涙が出る。
ごめんね、早く、元気になってよ…。


深夜、彼からまたメールがくる。
<寒いな。今、布団の中で丸まってる>
<まだ寝てないの?駄目だよ!死ぬつもり?寝ないと泣いちゃうから>
彼の様子が少し変だった。
いつもじゃない彼。
彼がどんな状態かなんて解からない。
だけど、大丈夫じゃなさそうな…気がした。
暫くたって、また彼からのメールがくる。
<ありがとう>
なんだかこれで最後のようなメールだった。
それから彼にメールを打っても返ってはこなかった。
眠ったのかな…また私に不安が押し寄せる。


複雑だった。
「不安」一言の言葉が意味する私の心は複雑だった。
沢山の不安。
私が吐く言葉が意味する私の心は複雑だった。
彼が吐く言葉が意味する彼の心も複雑に思えた。

全てを見せない二人が作り出す不安。

ありきたりな、差し支えのない言葉を交わしあいどう解かり合えるというのだろうか。

私が知る彼が全てなのか少なすぎるのか、言葉が欲しいと思った。

簡単な言葉が欲しいと思った。

察することに疲れた。

探らせることに疲れた。

もっと簡単な言葉がいい。


会いたい。



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(*1)オールザッツとは、毎年12月29日深夜から朝までMBSで放送されている漫才番組。以前は中堅~若手芸人総主演番組だったが徐々に、若手~新人へと変わりつつある。お笑い好きは見逃せない番組なのだ。因みにオールザッツ・M-1の記事を書くとアホ程トラックバックがくる。