2006-01-07

207.冴える勘

テーマ:彼女じゃない恋愛

ラブホテルを出ていつも行く湖が見える映画館へと向かった。
上映時間を確認するついでに、チケットを先に購入してから、近くのレストランで朝食なのか昼食なのかよく判らない食事をとった。
「お前まだ眠いの?」
「う~ん…」
何となくボーっとしていた。
「そろそろ行かなハウル始まるよ」
「あ、うん、もう食べられない」
「これくらい食べやな逆に体壊すぞ」
彼は不思議そうに私を見てた。
掛ける言葉も選んでいるように見えた。


映画を見終えて、彼は携帯をチェックしながら話しかける。
「おもしろかったか?」
「うん…」
「他の映画のがよかったか?」
「うぅん」
曖昧な返事をする私に彼は不安げに何度も聞いていた。
「私、ジブリ好きだよ。誘われなくても見たよ」
「そか…」
「何か、まだ眠いのかな…」
彼はメールの返事をすることなく携帯を片付ける。
どう思った?いつもなら聞かれる質問を彼はしなかった。
「行くか!」
二人でこの映画を見た事実が消えてなくなってしまうような気がした。
私の浮かない心の所為で…。


ハウル…おもしろかったよ。
私は彼を救えないと思ったけれど…。
彼にどう思ったかを聞かれても答えられない私の感想。
聞かれなくて良かったかもしれない。


彼の車に乗り込むと当てもなく車は走り出す。
行き先が決まらないまま車は彼の手より誘導されている。
景色が移り変わって、見覚えのある風景が何だか寂しさを呼んだ。
不思議だ、今日の私は敏感で、勘がさえている。
先ほどから鳴り続ける彼の携帯。
彼は差出人を確認しているのだろうか。
携帯をみては渋い顔をして携帯を置いた。
何度繰り返されただろうか、鳴り止まない携帯を手に取り、彼は電話に出た。
「わかった」
電話の相手に彼がそう言った。
私は聞かないふりをしたけれど、彼はそうはさせてくれなかった。
「せのり?」
「ん?」
「爺さんが倒れたみたい」
「え?!大丈夫なの?」
「危ないみたい」
「…そう」
「ごめん…」
「仕方…なくない?!」
「でも…」
「うち、大丈夫」
「大丈夫じゃないやん」
「もっと大丈夫じゃない人がいるよ」
彼の顔が歪んでた。
私の顔もきっとそうだったと思う。
車は行き先を変えずに進んでいる。
見覚えのある景色が、ワガママを言っても駄目な事私に教えてた。
もうすぐ私の家に着く。


「ごめんな」
「うん、またね」
彼は顔を歪めたまま私にキスをした。
泣きそうだったけど、ぐっと耐えた。
「またな」
私は車のドアを開け、そっと締める。
急いで走り出す車を見送った。
彼が遠くへ行っちゃう…。
胸元に手をやった。
マフラーの下を探っている。

…あれ?
ない!
どうしよう…。



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