200.少し早いクリスマス | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

200.少し早いクリスマス

曽祖父が亡くなってからの1週間は、慌しくとても長いものになった。
やらなくてはいけない事の多さに気疲れする反面、何もする事がなくなったかのような虚しさも在った。
最近気付いた、私の悪い癖だ。
「必要」というものに、私は執着している。
「役目」がなければ生きられないそんな思い。
与えられたものに努める生き方。
自己を犠牲にしてでも全うする生き方。
自由人と呼ばれた頃が懐かしい。
ただ、呼ばれていた自分は自由ではないと気付いていたのだろうけれど。
何かの為に生きられないから飛び回っていただけ…。
何故だか今は飛び立つ気にはなれなくて、何かを与えて欲しいという思いが募る。
ただ一つ与えられた、家事という仕事をこなす毎日が詰まらなかった。
余る時間、私は何をすればいいのだろう。
奮い立つ気持ちと滅入る気持ちの往復。


夕飯の支度をしていると、彼からの電話が鳴る。
「もしもし」
「もしもし」
応答するも無反応な彼。
暫く無言の時が過ぎ、彼は更に「もしもし」と応答確認を続ける。
私もそれに応えるが、電波の状況でもおかしいのか伝わっていないようだ。
お互い「もしもし」の連呼。
だが、彼の反応は聞こえているかのような応答。
「ってか、何?!聞こえてるし!」
私がそういうと彼は言葉を変えて応答してきた。
「何?」
「もうえぇって!」
この反応でからかわれているのだと判断。
「いや、何?」
「え?!」
「お前、電話しといて何もないん?」
「電話してきたん、ゆうじやん」
「今はな!掛けなおしたんですけど?」
「誰かと間違ってる?電話してません」
「せのりやろ、何や?」
「だーかーら!かけてません」
「ふーん、まぁいぃや。週末会いにいくよ」
「週末…?」
「そう、何か用でもあった?」
「ないけど」
「俺の方は仕事で何とも言えんがほぼ確定」
「そか…」
「何?嫌?」
「うぅん、嬉しい」
「そのつもりでいといて」
「うん、週末だよね」
「せのり、元気そうやな」
「まぁね」
「お前、電話やと声違うよな」
「そう?」
「俺の声聞いたら嬉しいの?」
「なっ!何よ、急に。嬉しいよ。おかしい?早く慣れようとは思ってるけどさ…」
「いや、おかしくないし、慣れんくてえぇよ。電話するとせのりの声がえらく嬉しそうに聞こえるから、こっちまでニヤける」
「電話あると、嬉しいよ」
「そか、また電話するでな」
電話を切った後、何となくあしらわれた気分になった。
私の電話を折り返す事なんて滅多にない彼が、誰かに折り返した電話が私に繋がった。
その相手が妙に気になった。
週末のデートの約束。
12月に一度会おうと約束した日が決まった。
12月上旬の週末に決まった。
あと、残りの週末はどう過ごすのだろうか。
折り返す筈だった相手と過ごすのですか?


翌日、彼からのメールが届く。
<土曜は「ハウルの動く城」観に行こう。いい?クリスマスは仕事休みなしやと思うからちょっと早いクリスマスにしよう。いっぱいくっついときや>
電話では直接教えてもらえなった事実を知る。
クリスマスは会えない。
正直、リアクションに困った。
出来れば知らないまま通り過ごしたかった。
クリスマスを期待していた私の立場は彼女ではない。
会えないからと言われてどう答えるべきなのだろうか。
<週末楽しみにしてます>
意味深などうにでも取れるようなメールを打つことしかできなかった。
私は上旬の週末をクリスマスだとは思えない。
<悪かった。でも一緒に居られる時間が少ないからやっぱり最近はいい加減な事は言わないように、言った事は守るようにしてるんよ。せのりからしたら知ったこっちゃないかもしれんけど>
あの一言で何でも読み取ってしまえる彼には完敗だ。
今なら素直な気持ちを打ち明けられそうだ。
だけど、私は会いたいという気持ちを伝えられなかった。
彼がクリスマスに私と会いたいと思ってくれているかどうか、解からなかったから。
求められていることさえ解かれば、いくらだってワガママを言える。
それがたとえ叶わない望みでも、気持ちを伝えることは出来た。
だけど、彼の気持ちが不確かで私が選ぶ道は良い子ちゃんでしかなかった。
そして、嘘もつけない。


それからの彼のメールに反応する難しさ。
私は自ずと無視する形になっている。
<明日、昼くらいにはいけるようにするからな。せのり、起きてる?また連絡するね>
彼が不安気なのが気にかかる。



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