2005-12-21

199.曽祖父とのお別れ

テーマ:彼女じゃない恋愛

私が中学生の頃だ。
家族は9人だった。
両親と私を含めた姉弟3人と祖父母と曽祖父母。
大家族にも関わらず、そう思えない生活環境だった。
私が口を聞くのは両親と弟のみだ。
他は家族ではないと母に教えられた。
否、そう思わせるように見えただけ。
口を訊けば怒られた。
二世帯住宅のような立派なもんじゃないけれど、自宅は1階2階で区別されていた。
顔を合わすことも殆どない。
階段を下りて折り返した廊下の突き当たり右側の部屋に曽祖父母の部屋はあった。
その廊下を歩くことは希だ。
私はそこを別世界のように感じていた。
定期的に私はその廊下を歩く。
曾祖母からお呼びがかかるのだ。
いつも恐る恐る曽祖父母の部屋の戸を開けていた。
戸を開けると、白髪の自分の背丈ほどある髪を鏡台の前でクシを通す曾祖母が座っている。
それを眺める曽祖父。
私は、曾祖母の後ろに正座して髪が結い終わるのをいつも待った。
その白髪をいつも綺麗だと思っていた。
それと同時に妖怪的な印象も抱いていた。
曾祖母と会話をしたことはない。
それだけに少し怖かった。
髪が結い終わると、手渡される大きな黒いがま口財布。
ずっしりとした重量感に圧倒された。
「あの・・・」
話しかけると答えるのはいつも曽祖父だった。
「お婆さんの気持ちや」
「でも、困ります」
家族の会話とは思えない微妙な敬語。
嬉しいやら怖いやらで私はいつも曾祖母からお小遣いを貰っていた。
そんな曾祖母もいつの間にやら亡くなった。
満足に話をすることもなく、突然家からいなくなった。
それが死だと気付いたのはずっと先の事だ。


それから暫くして、曽祖父は呆けた。
最愛の人を喪うと長くはないと言われる。
だが、それから曽祖父は十数年生きた。
私を見て、曾祖母の名前を呼びながら。


皆が私に曾祖母が守護霊になったと言う。
曾祖母の若い頃にそっくりだというのもあるが、その日から私の癖がガラリと変わったのだ。
会話すらした事のない曾祖母が乗り移ったかのように、私に曾祖母の癖が移った。
不思議なこともあるものだと・・・。


その後、母が出て行って数年後のこと、やっと家族らしい今の環境を作り出す。
自分の家族なんだと実感したのはそれからだ。
家族が掛替えのないものとなった。
家族が減るにつれ、別れというものを悲しいと思うようになった。
祖父母や曽祖父との関係は家族にも関わらず浅い。
やっと、やっとの家族だったのに・・・。


翌朝、家族に看取られた曽祖父が家に帰ってきた。
この時、自分が曾孫に当たることを思い出す。
血の薄さが悔しかった。
遠くから眺める曽祖父の姿。
近寄ることをまだ許されない。
顔も殆ど知らない親戚達が集まる。
そんな人たちに扱き使われる。
あんた達一体曽祖父のなんなのさ…。
曾孫に当たる私たち兄弟と従姉弟とたちが、曽祖父と顔をあわせたのは、親戚が帰った夜の深い時間。
硬直もとけはじめ、体が真っ白に染まりかけている頃だ。
「綺麗だね」
誰かが呟いた。
私は体に触れるのが怖かった。
そっと手を伸ばすとドライアイスの所為もあって、とてもとても冷たかった。
最後に食事をお手伝いした時の手の温もりを思い出す。
「動かないね」
父の妹さんが動かない曽祖父に、一生懸命「痛くないか」と話しかけながら寝位置を変えていた。
生きてるみたいだった。
介護している時と変わらなかった。
そう話さないだけ。


その夜もまた彼の声を求めて電話を繋げる。


朝から坊さんが参ってくださる。
聞き飽きた念仏だけど、今まで何を言っているのかさえ知ろうともしなかった。
曽祖父への想いが、坊さんの声をハッキリと響かせる。
この時初めて私は心に願いを寄せ、経をよんだ。
往生・成仏を成就する。
台所の片隅で、参ってくださった方への茶を沸かしながら。


人が亡くなってからの忙しさはヘトヘトになる程だ。
無情に過ぎる時間。
感情など動くほど暇はない。
この時を仏の優しさと感じる。
最期、尽くせる限りを尽くす。


翌日は冠婚葬祭を請負う会場でお通夜がおこなわれた。
曾孫の私たちはそっと影から見送る。
曽祖父を見送る仲間は殆どいない。
曽祖父は後を追う者だ。
この会場に曽祖父を知る者がどれだけいるのかと疑問だ。
悲しみの中、場を弁えない話で会場は騒がしい。
私たちの家庭環境が専らの噂の的。
本人達がどう思っているのか知らないが、コソコソと話す話し声は全て私の耳に届いた。


その翌日は同じ会場で葬儀がおこなわれた。
私たちは相変わらず隅でそっとそれを眺める。
昨日噂だった話は、確かなものとなって会場を騒がせる。
母が居てくれたらとどんなに思ったことか。
私たち曾孫に同情の目が集まる。


葬儀が終わりお別れの時が来た。
涙するものはいない。
「お爺さんのメガネがない」と最期まで添い遂げようとする父の妹さんと、歯を食いしばり無言の私たち曾孫がそこにいるだけだ。
別れをすませ、棺が館外へと運ばれる。
「おい」
私たちに向かって声を掛けた一人のおじさんがいた。
「血は薄いけどお前らが一番関係があるんやから」
おじさんはそう言うと弟達に棺を運ばせたのだ。
弟達の感情は伝わらない。
何を思っていたかは解からない。
曽祖父を担いでお風呂に入れていた弟達の想いは…。
すっと無言で棺を抱え込む姿に胸が痛かった。


棺を先頭に、家族が車で火葬場まで向かっていった。
私たち曾孫は弟の車に乗り込み、それを必死で追いかける。
必死で後を追った。
会場に残った人の「かわいそうに」と言う声を頂戴して。

火葬は2時間ほど要した。
父と一番下の弟とで煙草を吸いながら待った。
話すこともなく、父が急に人生論を語りだした。
「大学行ってもいいんやぞ」
父が私に言った。
「別にいい。わざわざ学校行かなくったって身につくものはある」
「お金ならある」
「また金かよ!金は必要最低限つぎこめばいいの」
「そんなもんかな~」
「そう!これやから田舎のボンボンは嫌なんよね」
「お前はその娘ちゃうんか」
「責任もって育てたと言えるのかしら?」
「あぁ、子供って親の知らんところで育つよなー!で、お前は?」
「俺?今の会社でもうすぐ資格試験があって、そろそろ独立の話も考えてるよ」
「はぁ、我が子がどんどん巣立ってくよ」
「そんなもんでしょ」
「で、お前ら結婚は?これだけは急なことはやめてくれよ」
「ない!」「ない!」
「ハモらんでも・・・恋人はいるんやろ?」
「いない」「いない」
「じゃぁ、お相手さんは誰?」
「さぁ?」「さぁ?」
「今の時代、こんな恋愛ばっかりかよ、寂しいな」
「心配せんでも恋愛はちゃんとしてるよ。ただそこに心が伴わないだけだよ。追いつかない」
「はぁ?」
「昔とは違って考える事が多いってこと」
「うーん・・・」
「詐欺や殺人、遊びにストーカー、援助に売春、いつ出会うかもしれぬ危機と隣り合わせに、間抜けに浮かれてられないって事」
「そんな奴と付き合ってんのか?」
「だから!ちゃんと恋愛はしてるって言ってんじゃん。それが本物かどうかなんてことは今は解からないの。もしかしたら私だって犯罪者になる可能性だってある時代」
「怖いこと言うな・・・」
「それを信じたいと思う気持ちは、昔も今も変わんないんじゃない」
「できちゃいましたって報告されそう」
「それもいいんじゃない」
「んま、いずれ結ばれる予定ならな」
話が進む途中で、私たち家族が呼ばれるアナウンスが館内に響いた。


お骨を拾う者が選抜されてゆく。
私たち曾孫がここへ来た意味などはない。
「私はこの数年ご無沙汰してましたのでご縁の近い方がどうぞ」
そんな声がチラホラと上がり始めた。
顔も知らない親戚だと名乗る人たちだ。
「せのりちゃん?」
「はい」
「お骨、拾ってあげたら?」
そう言われ、はいと返事をしようと思った。
「この子たちは関係ないから」
祖父の弟さんの嫁さんが口を挟んでくる。
この人は何かあった時にしか顔を出さない。
墓参りもしないし、私をよく扱き使う。
母がこの人たちから私たちを遠ざけようとした思いが解かる様な気がする。
喧嘩までとはいかないが、その場は嫌な雰囲気に包まれだした。
「あの子が今まで…」
この場でその話をされると、私は涙を堪えられなくなる。
葬儀の最中に噂されていた事を巡って討論が繰り広げられる。
かわいそうな子だと言われる筋合いはない。
あなた達の方が私はかわいそうだと思う。
争いを嫌う祖父母は、先へと歩を進める。
見て見ぬフリの館員が祖父母を案内する。
それを渋々追う祖父の弟夫婦。
顔も知らない親戚の人に背中を押され、私たち許可もないまま連れてゆかれた。
館員の手により形を残さない骨の山が台につまれている。
「メガネ、お忘れになられなかったようです」
館員が天に昇ったことを説明する。
館員の話を聞いていて何だかホッとする心に気付く。
良かった、そう思ったのだ。
一つ一つ骨を拾う。
足から頭に向けて。


ひと段落したのは3時。
すっかり皆はお腹を空かせ、帰ったら何を食べようかと話していた。
私たち曾孫は弟の車でお骨を持って逃げた。
こっそり。
いち早く家につれて帰った。
家に着く頃、私たちの携帯に連絡がはいる「お骨がなくなった」と。
「もう家にいるよ」そう言うと、ちょっぴり怒られたがしてやったりだった。


葬儀中、しきりに連絡をくれていた彼に夜、連絡する。
<お疲れやったね。今夜はゆっくりお休み>
明日から頑張ろう。
何だかそんな風に思った日だった。



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