179.メールアドレス | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

179.メールアドレス

<最近、迷惑メールが多くてすごい困ってる>
<メールアドレス変えようかな?>
彼が、最近やたらとメアドの話ばかりするようになった。
私はその度、腹が立つ。
<変えればいいじゃん>
そう返事をしても彼は一向にメアドを変えようとはしない。
<愚痴ってごめん>
愚痴ったって迷惑メールは減らないし、本気で変えなよ、と思う。
そんな彼が何がしたくて何が言いたいのか解からない。


彼がメアドを変えたのは、2・3年前。
その時も迷惑メールで変えたと言っていた。
初めて彼からメールが来た時、このメアドに返事はしたくないと思った。
きっと、彼の大好きなものたちが並んでいるんだろうな、そんな風に思った。
自分の名前、キャラクターの名前、そして…彼女の名前。
メアドが変わった後も、彼のイニシャルの後に続く、何だか解からない二文字は、彼女のイニシャルだと直ぐに解かった。
私が知らないのはその二文字だけ。
何度、この二文字を消そうかと思ったか。
だけど、この二文字がないと、彼には届かないのだ…。
当たり前だけど、私の名前に変えても届かない…。


何でこのメアドなの?
メアドで少しだけその人を知る事が出来る。
誕生日が入ってたり、彼のように好きなものが入っていたり、私は自分の目標。
「ねぇ、プーさん好きなん?」親友が彼に以前聞いたように、そこからその人を知る事が出来る。
だけど、私は彼にはメアドの事は一切聞けない。
今回だってそう。
「今度はどんなメアドにするの?」さえ、彼には聞けない。
メアドが変わったって「どういう意味?」そんな風には聞けない。


何度もメアドの事を聞く彼に腹が立つ。
何なら私が作ってあげようか?
私の名前をあなたのメアドに組み込んであげましょうか?
そんな事できなくても、少なくとも私が知ってるだけの彼を並べる。
私は彼女なんて知らない。
たった二文字、私には邪魔で仕方ない。


結局、彼はメアドを変える事はなかった。
そして、今日も彼女の名前に愛の言葉を乗せて送信するのだ。

<ゆうじ、大好き>
しばらくの間、彼女の名前が目に付いて、彼の言葉をうそ臭く感じた。



[ ← 178 ]  [ 目次 ]  [ 180 → ]