178.ワンコール | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

178.ワンコール

何も言わなくなると直ぐに彼からの連絡がなくなる。
「ごめんごめん」あまり謝りの言葉を聞きたくなくて、彼からの連絡を待つ日々が続く。
聞きたい言葉はそんな言葉なんかじゃない。
欲しい感情は謝罪なんかじゃない。


私に彼氏がいた時、付き合っていた彼氏に焼きもちを妬いてくれた彼を思い出す。
携帯の着信履歴を見ながら思い出す。


彼氏の話ばかりをしていた私に「彼の事ばかりで寂しい」と言ってくれた。
そして彼は彼氏ばかりの着信歴が残る私の携帯に、1秒だけ履歴を残した。
それから、ずっと彼の履歴が消えたことはない。
話が出来ないほど忙しい時も、彼は1秒だけ私の携帯を鳴らしていた。
話が出来なくても、彼からの1秒の着信が嬉しかった。
側に居てくれる気がしてた。


だけど、消えちゃった。
最後の友達の履歴が最近の日付でもなく、ずっとずっと前の履歴なだけに落ち込んだ。
あぁ、彼の声をこんなにも聞いてないんだな…。
何度クルクル回しても彼の名前はでてこない。
一方、発信履歴に埋め尽くされた彼の名前。


とてつもく寂しくなった。
このワンコールの意味を私は彼に聞いたことはない。
偶に今の何?って聞くけれど「起きてるかの確認」とか「掛けてみただけ」なんて答えが返ってくるだけで、何でいつも1秒だけ鳴らすのか解からない。
しつこく聞くと「迷惑か?」と言われるので、真実を知らない。
だけど、好意を持ってしてくれていたんだろうなと思っている。
きっと、私の思い違いじゃないんだろうな何て思っている。
だから、着信が消えたのがとても悲しく感じた。


<ねぇ、忙しい?>
我慢できずに私はそう彼にメールをした。
意味などないかも知れぬワンコールの催促。
3時間後、超難問イントロクイズのような着信を携帯が知らせた。
随分前に設定した着メロを私は彼のものだと当てることはなかった。
液晶を見て、彼からの着信を知る。
それでも涙が出るほど嬉しかった。


着信履歴に彼の名が刻まれる。
彼がどんな思いで私にワンコールを送り続けてくれていたかは解からない。
だけど、きっと何かあるんだろうなって思ってる。
あの頃と同じ1秒だけの着信をくれた。
あの頃の事、私に抱いてくれた気持ち、思い出してくれただろうか。
それとも、このワンコールも「ごめんね」だったのかな。


もう「ごめんね」は要らない。
あなたの想いを届けて欲しい、このワンコールで…。



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