158.幸せのトルマリン
大阪から地元へ帰ってきて、彼の車で私たちはいつもと違うラブホテルを探してる。
彼は出来るだけ綺麗なホテルが好きらしい。
私は彼におまかせだ。
あるアジアン系のホテルを見つけ、私たちはそこに決めた。
部屋に入ると普通だった。
代わり映えはしない。
「さぁー風呂風呂、せのりお湯入れて~」
「えー、またウチなん?」
「俺もう疲れたー」
「ウチも疲れてるよー。しかもブーツやし足絶対臭いし!」
「ほら!足洗うついでに風呂いれてこい!ってか、洗う前にちょっと臭がして」
「ちょっ!バカ!アホ!やめろ~!」
私は足の臭いを嗅ごうとする彼から逃げる。
「ってか、めっちゃ元気やん…」
私は風呂場に向かい、また素直にお湯を入れに行く。
が、いつもとは違う勝手に戸惑う。
戸惑うだけならよかったが、全く湯がでようとしない。
水1滴漏れてこない。
「ちょっと~、ごめん、やっぱゆうじ入れて~」
私は風呂場から声を張り上げる。
「そこまで行って何やねん!」
「いや・・・ね・・・、水の出し方がわからへん」
「・・・・出るやろ・・・・」
「いや!出ぇへんねんて!」
彼と位置を交代して、彼は蛇口に手をやる。
結構苦戦しているみたいだ。
この蛇口、いくら回しても出ない。
しばらく彼が蛇口を弄っていると、ジュボッと音を立てお湯が出てきた。
「これ、押してから回すんやわ」
「マジで、ちょ、お湯止めて。ウチもやる」
二人で何度も何度もお湯を出したり止めたりして遊んだ。
こういうバカな遊びが出来る彼って良いなと思う。
彼はこの遊びに飽き、風呂から出て行った。
私は足だけ先にシャワーで洗う。
洗う前に少し嗅いでみた。
やっぱりちょっと臭かった。
彼に嗅がれても、ギリセーフかなくらい…。
裸足で彼が座るソファーに行き、彼に重なり座りこむ。
「何や?」
「だっこ・・・」
そういうと、後ろからギュッと抱きしめてくれた。
「ねぇ、ゆうじ、ケーキ食べる?」
「え?あんの?」
「うん」
私は鞄から昨晩作ったチーズケーキを取り出し彼に渡した。
「お前作ったの?」
「うん。…えっと、いつもワガママばっかり言ってごめんね」
「えぇよ。こっちおいで」
私はまた彼に寄り添って座る。
「お前のワガママなんかワガママやと思わんよ」
「そう?」
「もっとどんどん言え、な!」
「うん…。おいしい?」
「おいしいよ」
「よかった」
「お前はもっと辛い筈やねん。いつも強がってるから、俺は怒るんやぞ」
「でも、全部言うたら…守りたいものまで失っちゃう」
「そやな…でも、言うてもえぇねんで、解かった?」
私はこくっと頷く。
「せのり、ちょっとそこで待ってろよ」
そう言われ、私はソファーで彼を待った。
ベッドで自分の鞄をゴソゴソと漁っている。
小さな青い袋を持って、彼はソファーに戻ってきた。
「はい、開けてみ」
「くれるん?」
「あぁ」
私は小さな青い袋の中を覗く。
その中には小さな箱が1つ入っていた。
ピンクのリボンがかかっている。
それをほどき、箱を開けて・・・箱を開け、ん?て・・・開けてみたいのだが開かない。
半べそかきながら彼を見る。
彼はジェスチャーで箱の開け方を指示。
その通りにそっと箱を開けてみると、貝殻のような小さな白いケースがチョコンと入っていた。
彼の顔を見ると、また白いケースの開け方をジェスチャーで教えてくれる。
そっと開けると、フワフワの白いレース地の生地がゆっくり外側へ開いた。
その白いレースの中から現れたのは、ピンクトルマリンがついたネックレス。
「わー、綺麗。これ、うちに?」
「あぁ、誕生日おめでとう」
「・・・私、まだ誕生日じゃない」
「ごめん、誕生日はどうしても会ってあげられなくて…」
「そか…。でも、ありがとう。嬉しい」
「気に入った?」
「うん。どうしたの?これ、買いに行ってくれたん?」
「さっき、一緒に阪急行った時に選んで欲しかったのに、お前どっか行くから、俺、勝手に選んだんやん」
「そか…ごめん。でも、ゆうじが選んでくれた方がいい」
「そうか?」
「ありがとう、ゆうじ」
私は思わず彼に抱きついた。
そして、初めて自分から彼にキスをした。
軽い軽いキスだったけど…。
「なぁ、つけてみてよ」
そう言われ、私はネックレスを取り出そうと思ったが…やっぱり取り出せなかった。
彼は私から白いケースごと奪い、金具で固定されているネックレスをゆっくり取り出し、私に付けてくれた。
「こっち向いて」
少し照れながら、彼の方を向く。
「うん、可愛い。想像通りや!幸せになれるぞ」
「もうすごい幸せ」
「前のみたいになくさんといてくれな」
「失くさないよ!こんな大切なもの失くさない」
「そんなに喜んでもらえると本当こっちも嬉しいわ」
「あ!お風呂!!」
急いでお風呂を覗きにいくと、ダボダボと溢れていた。
「一緒に入る?」
「うん」
「今日は嫌がらんねんな」
「一緒にはいろ、生理やけど」
「そか、お前生理やったな…」
「ごめんね」
「えぇよ、さっ!入ろうかな」
彼は早速、服を脱ぎお風呂に入りだした。
「せのり、早く来てくれな、俺そんなに長いことお風呂入ってられへんで~」
風呂場から彼の声が聞こえる。
私は、躊躇いながら服を脱ぎ始めた。