155.保津川下りの筈が… | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

155.保津川下りの筈が…

「そろそろ行くか!」
私たちは、店を出て保津川へ向かった。
結構歩いた。
すず虫寺同様、嫌味なほどの坂を歩いた。
天気は良好。
神様、私何か悪いことしましたっけ?
カンカン照りの太陽は、お昼を過ぎた頃季節を間違える。
秋の京都は一気に真夏。
小脇にジャケットを抱える人たち、皆Tシャツ姿になっている。
女性はTシャツにロングブーツとチグハグなスタイルへ。
私もその中の一人だ。
「何でお前、ブーツなんか履いてきたんさー」
お前が言うたからだよ!心の中で呟いた。


やっとでついた。
『保津川下り』の文字が見え、体力限界だったので心の中だけではしゃいだ。

きっと彼も同じ、リアクションが薄い。

私と彼だけじゃない、駅から共にしてきた全ての人のリアクションは薄かった。
お土産屋を抜けて乗りに行くらしく、私たちは館内へと入った。

すごい混み合っている。

人の熱気で蒸し返している。
ゴーっとすごい勢いでクーラーが風を噴出していた。
私たちはそこで足が止まる。
「涼しい~ね」
「あぁ。・・・おぃ、お前ちょっとここで待ってろ」
そう言われ私は贅沢に冷たい風を受けて待つ。
「ごめん」
そういいながらしばらくして彼が戻ってきた。
どうやら、保津川下りは昨晩の雨で増水していて中止になったらしい。
この大勢の人たちは、船に乗れなかった人たちの群れだったようだ。
「ごめん、ほんまごめん」
彼は必死になって謝ってくる。
「調べてくればよかった」
彼の反省は続く。
A型さんは大変だ、私は何とも思っていないのだけど。


少し休憩してから来た道を戻る事にした。
駅まで歩き、駅のベンチで休憩。
「これからどうしよう」
彼はこの先をずっと考えている。
私はそんな彼にもたれ甘えるだけ。
「暑い!」
そう言われても彼にベタベタ。
「お前もなんか考えろよ」
「いいよー、ずっとこのままでも」
「俺はいやや!早くどっか行きたい」
「じゃぁ、ゆうじが考えて」
私はずっと彼にじゃれている。


「高槻行こうか!」
彼が急に言い出したかと思うと、早速切符を買いに立った。
「ほら、早く来い!」
計画が立つと本当A型は忙しない。
もう頭の中は私じゃなくて時計の事ばかり。
「…時やから、10分で15分で…えーっと…」
私は時間を計算している時の彼が好きじゃない。


電車に乗り込み高槻へ向かう。
彼が座る場所を確保すると、私は彼に半分重なり腕を絡ませ横に座った。
ベタベタしていた気分だった。
「なんか今日、お前可愛いな」
「そう?」
自分から彼に触れる事を覚えると、やめられない。
ずっとひっついていた。
「もう俺の事怖くなくなったん?」
「怖くないよー、ゆうじは優しいじゃん」
「俺、優しいか?」
「うん、優しすぎる」
「自分には優しいけど人には厳しいと思うんやけどな」
「ま、そういうとあるよね」
「優しいか・・・」
「なんか、今怖い人たちにカラまれたらさ、一人で逃げそうじゃん」
「そんな事せんよ」
私は、暴力振るわず逃げるタイプだよねって言いたかったんだけど、彼には女を守れない男みたいに伝わってしまってちょっとムッとさせてしまった。

・・・フォローせねば。
「守ってくれるん?」
「これでも空手やってたんやぞ!」
「強いん?」
「転校が多かったしな、イジメも慣れたもんやった。1対大勢の喧嘩はよー売られてたしな」
「へー…勝ってきたんやね…」
「何?」
「いや、それなら安心だ」
正直、ちょっと引いてしまった。
暴力とか無縁の人かと思ってた。
正当防衛とは言え、私はやっぱり逃げて欲しいなって思ったんだ。
売られても買わないで欲しいって思ったんだ。
暴力は絶対、駄目なんだ。

といっても、私自身も売られた喧嘩は買うタイプなのだけど…。


何となく気まずい雰囲気の中、彼はまた考え事。
「せのり?」
「ん?」
「高槻やめて大阪行こうか」
「いいよ」
私はとことん彼に付き合うのだ。
一旦私たちは高槻で降り、大阪行きの電車を待った。
「せのり、観覧車乗ろう!」
「HEPの?」
「そうそう。お前観覧車好きやろ?」
「うん、HEPの赤いの乗ってみたかってん」
彼はとても満足気だった。
計画が立った時の彼の顔は本当に可愛いと思う。
でも、やっぱり彼は今でも計画を練ってる。
頭の中は時間の事と観覧車の事でいっぱい。
こっち向いてよ…。
私は、くぃくぃっと彼の腕を引っ張ってみる。
「何?」
「なんでもない」
彼の笑顔が嬉しい。



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