154.彼の夢 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

154.彼の夢

彼は私の目を見つめ真剣な顔で自分の夢の話を始めた。
何故か私が挙動不審になる。


「俺さ、ずっと服が好きで今の会社に入って頑張ってる。でも、自分がやりたい事をやってるわけじゃなくて、それを今でも目指してる。昇格すればやりたい仕事が出来るかって言ったらそうでもなくて、時に何やってんやろって思う事もある。だけど、それは会社に入る前から解かってたことやし、そういう事もしっかりやっていくべきやと思ってる。俺の価値観やけど、俺は養っていけるような男になりたい。そやけど、今の給料じゃ到底養えるわけもなく、朝早くから夜遅くまで仕事して、休みもろくに取れず、今のままでえぇんかなって思ってる。やりたい事って仕事だけじゃないやん…」
「それは給料が良くて沢山休みがもらえて、規則正しい生活を送れる仕事につきたいってこと?」
「それも頭においてる」
「やりたい仕事辞めて?夢叶うかもしれんのに?」
「決めたわけじゃないけどな」
「入社して何年やっけ?」
「もう直ぐ2年やな」
「考える時期やね…」
「まぁな」
「お金…も、大切やもんな」
「まぁな」
「私は…もうちょっと頑張りなよ」
「そやな」
「頑張ろうね」
「あぁ、頑張ろう!」


「私は…」そう言いかけてやめた。
本当は、今の彼の仕事余り好きじゃない。
私はもっと彼に会いたかったから。
でも、そんな理由で意見できないって思ったから、言うのをやめた。
もっと彼は話していたかったのかも知れない。
だけど、頑張れとしか言えなかった。
未来の話をするのは苦手だ。
人が揺れ動くのも自分が揺れ動くのも好きじゃない。
私は、道って選ぶべくして訪れるクロスロードだと思っている。
だから、それまでは同じ道を歩んでゆきたいと思う。
彼の道を知ってしまったら、きっと私は自分で道を選ぶことなくついてゆくだろう。
それじゃ駄目だと思ってる。
私が選ぶ道に彼がいればいい。
彼が選ぶ道に私がいればいい。


だけど、彼に話が出来てよかったと思った。
彼の話が聞けてよかったと思った。
私が歩んできた道は間違いなんかじゃないって思わせてくれた。
彼の側にいること未来へも繋がっているような気にさせられた。
歩んでゆける道があることを知れた。
ただ、甘えてしまわないかと弱気になったのも確かで、今まで以上に頑張らねばと思った。


「急がなくてもいい、ゆっくりでいいじゃない」
私は彼にそう言った。
彼とのんびり歩いてゆきたい。
彼の手を離したくない。



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