153.私の夢 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

153.私の夢

朝7時に起きて支度を始める。
実は、以前彼にリクエストされた服をインターネットで少し調べてみたんだ。
でも、持っていなくてそれらしい服を集めてみた。
集めてみたはいいけれど、全くそれらしくない事に今更ながら気付く。
失敗かもしれない。
でも、これはこれで、いいか…。


彼は前日から地元に帰ってきているので、今日は私の住む街の駅のホームで待ち合わせた。
駅に向かい、ホームに下りる階段を下ると、予想通り電車が通過して行った。
私は自慢できる程の1分遅れ魔。
「おぃ!焦るとかいう観念はお前にないのか!」
手を振りゆっくり歩く私に彼は叫ぶ。
「ふふ、おはよう」
「おはようじゃないよ…全く!俺の立てた計画が…」
「直ぐ来るよ、電車」
「もぅぇぇよ、それより、許して欲しくないの?」
「え!?うーん、何かその様な約束したねー」
あたりを見渡すと結構人がチラホラと。
じわじわと彼に近寄ってみた。
チラッと彼の顔を見上げると、ニヤッと悪い顔をする。
そっと彼の左腕を右手で掴む。
すると、彼は少し腕を広げハグを求める。
そっと彼に近寄る。
そして頬を彼の胸につけ「おはよう」と言い直ぐに離れた。
「あはは、よく出来ました。抱きつくまでは出来んかったけど、ここまでやるとは思わんかったわ」
「恥ずかしいなーもぅ!」
彼は私の頭をポンポンと叩き、またいつもの服装チェックを始めた。


電車が来て、私たちは京都へと向かった。
「ちょっと早いけど先に昼飯食べる?」
そう言われ、私たちは彼が大学時代によく通っていたという店へ言った。
そして始まったのだ、夢の話。


「なぁ、せのり~、お前の夢おせぇ~て」
「可愛く言われても…」
「嫌か?」
「嫌じゃないけど、どうやって話して言いか解からない」
「言える言葉並べたらいい」
「一応、考えてはきたんやけどね」
「ほら、どっからでもいいから」
「ちょっと待ってね」
私は少し黙り、頭の中でもう一度整理してみた。

彼が「無理なら今度でもいいよ」と声を掛けるくらい私はしばらく黙っていた。

話を組み立て組み立て「ちょっと!話かけんといて!」彼にそう言い、考えた。
「私ね、不登校だったじゃん。体が弱かったのもあるけど、心も病んどったよ。多分ね、その頃からやったと思う」
私は中学の頃から順に話すことにした。
彼は合間合間に相づちを入れ、真剣に話を聞いてくれた。
「でね、まず連れて行かれたのは市の児童相談所みたいな所。そこでは『イジメ』って決め付けられて話を進められてたん。登校拒否児の理由は皆イジメだと思ってるわけ。で、そこにも行かなくなって、そのまま中学を卒業したんね。んで、そん時勝手に中学の先生に決められた高校を受験させられてて合格しちゃったん。落ちた人に本当申し訳なかったよー、マジで!でもやっぱり不登校で1年在籍してやめちゃった。それから1年ひきこもったんね。今とは違って家事もやってなかったし、ほんまに部屋に引きこもってた。で、そん時初めて心療内科みたいな精神病んでます的な病院連れていかれたんよ。そん時は、病名とかそんなん一切なしで、これからは義務じゃないんやから自分のペースでやっていけばえぇんよ、言われて励まされながら過ごしてた。で、やっと自分で高校行こうって決めて、受験してん。アルバイトも始めた。何となく、人と同じ事をしなあかん思ったから。実際、しんどかった。でも、一個ずつ一個ずつやっていこうって決めてん。うちは、16ん時くらいまで、ただ今生きることだけしか考えてなかった。だから、夢とかそんな未来をみることできんかったの」
「でも、夢、もったんやろ?」
「うん。心療内科に何度も通ってたんやけど、自分がアダルトチルドレンやってだんだん自覚していってん。こんな病院通ってるのに、病名がないなんておかしいってずっと思ってたから、自分でも勉強するようになってた。うちの高校、大学みたいな専攻制やったから、それ系のばっかり勉強してた。で、ある日、心療内科の先生に自分の病気は治るのか?って聞いたのね、二十歳前やったかな…越えてたかな?そしたら、君は家庭環境だけが問題じゃないし、原因は複雑で治るって事を考えない方がいいって言われたのね。頼れる人を見つける事ができたらいいけれど、見つけられるまでゆっくりゆっくりやっていかなきゃ駄目だって。それまでここへ通っていればいいって。そん時かな、一度、私、自殺未遂起こしてます。自分でも知識はあったし、こうなることは自分でも判ってたけど止められなかってん。うん…止められたら皆知識植えつけたらうつ病患者なんていなくなるもんね。判ってても止められんかった。で、ハッキリ言われた。君はこのままで生きていかなきゃいけないんだよって。どう思う?治らないと思う?」
「うーん、精神論やけど諦めるっておかしいよな」
「うん。だから、うち病院行くの止めたの。で、独学でいろんな事学んだ。知識だけはどんどん増えてった。絶対治るよって思ってたん。自分の感情やもん。コントロールすればいいだけやもん。でも、知識が増えれば増えるほど、先生が言った言葉が正しいと思うようになっていった。で、高校でカウンセラーの道を推薦されたのね。色々資料渡されて、大学にも行きたいって思うようになった」
「それがお前の夢?」
「夢って、ゆうじは職業だと思ってるよね?」
「そりゃな…」
「うちは自分を治す為に、カウンセラーになりたいと思った。人の為に何かが出来るとは思えない。自分の病も治せないのに、人の痛みを取ることなんてできないでしょ?夢って元々は自分の為じゃん。それがいつしか人の為にって思えることでしょ?」
「まぁな」
「私は今でも人の事なんて考えてられない。自分の事で精一杯なの。大学は家庭の事情で諦めちゃったけど、ちょっと前から専門学校に通ってる。その学費の為に私は働くの。働くのはどんな仕事だっていいと思ってる。もしもね、自分の心を癒す事ができたなら、多分、私もいつか人の為にこの知識を使いたいと思うんじゃないかな。今は思えないけれど…。私はしっかり生きたいの。いつかね、こんなにすごい人が居たんだよって言ってもらえるくらい一生懸命生きたいの。それだけなの…今は」
「そっか…ちゃんと考えてるんやん、お前。偉いよ…。それって、夢がないっていうよりも、寧ろ先の先までお前未来みてるやん。勉強頑張って、人の為に何か出来るといいな」


話し終わっても彼の真剣な顔は緩まなかった。
私の話で彼は余計に色々と自分の事を考えるようになってしまった。
目の前の私が見えてないみたいだ。


「うん。…ゆうじは?私ばっかりじゃなくて、ゆうじも話して」
そういうと彼は真っ直ぐに私の目をみつめた。
そらさずにはいられなかった。
「俺さ…」
私は、ちゃんと彼の話を最後まで聞いていられるだろうか。



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