137.触れられない手 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

137.触れられない手

彼が帰ったのは2時半を回っていた。
私は仕事に行かないと決めたので、徹夜の彼に付き合うことにした。
寝ろと言われたけれど、帰ったらメールをしてと頼んだ。


三時半を回り約束どおりメールが届く。
<ただいま。寝たか?>
<うぅん、起きてる。今日はありがとう>
<大丈夫か?>
<大丈夫だよ、本当に。ゆうじの方が大丈夫?だよ>
<あぁ、頑張るよ。朝まで付き合ってくれるん?>
<いぃよ>
<何か話して>
<えーゆうじがお話して>
そうメールするとしばらくメールは返ってこなくて寝たのかと思った。
が、しばらくして長いメールが送られてきた。
<せのりは俺のお前に対する愛情を信頼してくれてる?今、一つだけ伝えておきたい。彼女がいる優柔不断な俺、客観的にみればせのりを都合のいい女みたいに扱っていると思われても仕方ない事してる。でも、俺は心からせのりを愛しいと思っているよ。信じて欲しい>
<信じてるよ>
<嘘だろ>
<本当だよ>
<じゃぁ、俺の名前なんで呼んでくれないの?>
<ゆうじって呼んでるでしょ>
<メールだけね。会ってる時は未だにあなたや>
<そうだっけ?>
<何度かあったけどな>
<そっか、癖だと思うけど>
<じゃぁ、俺の体に触れないのは何故?>
<バレてた?>
<そりゃ、気付くだろ、普通>
<うーん、怒らない約束>
<怒らないよ。俺が悪いのは解かってる>
<彼女が触れた手、彼女が触れた体、彼女に触れた手、彼女を抱いた体、私には触れたくてもどうしても自分から触れる事はできなかった。何度も手を繋ぎたいと思ったことあったけど、駄目だった。気持ち悪くて汚いと思った。ゆうじがじゃないよ。ごめんね。でも、ゆうじが触れてくれると嬉しかった>
<そか・・・ごめんな。俺、怖いわ。お前が何処まで傷ついてるのか検討がつかない>
<気にしないで>
<そんな訳にはいかない。俺、お前としかエッチしてないし、彼女とも会ってない>
<そっか、嬉しい。きっと、もう繋げるよ>
<ほんまか?お前が繋いでくるまで俺繋がんで>
<嫌や、何でさ>
<自分から繋いでくればいいやろ>
<いじわる>
<お前のが意地悪やん。俺、ずっと待ってんのに>
<繋ぐよ、いっぱい繋ぐよ>
<解かった解かった>
<来週来る?>
<あぁ、行くよ。せのりとの時間、少ないけど、出来る限り愛したい。中途半端な俺やけど愛してくれる?>
<愛してます>
<俺も、愛してるよ。俺、ちょっと限界かも、2時間やけど寝るわ。起こしてくれる?>
<どうやって?>
<俺も自力で起きるけど、目覚めに1発メールで渇入れて>
<わかった、おやすみ>
<はーい、おやすみ>


彼がそんな些細なことを気にしているとは思わなかった。
触れたい手に触れられない手。
「手、繋ごっか」そんな風に言ってくれる彼が照れ屋だと思っていた。
そうじゃなかった。
「もう繋げるよ」そう言った私の思いは本当だ。
彼は私を抱きしめてくれたから。
これでお相子、そんな思いからじゃなく、愛されてると思ったから。

気持ちの変換さえ出来れば、簡単なことだ。

彼の手に触れられるのは私だけ…。


朝の7時、彼にメールを送る。
<おはよう、眠い>
彼の声が聞こえてきそうだった。