135.愛されたくない | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

135.愛されたくない

私は派遣会社に仕事を辞めると告げた。
が、上司の言葉を思い出し、何があったかは言えないでいた。
上司に口止めされていなくとも、言えたものじゃないのだけれど。


「何かあったか?」
「いや・・・その・・・」
「さっきもあちら様から連絡あったけど、10名とせのりちゃんは忙しいから何が何でも送り届けることって言われてるんだよ」
「そうですか、えっと、じゃぁ一応お休みを頂きたいです」
「駄目だよー。せのりちゃん、罰金だよ」
「それでもいいです。私の代わりに誘導できる経験者を1名つけてください。私の仕事は未経験者のサポートです。明日は誰も助けてはくれないので、中川君あたりがいいかと・・・」
「そう?相当な理由みたいだね」
「また、掛けなおします。辞めるというのは、またその時に」


私は電話を切り、駅のホームのベンチに腰を下ろした。
剥きだしの蛍光灯がパチパチと音を立ててる。
ゴーっと風を巻き上げながら貨物列車が通り過ぎる。
私は彼に電話していた。
コールはなり続け、留守番電話へと切り替わる。


私は改札を出て、また電話を掛けた。
「今、仕事終わって駅」
誰かと話がしたかった。
「解かった、直ぐ行くから小学校の前で」


小学校の前の通りのベンチに座り、コンビニで買ったウーロン茶を飲む。
「どうした?」
親友が慌てて駆け寄ってきた。
「ウチってなんでこんなんなんやろう?」
親友は私の話を黙って聞いている。
端折って私は親友に今あったことを話す。
「あいつは?」
「ん?まだ仕事みたい」
「・・・あんた、何処にも行かんよな?」
「へへ、バレた?!」
「今度は何処へ行くつもり?今はあいつがいるやん」
「また、インド行きたいなー」
「何で?私には解からんけどリセットする意味って何?」
「こんな自分を愛して欲しくない…的な?!」
「あいつは・・・」
親友はそう言いかけ、言い直した。

何を言いたかったのだろうか。
「もう1回電話しぃって」
「その内掛かってくるよ」
「あんたおかしいって!大丈夫?妙に冷静やし」
「うん、それより明日仕事がな・・・」
そう言い掛けた時、私の携帯がなった。
彼からだった。
親友は「ちゃんと話すんやで」そう言い残し帰って行った。


「もしもし」
「もしもし?どうした」
「うんと、他の人とエッチしちゃった」
「は?」
「もうあなたを好きで居られないよ」
「おい、ちゃんと説明しろ!今日は仕事やったんちゃうんか?」
「うん、仕事場で」
「・・・それってレイプ」
「ズバっと言うのね」
「ごめん・・・警察は?」
「言わないよ」
「何で?」
「解からないなら簡単に言わないで」
「お前、今何処?」
「駅」
「とりあえず、直ぐ家帰れ」
「言われなくても帰ってるよ」
「今から行くから」
「は?明日仕事でしょ」
「1時間で行く」
「来ないでよ」
「行くから」
「会いたくない」
「行くから」
「何で?嫌がってるでしょ」
「お前を抱きしめに行く」
「私、もう寝るからね」


行くから、そう彼は言って電話を切った。

本当にそう言ったのだろうか、彼がそう言い終える前に切れた電話。

聞き間違えたのかもしれない、そう間違えかもしれない。
私は同情されているんだろうか。
私は見世物じゃない。
もう私に触れないで。
大丈夫なんだから。