129.活きる生き方 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

129.活きる生き方

相変わらず彼からの連絡はなく、終わってしまったのかと落ち込んでしまう。
何も出来ずに不機嫌になることだけが、素直さなのかと思えた。
浮気男にメールをしないと言った自分は偉かった。
また、別の男が現れて幸せになれる筈。
彼は最低な男だったんだ。
私に男を見る目などない、素敵な男?勘違い。
新しい人生の始まり。
自分を奮い立たせる思いは、全て嘘に思えた。
何より、彼が返事を打つという変な大きな自信だけがあった。
私が視た彼だ。
だから、何も自分には与えてやれない。
彼の言葉を待っている。

彼の答えを待っている。


仕事中、私はずっと不機嫌だった。
接客業ではない黙々とする仕事で良かったと思った。
普段わきあいあいとする職場でも、不機嫌をアピールすることで話しかける者もいなくなる。
黙々、黙々、仕事をこなした。


いつものように私は自分の仕事を終わらせ、上司の仕事を手伝い上司の車で送迎してもらう。
「煙草すっていい?」
「無理、俺の車は禁煙」
「あっそ!別庫(別倉庫)でも会社の車できな!チクるぞ!」
「はいはい、すみません。怖い派遣や」
「はぁ・・・」
「はい、ため息出ました!お前の機嫌を左右してるのは彼氏ですか」
「彼氏ではないけど、終わりにしようとした」
「ほぅ~」
「人の不幸は嬉しいですか?」
「んま、俺から言わせれば始ってもないけど、終わりやって言うんやったら、俺を含め喜ぶ男は沢山おるんちゃうか?」
「はぁ?男って何考えてるわけ?」
「そういう男を選べるお前やから恋愛には苦労せんよ。愛されるのに不自由はない」
「そうね、正直男に不自由したことないかも」
「言うねぇ~!ま、今ブリッコしたって意味ないけどな」
「そう!そんな事ないですぅ~なんて言う余裕なし」
「男は沢山いるぞ。俺が知ってる中だけでも多いぞ」
「選ぼうっかな~」
「本気で言うてるんか?」
「うん、言うてるよ~」
「お前はそいつらを愛せるんか?」
「いつか愛せるんじゃないの」
「いつかね・・・それまで辛そうやな」
「愛されててつらいことってあるんかな」
「どうやった?」
「辛い・・・ね」
「愛したいのに愛せない、愛することに不自由を感じたら人はどうするんやろうな」
上司の誘導尋問にハマり途中で答えられなくなってしまった。
さて、彼はどうするのだろう。
私?私はいつも逃げ出した。
愛せないと逃げ出したくなる。


「お前、いくつになったっけ?」
「24やけど25になる」
「そか、そろそろ結婚も考える年に入ったってわけね」
「年齢的にはね」
「人はこういう相談を受けると大抵、無駄な恋愛してるより数多くの男と出会って最高のパートナーを探せって励ますんよな」
「さっき言ってたね」
「そういうのが価値ある生き方、頑張ってる素敵な人に見えるからかな」
「視野が広くていいんじゃないの~」
「そもそも、人の価値って何や?」
「それぞれじゃん」
「お前は一人の男引きずって価値ある出会いが出来るんか?お前は絶対逃すと思うけどな。俺の勘違いならこの話はなかったことにすればいいけど、お前、今までそうやって生きてきて失敗してきたんじゃないの?」
「勘違いじゃないね・・・」
「でも、今の男と過ごして自分が開花してるのは認めるよな」
「うん」
「それって、お前にとっての価値ある生き方なんじゃないの?」
「・・・・」
「自分から終わりにしてどんな価値があった?」
「正しい道やと思ったんやけど・・・」
「誰にとってや?」
「誰にとってなんでしょうね」
「確かに生き殺しのような恋愛やわ。愛されてないと思う。けど、男の気持ちは解かる。俺も散々遊んでるからな。浮気相手もホンマに好きやねんで。それが本気になるか浮気で終わるかは俺にも解からん。綺麗事やけど、好きになった女と一緒に居たいと思う。彼女とか関係なく。愛せる女を探してる。彼女なんて一番乗りなだけやぞ。愛せへんから他を探すだけ。人事みたいに言うけど、愛にかわるのは女次第やな。こんなこと彼女の耳に入れば俺殺されるけど、ぶっちゃけそうやねん」
「結局、愛されないわけね」
「違う、それがその男の俺の価値ある生き方やって言うてるんや。愛せるかもしれん女は逃がさんぞ。男がどう返事するかは知らんが、無駄な道は歩まんやろう。お前がそんなんじゃ、返事が返ってきたってどうせ浮気相手で終わるさ。返事がこんなら男の価値はお前になかったってこと。どっちにしたって、自分を殺したのは自分。生きたきゃ自分で動け!別れてもいいし、縋ってもいい。今のお前は別れても、付き合っても、生き殺しや。生きろっていうか、活きろ。自分が活きる価値ある生き方をしろ。漢字の変換できてるか?」
「あぁ、うん、さんずいの方やろ」
「あぁ、って漢字はどうでもえぇねん。理解できてるか?」
「うん、言い包められた感たっぷりやけどな」
「まぁな、言い換えれば浮気を認めろってことやしな」

「認めても価値があるってことでしょ」
「で、何て終わりにしたん?」
「聞く順番違うくない?メールはしませんって」
「それって、終わりにしてなくないか?」
「そう?」
「下手な駆け引き・・・。ごめんなさいって言わせたいだけやろ」
「かも・・・」
「お前って、頭の回転いいんか悪いんか解からんな」
「貶されてる?」
「いや、男が惚れたのがちょっと解かるかも」
「口説いてるん?」
「ちょっと」
「無理やって解かってる?」
「充分にな」


上司の恋愛論を押し付けられ家に帰った。
反論してやりたかったが、出来なかった。
そんな男の勝手な言い分が、私にとってとてもメリットであると思えたから。
そして、彼といる自分が好きだったから。
他の男では駄目だと決め付けているだけかもしれないけれど、自然に自分を出せない相手に意味などない気がした。
本当の自分を無理やりだすことの意味なんてない気がする。
私は彼だから、私をみて欲しいと思えた。
そう思えた出会いを逃がしたくない。
ただ、価値ある生き方かどうかは解からなかった。


もう少し考えてみよう。
私の為になること考えてみよう。