119.嫌いだったら | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

119.嫌いだったら

朝、目を覚まし、私たちはラブホテルを出た。
口数は少ない。
ま、いつもの事なのだけど・・・。


「お腹すいたか?」
そう聞かれ、適当に返事をする。
一応私のリクエストを聞いてくれるけれど、私は答えないので聞きながらも彼は一人で考えていた。
そして、彼がいつもソフトの試合の後に行くというお好み屋さんへ行くことになった。


私の家の近くにあるお好み屋さん。
知ってはいたけれど一度も来たことがなかった。
男の子が集まりそうなそんなお店。
ジャンプやマガジンやサンデーなんかが揃っていて、元気のいいおばさんとおじさんが印象深い。
注文した料理がテーブルに並んだのだけど、その量は並にも関わらず大盛りだった。
ゆっくり食べ始めたのだけど、食べても食べても減らない。
私のお皿は、運ばれてきた時とさほど変わらない状態だ。
彼はあと一口で終了みたい。


「食べるの早いよね、いつも」
「お前が遅いんじゃないの?」
「ムカッ、もっと綺麗に食べなよー、ご飯粒残ってるで」
「そういや、お前いっつも綺麗に最後まで食べるよな」
「当たり前でしょー。A型男ってそうなの?」
「なんで?」
「ウチの弟も几帳面で神経質のくせにご飯粒残すの。ご飯粒ってホント洗う時面倒なんよね!」
「はいはい、食べますよ~」
彼は、一粒一粒ご飯をつまみながら食べてた。
そしてお箸を置いて、壁にもたれ暇そうにしていた。
「もっとゆっくり食べればいいのに」
「えぇよ、ゆっくり食べぃ」
彼はずっと私が食べるのを見ていた。
でも、もう限界。
半端なく量が多い。
「でも、もう食べられへんかも」
「やっぱりな、女の子には多いと思って、自分の分も並で頼んでん」
そう言いながら彼はまたお箸を持ち、私が残した料理を食べ始めた。
今度は私が彼を眺めている。
「お前さ、もうちょっと食べた方がいいんじゃない?」
「結構食べてると思うけど」
「体重いくつ?」
「30・・・8・9くらいじゃない」
「小学生やん!」
「小学生ん時は55くらいありました~」
「いや、えばるとこちゃうしな・・・減っとるがな!」
「・・・二十歳越えたら痩せて来るもんやねんって。んで結婚したら増えんねん」
「あはは、ま、そんなもんかな。でも、もうちょい食べて太れよ」
「無理して食べて下痢になったらまたやせるやろ」
「何でもえぇけど、残しすぎや。俺の計算が・・・腹いっぱい」
「がんばれ!!」
「応援されても・・・。バー来てた時もっと食べてなかった?」
「若い時期は過ぎてん。あん時まだ22やで」
「そか・・・もう・・・」
「イチイチ、ムカつく」


バーの話が出て、彼と思い出話に華咲いた。
こんな事もあったね、あんなこともあったねなんて言いながら。


「そういや、あいつ等と連絡とってる?」
あいつとは男友達のこと。
そういえば、そんな奴もいたな・・・。
すっかり忘れていた。
「取ってないよ」
「ふーん」
「私、大っ嫌いやねん。その場しのぎに嘘ついたりする人」
「あいつか・・・そういうとこあったからな。俺も嫌いかも」
「つい最近も、遊ぼうって話になったみたいよ。聞いた?」
「聞いてない」
「でも、一向に連絡なしやってさ。しかもあいつからの誘いやで」
「あいつらしいな」
「ウチの親友も嫌い?」
「なんで?」
「あなたたち、いつもいがみ合ってるみたいやしね」
「あいつが俺の事嫌いなんやろ?」
「けど、嫌われたら嫌いになるってこともあるやん」
「俺は嫌いじゃないよ」
「そ、なら良かった。私の好きな人は好きでいて欲しいし」
「でも、あいつには当分好かれそうにないけど・・・」
「何で嫌われてるか解かってるん?」
「あぁ、二股やろ」
「さぁ?私はしらない」
「とぼけられても・・・そうなんやろ」
「そうやったとしたら、直そうとは思うわけ?」
「ちゃんと考えてるよ。でも、あいつに好かれる為にやるわけじゃない」
「そうやけど」
「お前は嫌じゃないんか?」
「親友やで!?」
「じゃなくて、俺の事」
「嫌やで!そやけど私はもっと素敵なところいっぱい知ってる」
「何処?」
「言わない!調子乗られても困るし」


彼が私の残した料理を食べ終わるまで話は続いた。
最後のご飯粒一つ食べ終わり、彼と店を出た。
昨日、おごれなかったケーキの代わりに私がおごった。


「ごちそうさま」
彼が私にそういう。
「お粗末さまでした・・・ん?おかしいなこの言葉」
「お粗末じゃないしな!めっちゃご馳走やったし」
「やろ!おごったらなんて言うん?」
「いえいえでえぇねん。いつもおごられてばっかってバレバレや」
「違うもん!主婦のくせやもん」
「はいはい」


車に乗り込み急ぎ気味で私の家へ向かった。
そう言えば彼は今日、家族と会う約束だった。
突然の激しい雨が降ってくる。
「最悪や、こんなんで墓参りかよ」
彼はヒトリゴトのように呟く。
家の前につき、焦りながら私に話しかける。
「また会いにくるからな」
そんな彼を見て、私も何故だか焦り気味。
「うん、またね」
私は急いで車から降りた。
いつも見送ってくれる彼。
今日は私が彼を見送った。
車が見えなくなるまで手を振った。


夕方、「ごめんね」というメールが届く。
私は返事をしなかった。
仲直りできたって思えるけれど、何となく心にモヤが残った。
中途半端な気がした、私も彼も。

嫌なところ一つで嫌いになれれば簡単なのに・・・。



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