118.タイミング | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

118.タイミング

我に返ると見覚えのあるラブホテルのベッドの上で、オリンピックの中継をテレビで見ていた。


彼の車が立ち去った後も私はずっとその場に座り込んで泣いていた。
そしたら、車が目の前に止まって、車から降りてきた人にずっと抱きしめられてた。
背中をさすられ「大丈夫か?」とも言ってた。
車に乗せられて・・・。


今も私を優しく抱きしめている者の顔を私はそっと見た。
そこには彼の顔があって、私ににっこり笑いかけてくれている。
私も上手には笑えないかもしれないけれど、笑って見せた。


正直ほっとした。
彼でよかったと思った。
私はあの時、彼だから車に乗ったわけじゃなかった。
誰でもよかった・・・。
そうだったんだと思う。
記憶は薄いけれど、あれでも彼だと判断してたのかな・・・どうだろう。
私は今、彼だと確かめてホッとしている。


「やっと笑うようになったか」
「ごめんね」
「おいで」
私は彼に強く抱きしめられに寄り添った。
強く強く抱きしめてくれる彼。
「もう眠りな・・・」
「うん」
「その前に、もう1回だけ聞いていいか?何で泣いてた」
「・・・」
「言葉に出来なくても、思い浮かんだ言葉言ってみ」
「可愛くないって言った、最低だって言った、帰りたいって言った、ずっと寝たがってた、友達呼ぶとか言ってた、一緒に居たくないって思った、でも一緒に居たいと思った、寂しかった」
「ごめん・・・俺、そんな事ばっか言ってた?」
「言ってた」
「それはホンマ俺が悪かった」
「言ってた」
「ごめん」
「ずっと言ってたよ」
「安心しきってたんやわ」
「うちは不安」
「そやな・・・ごめんな、お前が寝るまでずっと起きてたるから」
そういうと彼は腕枕をしてくれ、目をつむる私の頭をずっと撫でていてくれた。


目はつむっているけれど、寝付けずに居る私に彼は話し出す。
「善しも悪しも、タイミングやな」
私はそっと目をあける。
「一定に流れる時間の中で、人はタイミングで出会ってタイミングで深めてゆく」
彼は私ではないどこか違うところを見つめそう語る。
「タイミングが良いと思っても結果悪かったり、その逆もあって、全ては本当にタイミング次第や」
彼が何の話をしているのかが解からなかった。
「今、こうしてるのも、タイミングなんやろうな」
それって、善いの?悪いの?
「私たちってタイミング悪いね」
私は単純にそう思った。
そんな私の言葉に、彼は何も答えなかった。
善いのならどうなのだろうか。
悪いのならどうなのだろうか。
彼が無言だから、その言葉は複雑になった。


タイミング悪く出会った私たち、お互い恋人のいない期間だってあったのに、また再会した時もまた恋人がいた。
生活リズムだって、どちらかが合わせなくちゃならないタイミングの悪さ。
悪いタイミングばかりだけれど、何度となく訪れる私たちのタイミング。
何で続いてるのかな、私たち。
こんなにタイミング悪いのに。
それでも続いていくのかな、私たち。
何処まで続いていくのかな、私たち。


彼は私の顔をみることはなく、ずっと遠くを見てた。
私の髪を撫でる手が、誰か別の人の手に思えた。



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