114.髪を撫でる時 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

114.髪を撫でる時

「せのり」
そう彼に呼ばれて気付くと車のエンジンは切られており、車は停車していた。
「何かホンマに変やぞ?カラオケ・・・する?」
「う・・・うん!」
「んじゃ、降りよ。さっきから着いてるんやけど」
彼は既にシートベルトを外し、鍵も抜き、しばらく私が気付くのを待っていたようだ。
「鞄貸して」
彼は私の鞄を受け取りいつものように自分の荷物を私の鞄の中に入れている。
「携帯は?」
「ん?お前のあるしいいじゃん」
「電話鳴ったらどうすんのさ」
「別にいいんじゃない?後で確認するし」
「ふーん」
「んま、お前が迷子にならん限り必要ないしな」
「ならんし!」
「んじゃ、必要なし!」
やっぱり不思議で仕方ない、何故携帯を携帯しないのか。
携帯って・・・そんなもん?
私が携帯に少し依存しているだけかもしれない。
でも、少しだけそんな彼を見て寂しくなった。
いつも彼は私のメールをこんな風にスルーしてるのだろうかと。


彼について、アミューズメントビルへと向かう。
ビルのネオンが眩しい。
「お前、明るいところで見ると、中学生みたいやな」
「そんなことないもん」
「身分証とかもってる?」
「え、いるの?もってない」
「いや、未成年入れてもらえるかな~と思ってね」
「ムカつく!」
彼は笑いながらビル内へ入り受付をしている。
私はそんな彼を通りすぎ、プラプラと初めて来るビル内を見て回る。
「行くぞ」
マイクとリモコンが入ったカゴを持って彼は先へと進んで行く。
私はそれに続く。


指定された部屋へ入ると彼は早速本を開いて曲を選び出した。
新曲好きの彼からは趣味なんて見出せない。
この人って何が好きなんだろうか。
好きだと教えてくれた曲たちには共通点がない。
「あぁ、全然新曲知らんわ・・・オヤジ化してるかな?」
そう言いながら彼はバサッと大きく本を割り、何か目的の曲を探しているようだ。
リモコンを操作し、彼に選ばれた曲が流れる。
私が大好きだと言った曲。
SMAPのオレンジ。
この曲を何で好きか、彼は知らない。
ただの、当て付けなのに。
「なぁ、何でお前これ好きなの?」
「男の美学」
「ん?」
「最低な男。この曲聞くと、こんな男に傷つけられた心が痛む」
「どこが?」
「教えない、きっとあなたもそうやって誰かを傷つけるんだわ」
「俺もお前に?」
「かもね・・・まだ解からないけど」
「それって好きなのか?」
「いい曲だよね。泣けてくる」
ありがとうのサヨナラなんて、私には必要ない。


「ふぁ~、眠い。俺、ここ最近ろくに寝てない」
「仕事忙しい?」
「んー、多分、俺の要領が悪いだけかも」
そう言いながら彼はソファーに足を上げ寝転がり、私の膝に頭を置いてきた。
そして私のお腹に顔を埋め、片腕を私の腰に回した。
「せのりの匂いがする」
私は彼の髪をそっと撫でてみた。
「やりたい仕事やってんけどな・・・。なかなか仕事できん」
「そぅ・・・」
「でも、実際やってることは、やりたい事じゃないしな」
「そぅ・・・」
「眠い」
彼はそういうと、ギュッと私の腰を引きつけ、寄り顔を私のお腹に埋めた。
愛しく思えた。
彼が膝の上に居る間、ずっと彼の髪を撫で続けた。
何も、考えなかった。


しばらくして彼は勢いよく「復活!」と飛び起きた。
「何?急に」
「元気出た!」
「・・・目ぇ覚めた?」
「ん?おぅ、覚めた!覚めた!」
違ったのだろうか。
何が復活したんだろう。
私には解からない復活した男の気持ち。


「卓球で勝負しようか」
彼はそういうと私を部屋に残し、マイクとリモコンを受付に返し、ラケットとボールを取りに行った。
何だか胸が痛い。
今頃になって、さっき聞いたオレンジが胸に染みてきた。
彼はいつまでもずっと私を必要としてくれるだろうか。
彼が「ありがとう」という顔が浮かぶ。

否、もう顔は見えない、彼の背中だ。
私はあまり彼の支えになりたくない。

願わくば、ずっと彼の髪を撫でていたい。
また、涙が溢れてきた。
彼が帰ってくる前に、流れきってしまえ。




SMAP, 野島伸司, 小森田実, 市川喜康, ZAKI
らいおんハート

歌詞検索は「うたまっぷ

オレンジの歌詞が判らないと意味が判らないかもしれません。

が、かなり大幅な引用になりそうなので自粛してます。

マジで解かんねぇべ!って方はすみません、調べてください。

検索が多いんで探してきました。↓(YouTube)

http://www.youtube.com/watch?v=ta47w25BhIA