111.秘密の関係 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

111.秘密の関係

精神的な面が大きいのだろうか。
仕事から帰ると、かなりの疲労に腰が重い。
このまま眠りたい。
だけど、お腹を空かせた家族が「何か食わせろ」とうるさく集る。


祖父が買い物を済ませ、冷蔵庫に食材を詰めていてくれる。
冷蔵庫を空け、並ぶ食材をみて献立を考える。
疲れているときは、煮込み系ばかり頭に浮かぶ。
鍋に詰め込んでしまえばそれで終わり、さぁ何にしようか。


最低でも30分はかかるというのに、私が野菜を切っている内に家族はテーブルに座り箸を持ち茶碗を叩いて待っている。
「腹減った~、飯食わせ~」
何処かで聞いたことのあるフレーズ。
歌っているのは弟と父。
なんて家族だ・・・。


そこへ私の携帯がなる。
私は家族が歌う歌にケツを叩かれながら、携帯を肩とアゴに挟み応答する。

「もしもし、俺」
「もしもし、どうした?仕事は?」
私は、元気を頭に思い描き声を出す。
「休憩中。声が聞きたくなって」
「そ、ありがとう」
私がそういうと、何故か変な沈黙になった。
お礼じゃまずかっただろうか?


「なんか賑やかやな」
「あぁ、早く飯作れってうるさくて」
「もしかして、今、飯作りながら?」
「あぁ、気にしないで、後は煮込むだけだから」
「そ、じゃ遠慮なく!結構お前元気じゃん」
「何で元気なんだろうね~」
「俺の声聞けて嬉しい?」
「嬉しいよ。元気になるね」
「今元気になった?」
「うん、今!元気になった」
「泣いてると思ったんやけどな~」
「残念でした」
「でも、元気になってよかった」
「だね」


ちょっと無理してみたのも事実だけど、彼の声を聞いて元気が出たのも事実だ。
気持ち殺して、無理をしてしまった私には、どちらがベストな選択だったのか判らない。
無理をせずとも元気になれたのかもしれない。
判らなくなった。


「今、誰がいるん?」
「弟とパパさん」
そういうと、弟と父はさらにテンションあげて歌いだした。

誰にアピールしているんだか・・・。

「ふ~ん・・・俺の事好き?」
「はぁ!?」
「俺の事好き?」
「うん」
「うん、じゃなくて。家族の前だと言えない?」
冗談なのか本気なのか、彼は私に何度も何度も好きかときいてくる。
私はとても意味のないものに思えた。
「言ってるよ、けど今は言いたくない」
「何それ、恥ずかしい?」
「恥ずかしいとかじゃないし。言いたくない」
「俺は言えるよ。せのりの事好きだよ」
「あぁ~もう!大きい声で!!」
彼は何を考えているのだろうか。
「家、呼んでよ。手料理食べたい」
「来ないでね」
「なんで・・・寂しいな」
本当に解からないのだろうか。
もしかして、試されてるのだろうか。
もし、冗談でも腹が立つ。
「彼女の居る人にそういう事言われたくないの」

私がそう言うと、彼は本気だったらしくかなり落ち込んだ様子だった。
私はこんなこと言うべきだったのだろうか。
嘘をつくべきだったのだろうか。
俗に言う優しい嘘を。
もっと他の言い方もあったかもしれない。
あるのだろうか、思いつかない。


電話を切った後、妙に落ち込んだ。
誰にも言えない関係。


「デートの誘いか?」
父が興味津々で聞いてきた。
「誘われてない」
「あれか!声が聞きたかった的青春の1ページ」
「んま、そうだけど、最後の下りは否定するわ」
「お前、彼氏に冷たくない?」
「・・・・彼氏じゃないから」
父はこれ以上何も聞かなかった。


誰も聞きたくない関係。


「でも、好きなの」心で呟く声が虚しかった。
父に自慢したいくらいの素敵な人なのに、言えなかった。