104.駄目だし | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

104.駄目だし

「市民球場ってそう言えば、お前の家の近くよな」
「うん、5分くらいだね」
「俺、今日そこで試合」
「そうなの?」
「見に来る?」
「・・・うん、行く」
「マジで言うてんの?」
「冗談なん?」
「マジやけど・・・やっぱ、帰れ」
「何で?」
「半端なく暑い!辛い!ヤバイ!」
「かも・・・でも、いく」
「お前、倒れそうやもん。家帰って寝てろ、あんま昨日寝てないやろ?」
「解かった・・・」
「終わったら迎えに行くから」
「本当?」
「あぁ」


私はネットをしながら彼を待っている。
覗きに行こうかと思ったけれど、行く勇気はなかった。
バーのソフトチームで、少なくとも店長やウェイターなんかは顔見知りなわけで、私が行ったら何か変だもの。
その中には本当の彼女を知ってる人もいるだろうし・・・。
何で来たと聞かれて、嘘がつけるほど私はいい女じゃない。
それに、彼にも嘘つかれたくない。
嘘の紹介をされるくらいならば、秘密であればいい。


お昼を過ぎた頃、彼から電話が鳴る。
シャワーを浴びたあと迎えに来てくれた彼と少しの間ドライブをした。
何だか普通じゃないような気がしていつも以上に緊張した。
何だか話すこともなくて・・・。


「お前さ、その髪型、暑苦しくない?」
「少し。でもロングで居られるのも若いうちだけじゃん」
「なんで?」
「髪痩せるし、キューティクルも自信なくなるだろうし、嫌でも年取ればショートで居たいと思うもんじゃない」
「ふ~ん」
「何?」
「俺、ショートが好き」
「で?切れって?!」
「ショートがいいなぁ」
「私はロングがいいなぁ」
「俺の好みの話やけどな」
「そうね」


そう言われて心揺れない女の子はいるのだろうか。
私はかなり揺さぶられた。
自分が好きでやってること、どうでもいいと思える程に。


「お前、上着もってないの?」
「なんで?」
「乳見えてるし」
「見えてないよ~」
「見えてなくても男は見るの」
「じゃ、見ないで」
「俺じゃなくて、見る奴がおるやろ」
「も~うるさいな!」
「せのりは露出しすぎ」
「別にキャミ着るくらい普通でしょ?」
「自分の体系考えろよ、馬鹿」
「馬鹿じゃないもん、乳だもん」
「はぃはぃ、その乳隠せ」
「今日はいいじゃん、車の中だし」


何だか話すこともなくて、駄目だしばかりされてた。
だけど、一つ一つ私は頭に刻んだんだ。
彼の言葉、頭に刻んだ。
彼好みの女になる?
どうだろう・・・それにも少しだけ勇気がいった。
自分の意志跳ね除けて、誰かに合わせるという事に抵抗があった。


だけど、嬉しくて仕方なかったんだ。


怒られながら、私、笑ってた。



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