105.感じたい | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

105.感じたい

あともう少し、あともう5分、あと1分、と言う私の側にずっと居てくれた彼に笑顔で「またね」と言えた。
次の会う約束も何も出来なかったけれど。


一人になってからも、ずっと気分がよくて何だかウキウキしていた。


そんな夜、彼からメールが届く。
とてもとても長いメールだった。
本当は浮かれてなんかいられなかった事、思いだした。


<せのりの事考えると、やっぱりすごく自分の愚かさや卑怯さを感じずにはいられなくなる
今、俺の中でせのりは大きな存在。
もっとせのりからせのり自身について聞きたい。
お互いにまだ希薄な所が多すぎるよ。
お前には強い愛情と共に、やっぱり申し訳ない気持ちもある。
整理つけようとは思ってるけど、実際何も出来てないんだ。
せのりを好きになればなる程、自分の恋愛に対しての怠惰さが分かる。
でも、遊びとかいい加減な気持ちで、せのりに接してるわけじゃないのだけは解かって欲
しいんだ。
昨日ね、体がなかなか、おじいちゃんだったのは、精神面が大きいと思う。
一つになりたい気持ちがあっても、そういう自分を素直に受け止められない自分がどっか
にいるんだ。
自分を正当化するつもりも、美化するつもりも全くない。
でも、せのりのこと好き。
これは信じてもらいたい。
せのりの目が好き。
せのりのほっぺが好き。
耳が好き。
おしりが好き>


<私、ゆうじが好き。
ちゃんと考えて言葉に出来るゆうじが好き。
私の事も信じて欲しい。
ゆうじを好きになった私を信じて欲しい。
全部、
知らないかもしれない。
でも、ゆうじが私に見せてくれる全部が好き。
後ろめたくて隠してる事があるのなら見せて、嫌いになるから。
でも、好きなの。

好きになっちゃうんだよ。

そんなあなたを好きになる私は嫌い?
セックスできなくてもいいよ。
私もしたいけど、できないの。
同じだよ。
でも、私とやりたいと思ってくれるなら、他の誰かとはしないで。
出来る日まで、ふにゃチンでもいいじゃん>


なんて言っていいのか解からなかったけど、私は言葉にならない想いを言葉にしてみた。
説明なんてできない。
私は彼が好き。
笑っちゃうけど、やっぱり私の言葉は彼には届かなくて、「何が?」「何処が?」なんて色々掘り下げながら聞かれて、お互い大好きな所を言い合った。


そして、彼が聞いてきたのだ。


<聞いてもいいかな・・・。せのりがセックスできない理由>
<聞いたら余計立たなくなるよ>
<ふにゃチンでも好きなんだろ?>


私、ありのまま彼に伝えた。
私は初めてのセックスの相手が誰だか解からないのだ。
所謂レイプってやつなのだと思う。
遊びに行って最終電車に乗ろうと駅に向かってる時だった。
後ろから抱きつかれて、そのまま・・・。
だから、顔も見てないし、何が起きたのかさえ解からなかった。
感覚だけが体に記憶にしている。
正常位だとか相手の顔が見える体位だと安心してセックスができるのだけど、バックだとか相手の顔が見えない体位だと怖くなって、あの頃へ記憶が戻ってしまう。
別にレイプされて気持ちよかったわけじゃないし、寧ろ痛いだけだったのだけど、セックスをしていて気持ちよくなると、今の自分を保てなくなって、過去に戻りやすくなる。
気持ちよくなればなる程、体の記憶が蘇る。
頭に記憶はなく、思い出すことは何もないけれど、体がブルブルと震えるのだ。
私は、感覚的にいつもあの頃のあいつとセックスをしてる。
大好きな人を感じたいのに、体は誰か知らないあいつを感じてる。
それが嫌なんだ。
怖いんだ。
別に傷ついてなんかない。
多分、心は平気。
だって、私は彼とセックスがしたいと思うもの。


<何となく気付いてた>
私の話を聞いて彼はそう言ったんだ。
<セックス怖いって言ってたもんな。確信はなかったけど>
<覚えてたんや>
<あぁ、気にするな!言うても、あれやけど気にするな!>
<大丈夫だよー>
<俺は退いたりせんよ。何も心配するな>
<ふ~ん、私はこんな話、引くけどなー>
<精神的な苦痛を拭い去るのはとても時間が掛かるやろうけど、俺と一緒におる時は忘れられるように、負担かけんようにしたるからな>


彼は、私がどんなに大丈夫だと言っても無視するかのように、私に言葉を投げかけた。
欲しい言葉全部くれた。


<ありがとう>


そんな私に彼は言う。


<大好きだよ>


彼の言葉で私は泣いた。
やっとあの頃の涙を流せた。
レイプされて、5年絶って漸く泣けた。


彼を感じていたい。



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