98.涙の流れないプレゼント | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

98.涙の流れないプレゼント

私の家の前まで迎えに来てくれた彼の車に乗り込む。
また、彼は私の顔を覗きこんで「可愛いな」と微笑む。
無駄に立つアホ毛を直してくれたり、マスカラの繊維でも落ちていたのだろうか、私の頬を軽くはらったりしながら、私を褒めてくれる。
褒めないと気が済まないのだろうか。
私はやっぱり照れながら、彼から目線を外すのだ。


彼のボディーチェックが終わると、彼はふいに後部座席を探り出した。
「何?」
「ん?・・・」
彼の返事が曖昧で、見ていいのやら悪いのやらでチラチラと彼を盗み見ていた。
「ほぃ」
彼に手渡されたレインボーの紙袋。
「何?」
「開けてみて」
「プレゼント?」
私はそう言いながら中身を覗いた。
ブランド物には興味ない私は、箱・箱・紙・箱・紙・紙となかなか中身にたどり着けないプレゼントに苦戦している。
そんな私を見ながら彼は話し出す。
「先週、連絡できなかった日、俺の出張の日、お前の事ずっと考えてたよ。んで、お前に似合いそうな色のハンドタオルがあったから、買ってみた。泣いてるんやろうな~と思ってな。それにいつもお前、ハンカチとティッシュもってないし・・・。何で俺が貸さなあかんねんって話やん!女の子は、こういうの持ってた方がえぇねんで。解かった?!」
「ティッシュは持ってるよ。鼻水でるし」
私はまだリボンがほどけなくて苦戦。
「もぉ~、何であげた本人が開けなあかんねん」
と、言いながら彼は包装をほどきタオルを手渡してくれた。
「綺麗~」
タオルはサーモンピンク色だった。
タオルを抱きしめるように、私は口元にタオルをギュッとあてた。
「くちゃい・・・」
「まだ、新しいからな・・・」
「でも、嬉しい。ありがとう。毎日使うね。あ、洗濯するから二日に1回は使うね」
「おう」
「泣かないけど、使うね。あぁ、いっぱい洗濯したらはげるかな?やっぱりしまって置こうかな~」
「使ってよ、ってそろそろ落ち着け・・・」
「・・・はい」


こんな風に記念日以外でプレゼントもらったのは初めてだった。
受け取っていいのか解からなかったけれど、それよりも嬉しさの方が多きくて悩む暇などなく喜んでた。
「貰ってもいいの?」とか聞くべきだったのだろうか。


彼は寂しい涙はそれで拭けって言った。
だけど、タオル見てたら涙なんて出てこないかもよ、何て私は思えた。
どちらにしても、涙の流れないプレゼントだ。


私はずっとタオルを握りしめていた。
偶に開いたり畳んだりして。
サーモンピンクを見ると嬉しくなる。
私の色だって、勝手に思った。
タオルで彼の腕を拭いてみる。
「何してんねん!」と怒られたけれど、触って欲しかったんだ、よく解からないけれど・・・。


彼と話をすることもなく、私はずっとタオルで遊んでた。
しばらく無言で彼は運転していたようで、急に話しかけられて驚いた。
「な?」
「え?!」
「フル活用やな!」
なんだか恥ずかしくて、タオルを鞄にしまった。
ぽわ~と、鞄があったかく膨らんだ気がした。


「ありがとう」
彼の笑顔が嬉しかった。



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