97.楽しい理由
彼はアレ以上何も言わなかった。
また「いつも」が戻ったみたいに、一言メールを毎日くれた。
戻ったんだろうか。
金曜の夜、彼は残業だというメールをくれたあと、連絡がつかなくなった。
明日は約束の日なのに・・・。
電話をしても電源が入っていなし、メールを送っても当然返事はこない。
私はその日、不安を抱えながら眠った。
会えるのだろうか。
彼の着信で目覚める。
直ぐに出ると「遅い!寝すぎ」と彼は怒っていた。
時計を見ると午前10時を回ったところだった。
「何回電話したと思ってんねん!」
「おはよう・・・」
「俺、そっち行くけど」
「今起きたとこやし無理だよ」
「何寝坊してんねん!」
「別に何時って約束したわけじゃないやん」
「時間決めてなくても会うのは決まってたやろ」
「昨日電話したのに」
「ごめん、俺まだ会社や。3時頃までやってたから、会社で寝てた」
「携帯、電源入ってなかった」
「ごめん、切った」
「何で!?掛かってくるとは思わんかったん?掛けようとは思わんかったん?」
「ごめん、絶対終わらせたかったから」
「それで、ウチが寝てたこと怒っとるん?」
「会いたくなかった?」
「・・・会いたかった」
「なら、早起きして準備しててよ~」
「連絡してこん、あなたが悪い」
「会う時間短くなる~」
「ごめん、で、何時にくるん?」
「3時頃」
「はぁ?」
「俺、一回家帰らな」
「全然、間に合うやん。うち、怒られるとこやったん?」
「起こしたったんやん!ほんまは、昼には行きたかったけどな。会いたくないとか言われるかもしれんしさ」
「どうも・・・それはすみませんでした!」
眠い。
電話を切ったあと、着信履歴を見てみると、朝の8時から何十件と彼の名が刻まれてた。
徹夜で仕事?何てちょっと疑わしかったけれど、2時間掛け続けてくれた電話に嬉しくなった。
それも全て制限いっぱい30秒。
どうでもよくなった。
それだけで信じられた。
そして、やっとごめんなさいと思えた。
8時に出れていたらもう少し沢山会えてたのかななんて思いながら。
それから、彼は30分おきくらいに電話をくれた。
「今、何してる?」
「ん?マスカラ塗ってる」
「可愛くしてくるんやで」
随時私の行動を把握していたようだった。
「今、何してる?」
「ん?マスカラ塗ってる」
「は?さっきも塗ってたやん」
「さっきは左!今は右!」
「後は?また左に戻るん?」
「もうない」
「じゃ、次掛けた時は違うことしてるよな」
「多分ね」
「遅れるなよ」
「なら、もう少しだけゆっくり来てね」
「遅れるんや・・・」
「遅れないけど、ゆっくり来て!」
「あぁ~わかったわかった」
彼が来るまでがすごく楽しかった。
何故、毎日をこんな風に楽しめないのかなって思った。
彼の声を聞いているからだろうか。
ただ、それだけなのだろうか。
「今、何してる?」
「遅い!遅刻やで!!早く来てくれな、顔照かるやん!!」
「何、怒ってんの?!」
「遅いからやん!脂が出てくるやんか!!」
「お前がゆっくりって・・・」
「早く会いたくないんや」
「はぃはぃ、ごめんなさい、あと10分くらいかな」
ただ、それだけなのかもしれない。
彼と話せてる事がとても嬉しい。