83.またね・・・
午後3時を回ったくらいに、彼は「そろそろ」って言い出した。
早くない?
「うん」と私は言いながら、彼から顔を背けた。
私の癖だ。
寂しい顔、見られたくない。
「ごめんね、俺、実はまだ仕事残してて明日までにやらなきゃいけないんだ」
「うん、大丈夫だよ」
「・・・大丈夫ならそんな顔するなよ」
「ワガママ言ったてしょうがないじゃん」
「強がるなっていつも言うてるやろ」
「言わない」
「何で?」
「ワガママ言いたくない」
「何で?」
「困るでしょ」
「困らないよ」
「言わない」
彼は車を走らせ、私の家へと向かってる。
気まずい無言が流れる。
私の家の前について、彼は車のエンジンを切った。
「再来週来るからね」
「うん」
「こっち向いてよ」
私は彼の顔を見たけど、やっぱり耐えられなくて目線だけは外したまま彼の方を向いた。
「家帰ったら、メールして」
「何を?」
「うーん、昨日と今日俺と会った感想とか?」
「何それ」
「まぁ何でもえぇからメールして」
「うん…」
やっぱり何となく気まずい。
私の所為だ。
こういう時、どんな顔をすればいいの、どんな風に言えばいいの。
私は大好きな人と笑顔で「またね」なんてやり方知らない。
寂しいって気持ちが押し寄せてる。
そして、少しの後悔。
そして、本当にまた会えるのかと言う恐怖。
私は、これでいいんだろうか。
また、本当に会ってくれるのだろうか。
泣きそう。
少しの無言を感じた。
ほんの少しだったように思うけれど長く感じ、居た堪れなかった。
「じゃ、じゃぁ帰るね、仕事頑張って」
私は焦ってそう言った。
「あぁ」
また無言が訪れる前に、私は車のドアを開ける。
立ち上がる前に彼の顔を見た。
とても寂しそうな顔に見えた。
もしかしたら、こんな私の姿に悲しんでいる顔かもしれない。
「チューはないの?」
彼が無理やり笑ってそう言った。
どうしよう、そう思いながらドアを開けたまま私は固まった。
「ほら、早くして」
彼が私を急かせる。
「・・・できないよ。あなたがして」
私がそういうと、彼は今までで一番熱く激しいキスをした。
挙動不振になる。
息が上がったまま、私は立ち上がり車から降りた。
「じゃ、じゃぁメールするから」
「あぁ、また再来週な」
「う、うん、またね」
「おぅ、またな」
私は急いで車のドアを閉めた。
恥ずかしい・・・。
私は振り返りながら、手を振り家に駆け込んだ。
玄関を閉めると、彼の車のエンジンがかかる音がした。
彼が走りさるまで、ずっと玄関で音を確かめるように聞き入った。
またね・・・。