嵐の前の静けさ 第一章 4 | 千のコトハ

千のコトハ

徳川千です。千姫って呼んで下さいな★
25年生まれの長男ひーちゃんと、去年末に産まれたくーくとの
日々をつづっています。時々創作もしますよ~
(電撃結婚の話については『千姫の恋』へ)

下の文章は長編小説『嵐の前の静けさ』の一部です。

前の文章を読みたい方は、メッセージボード からどうぞ☆

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第一章 4


三人は互いに馬を飛ばし、住まいである皇居に急いだ。

かなり馬を飛ばしたので、行きの半分もかからなかったが、

やはり走ってる途中で雨が降り出した。雨脚はまだ弱かったから、

気にせずに馬を飛ばし続けた。やがて皇居の正門が見えた。

なかなか帰ってこない皇子たちを心配して、何人かの人が集まっている。

その中にエヴァの姿もあった。エヴァは大臣を先祖代々出す家柄の一人娘で、

エース達とも仲がよく、カオスの婚約者でもあった。

 三人が馬に乗ったまま、正門の所にやってきた。

兵士がすぐに三人にかけより、手綱をあずかる。

カオスやエースはすぐに馬から飛び降りて、手綱を兵士に渡す。

椎那もそれに続こうと、兵士に手綱を渡した。その瞬間、カオスが目の前に

やってきて、手を伸ばした。椎那が馬から降りるのを手伝おうというのだ。

椎那は別に馬から降りれないわけではない。

カオスもそれを知っているはずなのに、一緒の時はいつもこうする。

椎那は小さくため息をついて、カオスの手をつかんだ。

そのまま、カオスの手を借りて、馬から降りた。

エースはそんな二人を不満げに見ている。それに気がついて、

すぐに顔をこすった。そんな三人にエヴァは急いで近づいた。

「おかえり」

そういったエヴァは手にタオルを数枚持っている。

エースが礼を言って、受けとろうとした。だが、エヴァはその手に気づかず、

婚約者であるカオスに近づく。いや、カオスの後ろにいた椎那に近づいた。

「大変大変、結構ぬれてるじゃないの」

言いながら、椎那の頭にタオルを被せ、頭を拭き始める。

椎那は咄嗟のことに慌てる。

「エヴァ様、自分でやりますよ」

タオルの下から、椎那の声が聞こえた。

いつもよりも少し口ごもっているように太く聞こえた。

椎那はエヴァ達に比べたら十も年下で、いつも子ども扱いされるのだ。

「いいの、やらせてやらせて」

楽しそうなエヴァの声に椎那は仕方ないと小さくため息をついた。

「おい、俺らにもタオルくれよ」

カオスがエヴァの行動に呆れながら、言う。

婚約者である自分よりも椎那の方を構うのはいつものことなので、

気にしても仕方ないが、少し不満げである。

「あ、ごめん、忘れてた」

そう言って、エヴァは椎那の頭を拭くのを一時やめ、カオスとエースに

タオルを渡す。椎那はその隙に、タオルで素早くしずくを拭う。

タオルを近くにいた兵士に渡し、かわりに小さなタオルを受けとる。

「あー、椎ちゃん、ひどい!」

エヴァはそんな椎那を見て、声をあげる。

小さいタオルでは自分が拭いてあげることができないではないか。

椎那はにやりと笑う。くすくすと、花のような笑みを浮かべながら、

小さく舌を出した。そんな椎那にカオスたちも笑い出した。

 和やかないつも風景だった。

皇子とそれを支える将軍、本来忠誠を誓い、

礼儀を重んじなければならないかもしないが、エースたちは違った。

元々、幼なじみとして育ったせいか、皇子とか将軍とかという位を

気にすることはなかった。公の場で敬語使うとしても、皇子であるエースを

椎那やカオスは対等に見ることが多く、エースもまたそんな二人に気を

許すことが多かった。このことは皇居の誰もが知ることで、それが当たり前の

風景だった。誰一人として、この風景が変わるとは思ってもいなかった。


 「だーかーらー!」

どこからか、女性の怒鳴り声が聞こえてきた。

談笑していた椎那たちは、その声がした方に一斉に振り向いた。

その声は食料庫に近い門の方から聞こえてくるようだ。

食料庫はすぐ近くで、そこには常時兵士がいるはずだ。

耳を澄ますと、女性と男性がもめているらしい。

男性はおそらく、敬語で話しているから兵士だろう。

女性は誰だかわからない。首をかしげ考えるが、聞き覚えはなかった。

気になった椎那は、一人その声のする方へ歩き始めた。

カオスたちも椎那を追って歩き出した。