嵐の前の静けさ 第一章 3 | 千のコトハ

千のコトハ

徳川千です。千姫って呼んで下さいな★
25年生まれの長男ひーちゃんと、去年末に産まれたくーくとの
日々をつづっています。時々創作もしますよ~
(電撃結婚の話については『千姫の恋』へ)

下の文章は長編小説『嵐の前の静けさ』の一部です。 

前の文章を読みたい方は、メッセージボード からどうぞ☆

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第一章 3


「嫌い。」

と。椎那は空をまた見上げる。

その瞳は空ではなく、どこか遠くを見ているようだった。

「珍しいな。森姫が自然の理を嫌っていいのか?」

そう言いながら、カオスはほどいた手綱を椎那に差し出した。

でも椎那はその手綱を受けとらず、空を見上げたまま呟くように語り始めた。

「…、雨の少ない夏場に嵐が来るのはわかるよ。

嵐が来なければ大地は枯れてしまうかもしれない。

でもこんなに激しく降る必要はないと思う。

自然は時に残酷とはいえ、嵐はみんなさらっていく」

そう語る椎那の瞳はどこか寂しそうで、エースはなんだか心配になってきた。

「おおげざな」

だから、話をやめさせたくて、反論したが失敗した。

椎那はなおも話し続けた。相変わらず、遠くをみつめたまま。

「それまで風が吹いてもぴくりとも動かなかった大木が、風に煽られ倒れる。

倒れるだけならまだしも。大木に稲妻が落ちたら、大地が」

「にしてもさ、エースお前崖の上は怖くないのか?」

消えてしまいそうなほど小さな椎那の語りを打ち消すかのように、

カオスは突然聞いた。いきなりの質問にエースは戸惑い、カオスの方を見る。

椎那もカオスの方を見て、初めて手綱を差し出されていることに気づいて、

受けとる。

「だってさ、木の上は怖いんだろ?」

カオスはまた別の手綱を解きながら、エースに聞く。

「エース様、高いところお嫌いなんですか?」

「別に怖くないよ。」

椎那の普段と変わらない声色に安心したのもつかの間、

カオスと同じ質問をなげつけられ、エースは口をとがらして、

そっぽを向いた。それでもカオスはやめなかった。

「えー、でも登ったことねえじゃん。

俺らが木の上で話してる時も絶対登って来ないし。」

そう言いながら、解いた手綱をエースに渡す。

カオスの顔はにやにやと笑っている。

「そういえば…。なぜですか?」

「それはだな…」

エースは手綱を受け取りながら、答える。その顔は動揺の色が見えた。

そんなエースを見て、カオスはくすくすと笑っている。

「だから怖いんだって」

「怖くねえよ」

カオスの言葉を消すかのように、少し大きな声でエースは即答する。

「ですよね、木の上が怖いのでしたら崖の上も怖いはずですから。

特に風が吹いている時は煽られて崖から落ちることもあるんですよ」

そう言いながら、椎那は馬にまたがる。

椎那を乗せた馬は嬉しそうに小さく嘶く。

「俺は別に木の上は平気だけど、

崖の上で嵐の風に当たるっていうのは結構怖いもんがあると思うぞ」

カオスも最後の手綱を解き、跨る。

「カオス、怖いのか?」

エースも馬に跨りながら聞き返した。

その顔はさっきの動揺した顔とは違い、なんだか嬉しそうだ。

カオスはエースのそんな顔を見て、小さくため息をつく。

エースの言葉に反論しようと、口を開きかけた時、椎那が話し始めた。

「怖くて当然です」

エースの顔を真正面から見つめながら、いつもよりも少しきつい声で続ける。

「嵐を怖がらない者は、嵐にさらわれても何も言えませんよ。

まあ、嵐を怖がらないのは後にどうなるか知らない幼き子ぐらいですが」

エースは椎那の真剣な物言いにだんだんと俯いていく。

森姫である椎那の言うことなのだから、本当にそういう事があるのだろう。

確かに考えてみれば、子どもっぽい行動だったかもしれない。

自分は国民や父から政治を任されているのに…。

椎那とカオスはそんなエースを見て、小さく吹き出した。

「だとさ、ガキ大将」

そう言って、カオスはエースの肩を軽く叩いた。

エースはばっと顔をあげた。くすくすと笑う二人の顔が目に入った。

エースは自分の顔が紅くなっていくのがわかった。

なんだか、怒れてきた。自分はこの二人にからかわれたのではないか。

怒鳴ろうとしたその時、風が大きく吹き、木々を揺らした。

「飛ばしましょう、降り出しますよ」

椎那は空を見上げ、提案する。

「了解」

椎那の案にカオスはすぐ賛成して、馬首の向きを変えた。

だが、エースはまだ口の中でぶつぶつと言っている。

「なんだなんだよ、二人して…」

「置いていきますよ」

椎那はそんなエースの声を消すように、強くなってきた風に

消されないようにと、少し大きめの声で、いいながら馬首の向きを変えた。

「わかったよ」

そうエースも馬首の向きを変えたが、顔はまだ不満げだった。