嵐の前の静けさ 第一章 5 | 千のコトハ

千のコトハ

徳川千です。千姫って呼んで下さいな★
25年生まれの長男ひーちゃんと、去年末に産まれたくーくとの
日々をつづっています。時々創作もしますよ~
(電撃結婚の話については『千姫の恋』へ)

下の文章は長編小説『嵐の前の静けさ』の一部です。

前の文章を読みたい方は、メッセージボード からどうぞ☆

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第一章 


 「だーかーらー!」

どこからか、女性の怒鳴り声が聞こえてきた。

談笑していた椎那たちは、その声がした方に一斉に振り向いた。

その声は食料庫に近い門の方から聞こえてくるようだ。

食料庫はすぐ近くで、そこには常時兵士がいるはずだ。

耳を澄ますと、女性と男性がもめているらしい。

男性はおそらく、敬語で話しているから兵士だろう。

女性は誰だかわからない。首をかしげ考えるが、聞き覚えはなかった。

気になった椎那は、一人その声のする方へ歩き始めた。

カオスたちも椎那を追って歩き出した。

 食料庫が近くなれば近くなるほど、声は大きくなっていく。

女性の声は結構若い。自分たちとそんなに歳が変わらないだろう。

つまり二十前後の若々しい声だ。曲がり角を曲がると、もめている人たちが

見えた。やっぱり男性は兵士だった。兵士は二人いて、そのうち一人が

女性と口論をしている。もう一人は食料庫の前に立ったまま、成り行きを

傍観している。食料庫には大切なものが沢山保存されているので、

その場を離れられないのだ。女性も二人いて、一人が兵士と口論している。

やはり若く見える。多分二十歳ぐらいだろう。その後ろにいるもう一人の

女性は、口論をしている女性を止めようとしている。

「ですから、無理です」

兵士がさっきから何度も言っている言葉をまた言った。

「少しでいいと言ってるじゃない。一時間ぐらいでいいのよ」

女性もまた同じ言葉を言った。兵士が無言で首を振り、頭を下げる。

「この雨の中、歩いて帰れというの!」

女性は食料庫の隣にある出入り口の外を指差していった。

「それはそうですが、皇居内に入れられません」

兵士は頭を下げたまま、太い声で答える。

これもまたさっきから何度も言っている言葉だ。

「少し雨宿りさせてって、言ってるだけでしょ!」

女性がまた大きな声で、怒鳴るように言った。

兵士は頭を下げたままため息をついた。

さっきから、ずっとこの繰り返しなのだろう。

椎那はそんな二人の口論を聞きながら、ぼそっと呟くように言った。

「雨宿り、させてあげれば」

いつもと変わらぬ小さな声だったが、怒鳴る女性にも、兵士にも聞こえた

ようで、二人とも一斉に椎那の方を見た。そして二人同時に聞き返した。

「雨宿りさせてあげればって言ったの」

椎那はまた同じ言葉を繰り返した。女性が嬉しそうな顔をする。

「ほら、その子も言ってるじゃない!雨宿り」

「子とは失礼な!」

女性の嬉しそうな声に、兵士の怒鳴り声が重なった。

女性はその声に驚いて、怯む。

「この方は特別特攻隊隊長、椎那様であられるぞ」

兵士が椎那の位をはっきりとした声で説明する。女性は驚いて絶句する。

特別特攻隊がこの頃の戦を勝ちに導いているという噂は、皇居内だけなく

街中にも広まっていた。だが、特別特攻隊は表に出ることはあまりなく、

誰もその隊長がわずか十六歳の少女とは思わないだろう。

「ねえ、そんなんは別にいいよ」

女性をさらに叱ろうとしていた兵士を、椎那が素早く止める。

椎那は位のことで驚かれることは日常茶飯事なので、全く気にも留めない。

「あたし、別に気にしてないから。それより、雨宿りさせてあげれば」

椎那は花のような笑みを浮かべたまま、鈴のようなかわいい声で続けた。

「ですが…」

兵士は椎那の後ろに立つ、カオスやエースに気がついて、助言を求めるような

眼差しを向けた。目が合ったカオスは一番発言力の高い、エースの方を見る。

エースはその視線に気がついているのかいないのか、そっぽを向いている。

そのまま、誰もしゃべらなかった。

「というか、泊まらせてあげた方がいいと思うよ」

椎那は一人、出入り口のところまで行き、空を見上げながら言った。

その言葉にまた兵士と女性は驚きの声をあげ、聞き返した。

「だって、この嵐今夜が峠だから、これからもっとひどくなるよ」

兵士たちの方に降り返り、椎那が言葉を続ける。

「しかし…」

兵士はまた不満げに反論しようとするが、どう反論すればいいかわからず、

口詰まった。椎那が天気を読む事が上手く、それが滅多に外れないことは、

兵士も知っていたが、自分ひとりでは決めることはできない。

できれば、椎那の言う通り泊まらせてあげたいが、それもまた決められない。

「ねえ、エース様。いいでしょ?」

椎那はエースの隣に行き、服をひっぱって幼子のようにねだった。

そっぽを向いていたエースはため息をつきながら、椎那の方を見た。

その瞬間、怒ろうとして気持ちがどこかに行ってしまった。

椎那のかわいらしい紅い瞳に見つめられて、エースは口詰まる。

後先のことを考えずに椎那の言う通りにしたかった。たとえどんなことでも。

いいよと、言おうとした矢先、

「しかしな、椎那。見ず知らずの奴を皇居に入れるわけにはいかないだろ」

そう、カオスが口をはさんだ。

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ワンシーンが長くて、何回も切らないと掲載できないんだよねー

これすごい読みにくいな。でも仕方ないんだよね。