「たまごはアンダンテに」 第2話 ドラマ用シナリオ (青帽子のせいさん) | seishimonのひとりごと

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日々のできごと、思うこと。せいさん(兄)と赤メガネのせいちゃん(妹)の共有のほほんseishimonブログです。





○貴美子の下宿先(夜)


  玄関すぐの廊下に赤電話が置いてある。
  その斜め前が貴美子の部屋である。
  赤電話が鳴り出す。
  ──一回…二回……五回目に一号室の部屋のドアが開いて貴美子が出て来る。

貴美子「(受話器を取る)……はい若葉荘で ございます」
陽子の声「……あっ、貴美子!?」
貴美子「あっ陽子!」
陽子の声「(くすくす笑い)もう寝てたんでしょう?貴美子のことだから」
貴美子「ううん。まだ起きてたの。いろいろと、まだやることが残ってて」
陽子の声「そう」
貴美子「うん。……ところで何?」
陽子の声「……実はね、明日がオーディションの予選なのよ………で、明日勝に会ったらさ、授業出れないって伝えてほしいわけ……それがねえ、勝の奴と連絡つかなくってさあ」
貴美子「勝君に会ったら陽子から伝言あったと言えばいいのよね?明日そう伝えとく」
陽子の声「うん、頼んだわよ。それじゃあ。よろしくねぇ。おやすみ~」
貴美子「……うん。じゃあ明日頑張ってね。おやすみなさい(受話器を置く)」


○川井のマンション・入り口(続き)


  直樹がしゃがんだまま時計を見る。
  約束の時間は当の昔に過ぎている。
  あたりは、ひっそりと静まり返っている。
  たまに、車の音が聞こえるくらいである。
  そうしているうちに。
  笑い声が聞こえてくる。
  直樹、すくっと立ち上がり、近づいて来る笑い声の方を向いている。
  すると──路上の方から声の主が近づいて来る。酔ったアベックのようである。
  それは若い女性を連れた川井である。
  川井が連れている女性は、担当番組の制作会社のユミ(吉田由美/24才)である。

直樹「先生、こんばんは!」
川井「おおっ、直樹!だいぶん待っていただろう。悪かったな。実は仕事の打ち合わせが長引いちゃってね。あっ、とにかく部屋の中に入って(ドアの鍵をかける)」
直樹「先生!陣内君は今日連れてきませんでした。用事があったみたいですから……」
  川井たちの後に続いて入る。


○川井のマンション・室内(続)


   室内はワンルームである。ごちゃごちゃと雑然としている。


川井「おっ遠慮なく上がってくれ。ひと部屋だから狭いけどな。まあ上がれよ」
ユミ「おじゃましま~す……すごいわねえ(しかめっ面で)」
川井「なにが?」
ユミ「このちらかりよう。たまには掃除しているの?(初めて来たらしくびっくりしている様子)」

直樹、玄関に立っている。

川井「お~い、直樹(親しげに)そんな所に立ってないで早く上がれ(手招きする)」
直樹「失礼します!(一礼)」

 

 上がると、あたりを見回している。



川井「こっちに来て、座れや。一応お互いに紹介しとこうかな。こっちの彼女は~今担当している制作会社の吉田由美君。えーと、こっちは教えている学校の生徒で一 群直樹君だ。ユミには、さっき話をしただろう。直樹はいいセンスしてるんだよなあ」
ユミ「ナオキ君も演出めざしてんの?」
直樹「はい。できれば映像関係の演出をやりたいと思っています」
川井「うんうん(満足そうに)さて!出会いを祝ってパーっと飲もう(戸棚から洋酒を持 って来る)ユミっ、台所からコップと、つまみになる物を持って来て」
ユミ「(台所に行き)コップ二つしかないわよ。あとは、コーヒーカップでいいかしら?(コップを洗いながら)」
川井「適当でいいから、早くもって来てよ」
直樹「先生、俺バイクで来てるから……」
川井「ナオキ、堅い事言うな!若い者が酒ぐらいビクついてどうするんだ!今日は泊まっていけばいいじゃないか!な!?(直樹の肩をたたく)」
ユミ「おまたせぇ(つまみとコップを持って 来る。回りを見る)トランプかなんか遊ぶ 物、置いてないの?」
川井「ん?カードなら、そこんとこ(指指す)」
ユミ「(指差した所を見る)あった。あった。みんなでトランプやろうよ!」
川井「その前に、みんなでグラスを待って乾杯といこうぜ(率先してグラスを持つ)」
ユミ「はい(グラスを持つ)ナオキ君も!」
直樹「……(成り行きでグラスを持つ)」
川井「では、乾杯~!」
ユミ「かんぱ~い」
直樹「……カンパイ!」
ユミ「早くトランプやろうよ~!」

  三人、飲みながらトランプをし始める。


○貴美子の下宿先・表(続)


   貴美子の部屋だけ明かりが灯っている。


○陣内貴美子に下宿先・部屋(続)


  部屋の中は、きちんと整理してある。
  貴美子、課題のシナリオを机に向かって、黙々と鉛筆で書いている。


○川井広幸のマンション・室内(続)


 80年代のディスコ・ソングがガンガンと流れている。
  三人(川井、ユミ、直樹)トランプに飽きてきたようである。ボトルが空になって転がっている。

ユミ「ねえ……(あくび)もう、そろそろお開きにしない?」
川井「そうだな。つまみも無くなったし……おい、罰ゲームしようぜ。ビリの奴が、みんなにキスをするってのは、どうだい!?」
直樹「いいですね~、それ(酔いがまわり、つい本音を口走る)」
ユミ「え~私が一番ビリよ。なんでぇ」
川井「直樹も賛成のようだから多数決で決まり。一番の奴とはディープキッス三十秒間は、すること。それでいいな!ユミ本番いくよ。よ~い!スタート!」
ユミ「やるの~ほんとに~じゃあ……(川井にもたれかかるとチュッと軽く唇を合わせ る)……はい終わり!」
川井「ユミ!今度はナオキに三十秒舌を入れて絡むんだ。ナオキ用意しろ!」
直樹「俺は(ひいて)……やっぱり遠慮しますよ」
川井「男だろう!ADになりたいんだろう?だったら早くやれ!」
ユミ「もう。この人は言い出したら聞かないんだから。さ、ナオキ君、早く終わりましょう」
 

 ユミは直樹にもたれかかって目を閉じる。


川井「よしっ!本番いくぞよ~い・スタート」
直樹「……(とまどっている)」
ユミ「(ユミの方から唇を合わせてくる)」
川井「もっと気分を出して!ディープキス」
直樹「……(じっとしている)」
ユミ「(直樹に舌をからめてくる)」
川井「いいぞぉ!ユミその調子!」
直樹「(……心地酔い気分の中で貴美子の事を思い出していた)」
×     ×
フラッシュ。
  貴美子の顔。
     ×     ×
川井「ハーイっ!カーットッ!」
ユミ「(直樹から離れて)シャワー浴びていい?(川井に訊く)」
川井「ああ、いいよ。ボイラーのスイッチは壁の横に付いているから(指差す)」

  ユミはバスルームに向かう。

川井「ナオキ!よかっただろう。ユミはなんせ元女子大AVギャルなんだもんで、テク が違う、テクが!ハハハハッ!!」


○同マンション・バスルーム(続)


  シャワーを浴びているユミ。
  首筋から胸元にすべる右手。
  あたりを見回すユミ。

ユミ「シャンプーさあ~どこにあるの?」
川井の声「切れてるから石鹸使っといてよ」
ユミ「ヒエー!驚いた。シャンプーも無いの」


○同マンション・室内(続)


川井「ナオキ来てよかっただろう。だいたいディレクターの仕事を本気でやろうと思っ てるのなら女を自由に扱いきれないとだめだな。金のとれるディレクターになりたい なら、女を多くこなせ。女が金持ちに集まってくるんじゃなくて、女を自由に扱える男になると自然に金もとれるようになる(尻を上げてブッ!と放屁)」
直樹「……(うつむいている)」
×     ×
フラッシュ。
理想を熱く語る川井。

川井「……アフリカへ難民ロケに行った時に メディアの無力さと己の無力さを感じた。 (うっすら涙を浮かべている)わかるか?」
×     ×
川井「ナオキ、もぉ寝ろ(酒臭い息を直樹に吹きかける)ハウッ~!」
直樹「……(端にあった毛布を頭から被る)」
ユミ「もうみんな休んだの?あれえ。なんか~臭い~」
川井「ナオキはもう寝た。こっち来いよ」
ユミ「だめだって、起きるわよ。ナオキ君」
川井「(ユミに無理やりおおいかぶさる)」
ユミ「だめ!今日は!(拒んでいる)」
川井「だいじょうぶだって!」
ユミ「いやよ!あっ!あっ!だめだって。ナオキ君おきちゃうよ(小声で)あっ!」

  川井とユミがいちゃいちゃ絡み始める。
  すると暗闇の中で直樹が勢いよく起き上がる。

直樹「先生!ADの話し無かったことにしてください!俺帰ります!(去る)」
川井「……そうか」
ユミ「……」



  バイクのエンジンが掛かる音。
  暗闇の中、バイクの音が遠ざかっていく。


                                         (続く)



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