瓜子姫(とアマノジャク) | 不思議なことはあったほうがいい
(一)

瓜子姫の物語は桃太郎の女の子バージョンだといわれる。ホントかな?はてなマーク

ストーリーを分割してみる。


①生まれ…子の無い爺・婆のもとに瓜が流れてくる (妙な形のキュウリが採れる)。中から小さい女の子 (包丁で切ると‥、落っこちて割れる‥、熟れて弾ける)。そして、瓜子姫はわずかのうちに成長する。

②特技…瓜子姫は機織が得意だ。(この機織のギ音が種々快いが、後にアマノジャクとの区別の指標ともなる)

③事件発生…嫁入り準備のため (坊さんの話を聞きに) 爺・婆が買い物に行く。「機屋を開けてはいけないよ」 (「二階から降りてはいけないよ」) ……ところが、アマノジャク (鬼婆・山姥) が言葉巧みに戸を開けさせる (指一本づつ開けさせる)。 瓜子姫は食い殺される(東日本)、柿の木に縛り付けられる(西日本)

④事件展開…アマノジャクは姫になりすます (姫にとり憑く…姫の皮をはいでかぶる…)、だけど機織はメチャクチャだ。 (その他、下品な振る舞い、飯をいっぱい食う)

⑤事件解決…鳥が鳴いて正体を報せる。アマノジャクは殺される (バラバラにされる)、その血がついて蕎麦の茎が赤い (萱が赤い)。



と、いうわけで、たしかに生まれ・育ち方は性別を男にすれば、たしかに桃太郎である。でも、桃太郎は男の子なので「機織」はしない。代わりに鬼退治をする。結果、宝を盗って帰り、爺婆を富ませる。


 古く神祀りには男女で役割がきまっていて、新嘗祭では男(天皇)が稲植えを担当し、女(皇后)が布を献じた。そういえば養蚕が広ったはじまり・桑の栽培奨励は雄略天皇が后・妃たちに薦めたのがきっかけだそうな(このとき「蚕(コ)を集めよ」と言ったのを小子部スガルが「児(コ)」と勘違いして子供を集めるという有名なエピソードがあった)。

 女と服飾は、男とのそれより深いのだ。


 で、薬狩り(→「鹿茸 」)では、男子は鹿を狩り、女性は薬草を摘んだのだというが、狩りは弓矢を手にするだけあって直接、戦争を予感させる。じっさい記紀では、狩りの際にテロルが行われたり(雄略天皇が即位前に実力者・市辺押磐皇子を鹿狩りに誘い出して射殺)、狩りをするとみせかけて戦争の準備をする(物部守屋が穴穂部皇子と狩りに行くふりをして兵を挙げようとした(→「捕鳥部万 」)などキナくさいエピソードもある。……時代がグーンと下るが、平将門なども常総の牧場で演習を行っていたんだろうなあ。

 だから、昔話でもオトコノコは戦いをし、オンナノコは機を織るというのが役割なのだ。
 

 ところで、

 誕生譚の瓜・桃を竹にすれば、まるでかぐや姫である(「海道記」では鶯の卵から生まれる)。

 かぐや姫はお姫様なので、機織(労働)はしないが、眷属の竹に小金が涌いて、爺婆を富ませる。結婚申し込みに公達が殺到、難問をつきつけてこれを拒む。月の使者に対し、「塗籠」に入れられて守られる。けども、かぐや姫は月に昇る。かぐや姫の残した不死の薬を焼いたのが富士山の煙だ。

 

 卵から生まれ、藪で再生すれば、以前やった「猴聖 」である (成長しても身体は不具だが)

 お経が得意である。国分寺の僧らが陵辱する、が神人によって助けられ、やがて著名な僧達をもギャフンといわせる尼となる。

 似たような話でアイヌの「マリリンコ姫」はホタテ貝から生まれて、身体まん丸だが、あらゆる衣装を自分の体形にあわせることができる。村人のアイドルになるが、祖先の国へと飛び立ってしまう。

 

 生まれ・育ちは異常だが、それぞれ得意分野があって、結局はその得意分野で大成する。

 「花咲爺さん」の犬はじつは桃に入ってやってきたとか、婆さんの指とか脛から生まれた「一寸法師」族の仲間とか、異常な出生をすることはヒーローの条件である。

 さすがに時代が下るとそんなこともいてられないので、フツウにママから生まれはするが、神仏に祈ったおかげだったりする。長谷の十一面観音によって「百合若」や「さよ姫」(→「壷坂霊験記 」)、鞍馬の毘沙門天から「小栗判官」(→「鬼鹿毛 」)、熊野権現から「明石三郎」、清水の観音様から「信徳丸」、鳳来寺・峰の薬師から「浄瑠璃姫」……。

 さらに下ると、山姥に預けられていた子(金太郎 )とか、天狗のもとに修行した子(牛若)とか、幽霊・精霊が一生懸命育てた子(「夜泣き石 」「飴買幽霊」「竜の子太郎」‥)とか、とにかく、人となるまでに異界の洗礼を受けておる。

 これは以前、葛の葉 の「童子丸=晴明」のところで考えたように、自分たちと違う能力や成功をおさめた人にたいして”神仏や精霊がついているのならばしかたがない、瓜や桃から生まれたのだから特殊でもしかたがない。俺たちは生まれも育ちもフツーなんだからしょうがない”的な<庶民>のアキラメが創りだした属性なのではかろうか?? サミシ(ДT)


(二)


 ところで瓜子姫ストーリーは、後半のハードな展開がキモである。

 アマノジャク(天邪鬼)による誘惑と襲撃。


 これまでたびたび触れてきた、スサノヲの高天原での大暴れ物語がきになる。


 天の安河での誓約(→「宗像三女神 」)に、自称「勝利」したスサノヲは、調子に乗って大暴れする。

このときの大暴れで犯した行為が、中臣祓で「天つ罪」といわれるもので、「毀畦(アナハチ=畦を壊す)」「埋溝(ミゾウミ=水路を埋める)」「放樋(ヒハナチ=水取の樋を壊す)」「重播(シキマキ=他人の畑に種を蒔く)「刺串(クシサシ=他人の田に串をさして奪う)」「生剥(イケハギ)」「逆剥(サカハギ)」「屎戸(クソヘ)」。

 「古事記」では

「天照大神の営田(ツクダ)の畦を離ち、その溝を埋め、またその大嘗を聞こしめす殿に屎まり散らしき」…でも天照は怒らなかった。ところが「天照大神、忌服屋に坐して、神御衣織らしめたまひし時、その服屋の頂を穿ち、天の斑馬(ブチコマ)を逆剥ぎに剥ぎて墜し入るる時に、天の服織女、見驚きて、梭(ヒ)に陰上(ホト)を衝きて死にき」…これでブチ切れた天照は天岩戸に篭ってしまった、と。

 ちなみに「日本書記」の本文では、

「素戔鳴尊、春は重播種子し、且た、畦毀す。秋は天斑駒を放ちて田の中に伏す。復、天照大神の新嘗しめす時をみて、則ちヒソカに新宮にクソまる。又、天照大神の、方(ミカザリ)に神衣を織りつつ、斉服殿に居しますを見て、即ち天斑駒を剥ぎて、殿の甍を穿ちて投げ納る。是時に、天照大神、驚動きたまひて、梭を以って身を傷ましむ。」…となっていて、天照じしんが傷ついたとなっており、また、一書では、

稚日女尊(ワカヒルメのミコト)、斉服殿に坐して、神之御服織りたまふ。素戔鳴尊、見して、則ち斑駒を逆剥ぎて、殿の内に投げ入る。稚日女尊、乃ち驚きたまひて、機より墜ちて、持たる梭を以って体を傷らしめて、神退りましぬ」…ということで、稚日女尊という人(神?)が死んでしまう。天照の別名だとも、天照が「大日孁(オホヒルメ)」と呼ばれたので、つまり天照の妹なんだともいわれる。

 ちなみついでに一書のその二では、

「日神の織殿に居します時に、則ち斑駒を生剥にして、其の殿の内に納る。…然れども、日神、恩親(コノカミ・オトトムツマ)しき意にしてとがめたまはず」…で、この段階でも天照はまだガマンした。この伝で彼女がブチ切れるのはこのあとでウンコを塗られてからだ。

 

 この天つ罪の前半はあきらかな農作業への妨害、つまり天皇じしんの神祀行為への侵害でもあり、わかりやすい。が、後半の生剥、逆剥、屎戸は現実的な農業よりも、呪術的な意味、后の行為への侵害があるとおもわれる。

 排泄物のもつ意味は今後も継続して考えて行きたいのでオミットするが(とりあえずウンコの話は前回の→「野壷風呂 」)、馬を生剥・逆剥にするというのが変で、記紀の記述をスナオに年表化すれば、大昔、馬はまだ日本にいないはずだ(「天上にはいたのだ」という意見があるなら、説得力はないな。だったら天孫降臨のついでに馬もつれてゆけばよかったんだがそういう話はないし…)。

 日本で例があるかどうかパッと思い浮かばないけれど、いやがらせで犬猫の死体なんかを他人の家に投げ入れるという話を聞いたことはある。頭骨などを境界に掛けておいたり、イワシの頭ってちょっとしょぼいのもあるが、そうやって動物を残酷に扱う呪術があったのかもしれない。

 けれど、後年の人(記紀の・あるいはそれ以前の記録者)が、ナニかを「馬」に象徴させたんじゃなかろうか、わざわざ象徴させるのは、ズバリと書きにくいモノなのではないか‥‥? とも考えられる。

 

 機屋に篭る乙女、すなわち、愛しても手に触れては成らない「花妻」に向かって「ムケル」「ホトツク」モノって‥‥オイ、またかよ。A=´、`=)ゞ
 いや、そうなると、戸の隙間からじわりじわりと挿入されたのもアマンジャクの鋭い爪というよりも、「太陽の季節」で障子をブチ破ったようなモノではなかったか、「オシラサマ 」伝説に馬と蚕の奇妙な関連もナニがそこにあったのか、馬の首を切ったとか、皮を剥いだとかはすなわち、ソレを切断して、悪さができないようにしたという‥‥機織乙女がその愛人のモノを阿部定みたいに、自分の織った布にくるんで大事に保管していたのが、やがて神格化されて……暴走。また奥さんにシカラレチャウ!!

 あるいは、そうした狼藉者にたいして、心意気をみせた機織乙女が自傷することで、侵入者にまず汚されることを防衛したのだともとれる。(先の穴穂部皇子が推古天皇の篭るモガリ屋に侵入したときのような…?)


(三)

 

 ところで、アマノジャクが「女」だと表現される話や、また、単に「鬼婆」といわれる場合もある。これは生育と能力からして完璧に近いヒロインの座を奪い取ろうという同姓の存在とも考えられる。

 アマノジャクという妖怪については、スサノヲの娘の邪悪なアマノザコ姫だという話や、仏教の四天王に踏み潰されている連中・邪鬼との関連とか、ザシキワラシのひねくれ版だったりする話もあったりとかあるので、そっちの話は、またいつか改めたいが、問題は、どうして瓜子姫物語で出てくるのがコイツなのかということで。

アマノジャクの正体の一つとして、よくいわれるのが、アメワカヒコに余計な口出しをして、お使いの雉を射殺させた「天探女(アマノサグメ)」がある。(→「哭き婆 」)


 

 「万葉集」巻三

「ひさかたの天探女が石船の泊てし高津は浅せにけるかも」。角麻呂という人のうた。

(エ!! つの丸!?ではなく「津の丸」であろ)

 これは「摂津国風土記・逸文」=「続歌林良材集」)に「難波高津は、天稚彦、天下りし時、天稚彦に屬て下れる神、天探女、磐舟に乘て爰に至る。天磐船の泊る故を以て、高津と號すと云々」との伝もあり、なんだ、天探女は、アメワカヒコのもとからの家来なんだ。

 しかし、ただのハシタメではない。慎重にしていれば、雉が天神からの使いだってことぐらいわかったはず。それをしないで、彼女の謂に従ったってことは、天高原にいるときからアメワカヒコにいろいろ助言をあたえたりした専属占い師(細木数子サンみたいな?)だったに違いない。

 あるいは「日本書紀」では国ツ神とされているから、ひょっとしたら下照姫ゾッコンの彼を快く思わない奴(たとえばタケミナカタ?)のスパイだったかもしれない。

 とにかく彼女が占い師ということは、巫女さん・機織姫と通じる存在である。


 つまり、アマノジャクが女だとしたら、アマノジャク=瓜子姫という、悪と善が一体のものであるという、そういうモノである可能性もある。(排泄物とか陽物とかのような…ヽ(`Д´)ノってまたソッチかよ!)


 アマノジャクと瓜子姫の背景に、違う神を信奉した勢力どおしの、その宗教者どおしの軋轢という事実が含まれているなんてこともあるのではないかと疑いたくなったのだ。

そして、それはまた男の子の場合も同様で、見方を変えれば桃太郎=鬼という構図も成り立つのだった。


 桃太郎つながり→「吉備津の釜 」、「キビダンゴ 」 

 機織つながり→「鶴女房 」、「機織淵 」