今回から「バブル期に登場した鉄道車両」を取り上げるシリーズを開始します。
タイトルは「鉄路の『バブルの帝王』列伝」。元ネタはノンフィクション作家・大下栄治さんのドキュメンタリー・ノベル「バブルの帝王」です。それをちょっと改変しました。

実は以前には、この連載のタイトルとして「バブルカー列伝」を考えておりました。
「バブルカー」とは、勿論「バブル期に登場した鉄道車両」という意味のつもりだったのですが、その後「バブルカー」なる言葉には、別の意味があることに管理人が気づきました。管理人がネットで「バブルカー」を検索したところ、Wikiには「超小型自動車の一種。小さな車体に対するキャノピーの大きさがバブル(泡)を連想させるため、こう呼ばれる。」とあったのを発見してしまいました(こちら)。
だとすると、「バブルカー」という言葉は、その意味からも不適切なため、別のタイトルに改めた、という次第です。

現在の視点から見ると、「バブルカー」…もとい「鉄道界のバブルの帝王」、即ちバブル期に登場した鉄道車両の特徴は、以下の点にあろうかと思われます。
なお、当連載で言うところの「バブル期」とは、所謂「ジョイフルトレイン」の嚆矢である「サロンエクスプレス東京」が出現した昭和58(1983)年から、景気後退が鮮明になった年の前年の平成4(1992)年までと定義し、当連載で取り上げる車両は、この間に落成・就役した車両とします。
とにかくこのころは、日本中があたかも熱病に浮かされたかの如く、イケイケな雰囲気が充満していました。金曜・土曜や祭日の前日の繁華街では、タクシーが捕まらないのが常識だった時代。株価も、投資熱も高く、やれ「株で何億儲かった」だの、「土地が何億で売れた」だの、いつもどこかで景気のいい話が交わされていました。勿論、鉄道車両にもそのような世相が十二分に反映されています。
ただし、「ジョイフルトレイン」に関しては、その列車が日常輸送を担うものではなく、誰でも乗れるという機会の均等性もない(なかった)ことから、当連載では対象外とします。勿論、前述したJR東日本の251系のように、観光色の強い車両もあるため線引きは難しいですが、前記「ジョイフルトレイン」については、当連載では「毎日運転の定期列車に充当された実績が無い旅客車両」と定義し、この定義に当てはまる車両は対象外とします。
とはいえ、「サロンエクスプレス東京」に端を発し、その後雨後の筍のごとく大増殖したジョイフルトレインのコンセプトは、「乗ることそのものを楽しむ」というものでしたから、それまでの鉄道にはなかった楽しみ方を持ち込んだ点に、ジョイフルトレインには大きな歴史的意義があります。そして、そのジョイフルトレインのコンセプトが、これら「バブル期に登場した鉄道車両」に色濃く反映されている、ということは言えます。その点に関する歴史的評価は、公正に下さなければならないでしょう。

1 豪華仕様化
この時代の特徴ですが、とにかく豪華に、車両をゴージャスに作ろうという意識ないし傾向が強かったように思われます。この傾向は特に国鉄~JR各社で顕著でしたが、その理由はやはり、民営化前夜の国鉄が、改めて「商品としての列車」を見直し、それに高い付加価値をつけようという目論見があったことや、改組後のJR各社がその目論見を受け継ぎ、より魅力的な商品を提供しようという意識があったことが理由といえます。
この方向の車両は、

① 優等車の豪華仕様化
② 2階建て構造の採用
③ 個室の採用

に特徴がありました。
これらを全て兼ね備えたのが、言うまでもなく東海道・山陽新幹線の100系X編成とJR東日本の251系「スーパービュー踊り子」ですが、①はJR北海道やJR九州の新型特急列車などに、②はJR東海の371系と同社との相互乗り入れ協定に基づいて製造された小田急の20000形RSE車、③は「北斗星」などブルトレに多く見られました。
あるいは、それまでモノクラス制だった鉄道事業者が、優等車の採用をした事例もあり、小田急の他に近鉄などがあります。
以上は有料特急用の車両ですが、エクストラチャージを徴収しない鉄道事業者でも、従来車以上に豪華な仕様の車両を投入した例もあります(名鉄、西鉄、京阪など)。これらは、豪華仕様なのもそうですが、これまで以上に意欲的な設計を取り入れた例とも言えます。勿論、意欲的な設計というのであれば、特急その他優等列車用に限ったことではなく、通勤電車にもその影響は見られます(東急9000系、営団(当時)06・07系など)。

2 観光用に特化
この時期には、観光用に特化された車両というのも数多く輩出されました。所謂「ジョイフルトレイン」以外でも、伊豆急の「リゾート21」とか、名鉄の「パノラマDX」など。JR東日本の251系、JR西日本の「マリンライナー」用の展望グリーン車などもこの範疇に入るでしょう。これらは国鉄~JRよりも、民鉄や旧国鉄の特定地方交通線を承継した第三セクター鉄道に、多くそのような車両が登場したように思われます。

3 車内サービスの充実
上記のとおり「乗ることそのものを商品化する」というコンセプトが色濃く反映された結果として、所謂ジョイフルトレインでなくとも、車内サービスなどの充実を図った車両が多いことが指摘できます。
列車内に供食設備その他気分転換のためのスペースを設けたり(新幹線100系・JR九州787系など)、車内での映像・音響サービスを充実させたりと(JR各社のグリーン車など)、国鉄時代にはなかった傾向でした。
この時代の車両の特徴として、車内での映像・音響サービスが充実していたことですが、これは航空機における機内エンターテインメントサービスや、当時進境著しかった都市間高速バスにマルチステレオを備え音楽サービスを提供する事業者が多かったことなどから、これら競合交通機関との対抗上、充実を図ったことが理由と思われます。

以上が、「バブル期に登場した鉄道車両」に関する「総論」的な論評です。
次回から、今回明らかにした定義と特徴に則って、この時期に登場した鉄道車両の特徴を見ていく「各論」といたします。

-その2(№3148.)に続く-