今回は「中央リニア」開業後の東海道新幹線がどうなるかについて、論じてみたいと思います。

まず、そもそもの問題として、「『中央リニア』は果たして必要なのか?」という根本的な疑問が呈されることがあります。その内容も多岐にわたり、まず

そもそも中央リニア(中央新幹線)自体必要か否か

で肯定(1)、否定(2)に分かれます。
肯定派は、日本の技術革新のためにリニアが必要という論拠が最も有力と思われますが(1-a)、中央新幹線自体の必要性を肯定するとしても、リニアである必要はなく、従来型新幹線の方が良いとする考え方もあります(1-b)。
これに対して、否定派は、東海道新幹線で十分であるというものと(2-c)、他の整備新幹線(北陸新幹線や北海道新幹線など)を早く作った方がいいというもの(2-d)、電力供給に不安がある中、大きな電力を食うリニアは問題があるというもの(2-e)、国土の均衡ある発展に問題がある(東京一極集中が加速する)というもの(2-f)、少子高齢化により人口が減少する中、安定した需要が見込めないのではというもの(2-g)など、その論拠は多岐にわたります。この立場も、必ずしもリニアという「技術開発・実用化」そのものを否定しているわけではありません。
管理人自身の考えは、愛好家としては「夢」が見たい。だからリニアの建設は楽しみではあるのです。しかし、既存の新幹線システムと全く互換性が無いリニアシステムを新たに構築することは、鉄道としてのネットワークを構築する上では無駄が多いのではないか、という疑問もあります。そこで、「日本に」「今」必要かは疑問という、上記の1-bの考え方に近い立場を取っています。
ところで、リニアの技術開発を言うのであれば、外国で建設・運営してはという指摘もあり、それはもっともではあるのですが(現に安倍総理は米国に日本の超伝導リニアを売り込んでいるらしい)、やはり技術を輸出するのであれば、自国で実際に建設し運営しているという実績がないと、難しいのではないかと思われますので、そういう意味では「海外へのショーウインドー」としての超伝導リニアというのも、あっていいのではないか。そのように、管理人は考えています。

さて、「中央リニア」が名古屋まで開業すると、東海道新幹線はどうなるのか? 東海道新幹線が開業したときは、東海道在来線から昼行の特急列車が全廃され、都市間輸送の主役は新幹線に移りました。今度は、東京-名古屋の直通需要がリニアに移ることになりますので、東海道新幹線は「在来線」になってしまいます。
この点について、JR東海の幹部は、リニア列車の運賃・料金を現行「のぞみ」利用の700~1000円増しくらいまでに抑えること、リニア開業後は東海道新幹線における「のぞみ」の運転を止め、「ひかり」「こだま」の列車体系に戻すことなどを発表しています。
東京-名古屋間の速達需要の多数がリニアに移行することで、東海道新幹線にも輸送力のゆとりが生ずることになりますが、東海道新幹線には山陽方面への直通需要があります。現在は博多から「のぞみ」で東京まで達することが出来ますが、リニア開業後はどうなるのでしょうか。東京-博多間直通の「Wひかり」がまた復活するのか、名古屋折り返しの「のぞみ」あるいはそれに相当する列車を作るのか、その点も注目されます。
しかし、山陽区間は名古屋乗り換えが必須となったら、名古屋駅での乗り換えは大変でしょうね。なぜなら、リニアの名古屋駅は現名古屋駅直下とはいえかなりな大深度の地下に建設されることが確実ですから、乗り換えには10分以上はかかってしまうからです。恐らく、東京駅での京葉線以外の地上に到着する各線の列車から地下の総武快速に乗り継ぐくらいの時間がかかることになると思われますが、それでリニアの速達効果が減殺されてしまいます。さりとて在来の東海道新幹線に直通する列車を使うとすれば、現行の「のぞみ」より遅くなり、乗り換えの不便はないものの、航空機との競争力の低下の問題が生じることになってしまいます。
そう考えると、リニア開業時の「のぞみ」廃止は、山陽新幹線を運営するJR西日本が承服しない可能性もあり、この点には大いに注目したいところです。

リニアの車両は、それまでの試験車然とした車両から、営業運転を前提とした「L0系」が投入され、試験線で実験走行を繰り返していますが、先ごろ581km/hという世界記録を樹立しました。
東京-名古屋は所要45分。このくらいであれば、グリーン車・普通車の区別は不要ということなのか、JR東海の幹部はオール普通車のモノクラスにすることも発表していました。しかし、管理人はこの点も疑問なのですよ。いくら所要時間が短いとはいえ、一応は東海道ベルト地帯の都市間輸送を担うわけですから、やはりセレブリティを一般乗客から隔離するための優等設備というものは必要ではないでしょうか?それすらないというのでは、「時速500kmの通勤電車」と何が違うのかという話にもなりかねません。それなら、優等車がほとんどない私鉄の有料特急はどうなんだと言われそうですが、こちらは各社に就いて、その有料特急自体、あるいはその車両が優等車のように利用客から見られている点が異なります。流石にリニアをその論理に当てはめるのは無理があるような。とはいえ、優等車の起源は厳然たる階級社会である欧州ですから、「セレブリティの一般乗客からの隔離」のような発想は、ひょっとしたら日本人にはなじまないのかもしれません。

もうひとつの関心事は、リニアの列車の愛称がどうなるか。
まさか「のぞみ」を東海道新幹線から移植するとは思えないので、独自の愛称がつけられるのでしょう。有力と思われるのは「ふじ(富士)」。日本を代表する山、日本の最高峰の名前であり、日本最速の列車にはある意味ではふさわしい名前ですが、そもそもリニアから富士山は見えないので、その点に疑問があります。それか、9年前のブルトレ廃止でお蔵入りになった「あさかぜ(朝風)」か。あるいは「日出ずる国」日本を象徴する「ひので」とか。この辺は楽しく妄想を膨らませることにしましょう。

あと13年、中央リニアがどういう姿で開業するのか、その推移を見守りたいものです。

次回はいよいよ最終回。東海道新幹線の「次の50年」を展望します。

その32(№2933.)に続く

※ 当記事は11/05付の投稿とします。