その13(№2587.)から続く

2000年代に入ると、鉄道会社が導入する新型車両が、それまでの完全なオーダーメイドから、基本設計をもとに各会社・路線に特化した仕様を追加ないし変更する、レディメイドないしセミオーダーメイドの考え方が浸透し、その考え方に沿った車両が多数世に出るようになりました(通勤・近郊電車の標準仕様ガイドライン)。
その先鞭をつけたのは、言うまでもなくJR東日本の209系ですが、その後も日本車輌や日立製作所で、それぞれ仕様を標準化した車両が製造されます。前者は京王9000系列や京成3000系列など、後者は「A-Train」と呼ばれるもので、西武20000系や阪急9000系などがそれぞれ該当します。
東武が、30000系の次に導入した新車は、日立製作所の「A-Train」仕様でした。

その車両は、10連貫通編成の第1編成が平成16(2004)年に登場し、鉄道趣味界をあっと言わせました。なぜなら、通勤車初のアルミ車体、アルミ無塗装車体にカラーフィルムを貼り付けた風貌ですが、その色が30000系までのシックなマルーンではなく、鮮やかなオレンジ色だったからです。その他にも、窓を車端部の一部以外を固定式にした大きな側窓、集中式冷房装置の脇に鎮座する強制換気装置など、それまでの東武の車両とは全く異なる印象でした。
その車両は「50000系」と称し、第1編成が東上線用として森林公園検修区に配属されます。
50000系のその他のスペックは以下のとおり。

・前面は非貫通とし、大きな1枚窓として見通しに配慮。
・メカニックはVVVFインバーター制御。
・運転台にはワンハンドルマスコンを採用。
・側面の行先表示は、号車と種別+行先を交互に表示。
・車内にはLEDスクロール式の車内案内表示装置を搭載。
・座席を片持ち式にし、車内の清掃を容易化。

このように、それまでの車両とは一線を画する使用のため、乗務員の習熟期間が取られ、実際に営業運転に投入されたのは翌年の3月のダイヤ改正時です。
ただし、非貫通の前面は平成17(2005)年登場の第2編成で早くも変更され、助士席側に非常用貫通扉を設け、後の50050系・50070系と同じような顔立ちになっています。そのため、第1編成は50000系列唯一の非貫通前面となっています。
ただ、窓が大きくなって開放感が増したことや、静粛性や乗り心地が向上したことはいいのですが、問題は座席にありました。50000系列の座席は背もたれ・座面とも薄くぺったりしたもので座り心地が固く、しかも背もたれと座面の角度がおかしい(と管理人は思っている)ために、長時間座っているとお尻や腰が痛くなってくるという代物。このような座席は、同じ「日立A-train」である東京メトロの10000系でも見られ、利用者からの評判は惨憺たるものでした。そのためか、現在は50000系列の座席も、メトロ10000系ともども取り替えが進められています。50000系列の座席の背もたれや座面が取り替えられたのは、利用者からの評判が最悪だったのも勿論ありますが、もうひとつの理由は、薄い藤色だったため汚れが目立ちやすかったことです。現在は濃紺ベースの花柄で、汚れが目立たない色調になっています。同じ50000系でも、後期の増備車は最初から濃紺ベース花柄の椅子となっていて、座り心地も改善されています。私はこの座席を「極悪岩座席」と形容したことがありますが、他では「腰痛発生装置」などとも呼ばれているようですね(^_^;)

…それはさておき。

座席の問題を抱えていたものの、50000系列には、登場翌年の平成17(2005)年、早くも兄弟車が登場します。これが半蔵門線・東急田園都市線へ直通する50050系です。
基本的なスペックは50000系と同じですが、地下鉄直通を鑑み前面が貫通構造になったことと(非常用貫通扉がある)、車体幅を半蔵門線・田園都市線の車両限界に合わせ2770mmとしたことが異なります。
かくも早い置き換えとなった理由は、30000系が10連貫通編成ではなかったため運転台が編成の中間に来ること、その編成の中間の運転台が渋谷駅の最も混雑する出口への階段の間近に位置することで、東急や東京メトロに嫌われたことによります。
50050系は平成21(2009)年までに全18編成が出揃いますが、では30000系が直通列車の運用から全く退いたかといえばそうではなく、2編成だけ現在も直通運用に従事しています。その理由は、大型連休などに館林・太田方面への直通列車「フラワーエクスプレス」などを運転するためで、その直通列車に充当する編成と、有事の際の予備編成が各1編成、合計2編成が残されています。伊勢崎線の館林以北は10連が入れず6連が限界のため、分割できる編成が必要とされるためです。
50050系も、平成20(2008)年落成の第11編成以降から、同時期に落成した50090系の仕様を参考に一部仕様が変更されました。具体的には、座席を改善したこと、窓を一部以外開閉式にするなどです。
なお、50000系列は全てが10連貫通編成となっています。

平成19(2007)年になると、今度は副都心線開業やその後の東急東横線への直通運転を視野に、50070系が登場します。これも外観は50000系の第2編成以降とほぼ同一ですが、最大の特徴は前面と側面の行先表示を、これまでの3色LEDからフルカラーLEDに変更していることです。また、副都心線のホームドアに対応させるため、ドアの位置を揃える必要が生じ、そのために先頭車の全長が130mm伸びました。勿論、地下鉄線内のホームドア使用・ワンマン運転・ATOなどに対応しています。
50070系は平成20年までに5本、平成23(2011)年と翌年に各1本が増備され、現在は10連7本の体制となっています。

ところで、伊勢崎線・日光線と並ぶ東武の幹線である東上線には、平成16(2004)年現在、着席サービスを前提とした有料優等列車がありませんでした。これは、東上線沿線に大きな都市や観光地がないこと、純然たる通勤路線であることなどの要因がありましたが、その主たる顧客である通勤通学客から、夕刻の帰路の着席サービスを望む声が大きくなってきました。
これに関係するのか、かつて「りょうもう」を置き換えた際、捻出された1800系を東上線に持ってこようかという案もあったようですが、立ち消えになっています。
東武は、伊勢崎・日光線の有料優等列車とは全く異なる発想の列車を、東上線に走らせることになります。

-その15へ続く-

※ 11/13、本文一部訂正(該当箇所を削除しました)