東急の日比谷線直通列車を取り上げてきた本連載も、今回で最終回。いつものテーマだと、未来予想のようなもので締めるものですが、今回はその「未来」が残念ながらありません。

夏真っ盛りの平成24年7月24日、東急電鉄と東京メトロでプレスリリースが出ました。それは、東急東横線と東京メトロ副都心線との相互直通運転の開始日に関するものでした。注目された開始日は、平成24年の年内ではなく、年が明けた平成25年3月16日。年は跨いでしまいますが、一応「年度内」の実施ということにはなります。しかもこの日は土曜日。最近のダイヤ改正など大規模なダイヤや運転系統の変更は、混乱を避けるためか土曜日に実施されることが多くなっていますが、今回もその伝には漏れません。
それはいいのですが、東急・東京メトロ両者のリリースには、気になる一文が。

東横線・東京メトロ副都心線の相互直通運転にあわせ、現在東横線と相互直通運転を実施している日比谷線は中目黒を始発・終着駅とし、東横線は全列車渋谷方面行きとなります。

この一文に、鉄道趣味界は色めき立ちました。言うまでもなく、東急からの日比谷線直通列車を廃止するということだからです。

そもそも、副都心線との乗り入れ計画が具体化してからというもの、東急の日比谷線直通列車は、その存廃が絶えず注目され、鉄道趣味界の関心事になってきました。当ブログでも、日比谷線直通列車は果たしてどうなるのかをテーマに取り上げた記事を作成・後悔したこともあります。
当時の論調は、①直通廃止派、②直通存続派と分かれていて、②の直通存続派にはさらに、現行体制での存続派(②-a)、限定的な存続派(②-b)とが分かれていました。②-bの限定存続派の立場はさらに、具体的な存続の範囲によって分かれていました。いうまでもなく、①の論拠は「ダイヤが複雑になり過ぎるため、ダイヤ乱れの要因を取り除く」「利用率が低いので存続の価値がなくなった」こと、②の論拠は「朝夕のラッシュ時にはそれなりの利用客があり、もし廃止したら中目黒駅が危険な状態になる」ことなどでした。
当時の管理人は②のbにいう限定的存続派でした。理由は前記のとおりで、平日朝夕ラッシュ時のみに直通するのではないか、しかも東急車は使われなくなりメトロ車だけの片乗り入れになるのではないか、と予想していました。
もちろん、管理人の仕事場が日比谷線の沿線にあり、現在なお毎日通勤に日比谷線を利用していることから、「なくなってもらいたくない」「なくなられては困る」という、願望もあったのは事実です。

しかし実際には、廃止ということになってしまった。
その理由はやはり、ダイヤ乱れの要因の芽をひとつでも摘んでおきたいという考慮があることと、車両規格の異なる車両が乗り入れてくることはダイヤ構成上の桎梏になってしまうこと、そしてさらには直通利用客そのものの減少ということも指摘できようかと思います。
とはいえ、これらの問題は実は二次的なものだったのかもしれません。恐らく一番の要因は、多様な代替ルートの出現により、日比谷線直通列車のアドバンテージがなくなってしまったことでしょう。
東横線から日比谷線沿線の目的地へ向かうには、様々な代替ルートが出来上がってしまったことも、日比谷線直通列車の需要が減少した要因です。既に半蔵門線の開業で、人形町(水天宮前から至近)や茅場町(九段下乗り換え)へ達することができるようになっていますが、平成12(2000)年の目黒線とメトロ南北線・都営三田線の相互直通運転開始は、日比谷線直通列車の乗客を大きく減らすことになりました。メトロ南北線に関しては、経由地の違いなどもあり、ほとんど影響はありませんが(それでも溜池山王で銀座線に乗り換えれば、銀座や上野にはつながる)、痛かったのは都営三田線でしょう。霞ヶ関(内幸町が至近)と日比谷も目黒線~都営三田線で達することができ、東銀座・人形町も三田乗り換えで達することができます。
さらに一昨年のJR横須賀線・湘南新宿ライン武蔵小杉駅開設は、新橋・有楽町(日比谷・銀座が至近)・東京・秋葉原などへ達するルートを開きました。このルートの優位性は、何と言ってもJR1本であることによる運賃の安さ。これは、特に定期にした場合に大きく物を言うことから、これも日比谷線直通列車の需要減を招いたといえます。
さらに、東横線自体が副都心線とつながれば、明治神宮前で千代田線に乗り換えることで霞ヶ関・日比谷・北千住に達することができるようになります。
こうなってしまえば、無理をして日比谷線直通列車を維持する必要性は薄れてしまいます。

今日は11月27日。来年3月16日まで3カ月半ちょっとを残すまでになりました。この期間は、東急の象徴でもあった「蒲鉾」こと地上の渋谷駅の「余命」となるのもそうですが、日比谷線直通列車の「余命」ともなります。
最後の日、一体どうなるのでしょうか。管理人はできればこの日には休みを取って、1日張り付こうと思っていますが、最後の日までトラブルなく走り切ってほしいものです。

今回で本連載は終了です。お付き合いくださいましてありがとうございました。

※ 当記事は、以前に書き貯めた記事の自動公開です。